電子帳簿保存法におけるスキャナ保存制度導入の課題と、実務上の注意点

2005年に導入されたスキャナ保存制度。しかし、法的要件が厳しかったために導入する企業はほとんどありませんでした。2015、2016年に相次いで要件が緩和されたことを受けて2018年にはスキャナ保存の累計承認企業数が1,000件を突破。2019年にはさらに増加し、累計企業数は1,846件にのぼっています。

とはいえ、スキャナ保存制度が普及したとはとても言いがたいのが現状です。2016年における企業等の数は約385万件でしたが*、2019年も企業数にさほどの変動がないとすれば、スキャナ保存を活用している企業数は全体のわずか0.1%にも満たない状況です。

スキャナ保存制度の実務的な課題はどこにあるのでしょうか。経理担当者が運営する上で注意しておきたいことも含めて考えていきます。

*:平成28年経済センサス‐活動調査(確報)産業横断的集計より

 

2019年、スキャナ保存要件はここまで緩和された

電子帳簿保存法の改正が重なったことで、最新のスキャナ保存要件を追えていない人もいるかもしれません。2019年現在、電子帳簿保存法におけるスキャナ保存要件の概要は以下のようになっています。

・スキャナは原稿台(スキャナ台)と一体ではなくてもよいため、スマホでスキャンすることが可能となった
・国税関係書類の金額の基準が撤廃され、金額に関わらず全ての国税関係書類がスキャナ保存の対象となる
・電子署名は不要
・スキャンの読み取りはカラーではなくグレースケールでも良い
・A4サイズ以下の書類については、大きさの証明が不要となった
・小規模企業者(商業・サービス業は従業員5名以下・その他は従業員20名以下の企業者)については、税務代理人(税理士や税理士法人など)の定期検査を受けることでスキャナ保存制度の導入が可能
・取引の証明として重要性が低い一般書類については、過去に遡ってスキャナ保存が可能
・適正事務処理要件を満たすことが求められる

細かいルールは数多くあるものの、スキャナ保存の要件はここまで緩和されています。

 

スキャナ保存要件の課題

うまく運用が軌道に乗れば大きなメリットが見込めるスキャナ保存。メリットとしては、データ化することで検索が容易になる、大量の書類を保存するスペースが不要になるなどが考えられます。
ただ、こうしたメリットはあるものの、制度導入の大きな障壁となっているのが、導入コストやイニシャルコスト、人的コストなど、多方面でコストがかかることです。具体的な課題を見ていきましょう。

・イニシャルコスト・ランニングコスト
スキャナ保存は、単に書類をスキャンしてデータを保存すれば済むわけではありません。契約書や請求書、領収書などの重要な書類について原本を破棄することになるため、規制緩和されたとはいえ、データの正確性を担保するための法的要件は厳格に定められています。
例えば、スキャン時には、スキャナの解像度が200dpi以上あることが求められます。また、出力時には14インチ以上のディスプレイを備えたパソコンが必要となるほか、スキャンデータは4ポイントの大きさの文字を視認できなければなりません。
こうした法的要件は使用する機器やソフトウエアに依存するため、法的要件を満たす設備を揃えるイニシャルコストとして数十万円〜数百万円のコストがかかることが一般的です。
また、制度導入後にも、タイムスタンプ料金や保守料などのランニングコストが発生し続けます。こうしたコストが、スキャナ保存導入の課題の1つとなっています。

・社内フロー整備のための人的コスト
スキャナ保存に関する業務フローは明確に整備しておく必要があります。
スキャナ保存の際には、対象書類の作成者や受領者がスキャナ保存する場合と、上司や経理担当者などがチェックをした後でスキャナ保存する場合が考えられます。こうしたスキャナ保存作業やチェックは誰が行うのか、適正事務処理要件として求められる定期検査は誰が行うのかなど、どのようなフローを作ればスムーズに行くかは企業によって異なります。うまく運用を続けるためには、自社に合ったフローを考えて作成することが重要です。
さらに、経理以外の社員が「何かあれば経理に聞けば良い」「間違っても経理が対応してくれる」と考えて、スキャナ保存のルールについてあまり理解を深めないケースも考えられます。他部署の社員に対してはできるだけルールを簡素化し、絶対にしてはならない禁止事項(スキャンした原本をすぐに破棄しないなど)を明確にしておくことが重要です。こうしたルール作りに関する人的コストも1つの課題です。

・経理担当者に一時的に負荷がかかる
スキャナ保存制度を導入してしばらくは、現場が混乱することが予想されます。経理担当者は十分に制度やルールを理解し、他部署からの質問や相談にも対応できるようにしておく必要があります。
そうなると、経理担当者は通常業務に加えて他部署からの質問やミスの訂正対応などに追われることになるため、一時的に負荷がかかって業務効率が下がる可能性があります。
経理担当者は業務に遅れが生じないよう、繁忙期や1ヶ月の中での仕事量のバランスを考慮しながらスキャナ保存制度に対応していくことが求められます。また企業側としても、経理担当者に対して研修を実施するなどの教育コストがかかります。こうした教育コストや人的負荷も課題と言えるでしょう。スキャナ保存制度を導入するときには、これらの課題をクリアする必要があります。

 

経理担当者が知っておきたい運用上の注意

これまで見てきたとおり、スキャナ保存制度にはいろいろなコストがかかることが考えられます。そうしたコストの中でも、今回は特に経理担当者が負担する人的コストにフォーカスし、実際に制度を運用するにあたって経理担当者が押さえておきたい注意点を確認します。

・規制緩和後の制度を適用するためには、新たに申請が必要
スキャナ保存制度において特に大きな規制緩和となったのが、国税関係書類の金額の基準が撤廃されたことです。この規制緩和に合わせて、適正事務処理要件として定期検査が必要となりました。緩和と同時に厳格化された規制もあるわけです。
そのため、2015年までにスキャナ保存制度の申請を行っている企業であっても、規制緩和後の制度を活用してスキャナ保存を行うためには改めて申請を行わなければなりません。経理担当者は自社の承認申請の状況を把握しておきましょう。

・原本破棄のタイミングを間違えない
上記の通り、2015年に適正事務処理要件が導入されたことで、原本を破棄してよいタイミングが変わっています。
2015年9月30日以降にスキャナ保存制度の承認申請が行われた企業については、スキャナ保存・原本と照らし合わせて確認・タイムスタンプという流れになり、さらに第三者による定期検査が行われることになりました。そのため、原本は定期検査が終わるまで保管しておかなければなりません。
定期検査は「年に1回以上」とされているため、企業によっては1年間は原本を保管しておく必要があります。定期検査で不備が発覚したときに対応に困らないよう、定期検査前に原本を破棄しないように徹底しておきましょう。

・課題を共有し、一般化しておくことも大切
スキャナ保存を含む電子帳簿保存法は、今後も規制緩和などの改正が続くことが予想されます。現行の制度に適合した制度を活用するためにも、実務上で起きたトラブルや生じた疑問、改善点などは実務担当者個人で完結せず、部署で共有する姿勢も重要です。
退職や産休などで担当者が離脱しても後任者がスムーズに引き継いでいけるよう、部署内で課題を共有し、マニュアル化するなどの対策を取っておきましょう。

 

【補足】スキャナ保存作業に関する注意点

最後に、経理担当者が最低限押さえておきたい実務上の注意点として、スキャナ保存を対象書類の作成者や受領者がスマホやデジカメを使って行うときに起きやすいトラブルと対処法をご紹介します。

・受領者・作成者が3日以内にスキャナ保存できない場合の対処法
領収書や契約書、請求書などは各部署で作成することが多いため、作成者や受領者にスキャナ保存作業を担当させる企業もあるでしょう。この場合、原則として作成者または受領者が原本に署名の上、3日以内にスキャンする必要があります。
しかしこの「3日」は営業日ではなく暦の3日となっているため、仮に土日が休みの会社で金曜日に契約書を作成した場合、月曜日までにはスキャンしておかなければなりません。
この3日期限に間に合わない場合は、第三者がスキャンしたデータと原本と照らし合わせてデータの真正性をチェックすれば、3日という期限を越えても問題ありません。
ただ、この場合はA4サイズ以下の書類であったとしても、書類の大きさに関する情報を保存しなければならないので注意してください。

・スキャナ画像に不備があった場合の対処法
例えば社員が外出先でスマホを使って書類をスキャナ保存する時に起こりがちなのが、スマホのバージョンが古くて法的要件に合致しない・画像が粗い・ピンボケや影ができて読み取れない・画面から書類が一部はみ出しているなどの、スキャン画像の不備です。
こうしたスキャナ画像データの不備があった場合にはデータを訂正し、不備があったデータを削除することになりますが、削除や訂正の履歴が全て確認できることが必要です。不備があったデータに上書き保存をしないように注意が必要です。
また、こうした不備がそもそも起こらないよう、法的要件を満たすスマホやデジカメを使うように指導・管理する、スキャンのしかたやデータチェックのポイントを共有するなどの対応も必要になります。

規制緩和で利用しやすくなったスキャナ保存ですが、未だ普及しているとは言いがたいのが現状です。導入時にかかるコストや経理担当者への負荷などの課題はありますが、担当業務の区割りや業務フローを作成して実務が走り出してしまえば、手間やコストは軽減します。無理のない導入スケジュールを立てて業務効率化を図りましょう。

参考資料:いずれも国税庁
・電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】
・電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されました

 

 

ライタープロフィール

金子 千鶴代

金子 千鶴代

ステラワークス代表・ライター。 商業施設や飲食業界などで10年近く経理・総務に従事し、2016年からライターとして独立。 「難しいことをわかりやすく伝える」をモットーに、これまで法制度や行政、住宅や公的保険などのコンテンツを数多く執筆。