「カンタンだけどカンタンじゃない!?」、RPAの誤解を解く

 

RPAが成熟期を迎えつつある。

矢野総合研究所によれば、2017年度におけるRPA製品および関連サービスのマーケットは、178億円だったが、2020年度には666億円、2022年度には802.7億円まで成長すると予測している。

だが、実際にRPAを導入した企業の一部から、落胆の声が漏れ始めているのも事実だ。
ネット上を探せば、「思ったよりもカンタンじゃない」、「うまくいかない」、「使えない」と言った嘆きから、「失敗した」、「役に立たない」といった恨み節まで聞こえてくる始末だ。

勘違いしないで欲しいが、RPAで大きな成果を上げている企業も多数存在する。

では、RPAに幻滅してしまう企業と、RPAの恩恵を享受できる企業の差はどこにあるのだろうか?

 

 

「RPAはカンタン」という言葉が生み出す不幸

「PCを変えると、RPAは使えなくなりますから」

RPA導入を検討していたある会社は、ベンダーからこんなことを言われた。

「RPAって、そんなに不自由なものなのか?」

不審に思った同社の担当者は、RPAについて、自分なりに調べた。そして、件のベンダーが言っていることが、どうやら座標指定型インターフェイスのことを言っていることを突き止めた。
しかし、RPAの自動操作インターフェイスには、他にもUI識別型、画像認識型などがあり、またオブジェクトやタグなどの要素を指定することもできる。

「PCを変えるな!」ということは、おそらく解像度が変わることを懸念しているのであろう。
座標指定型インターフェイスだけでなく、他の方法も使えば、異なるPC間でも、同じロボットを使えるのではないか?

そう考えた担当者は、ベンダーに問い合わせてみた。
すると、実にシンプルな回答が返ってきた。

「止めといたほうが良いですよ。面倒くさいから」

 

「RPAはカンタンだって聞くから、導入を検討しているのに!?」

担当者は、混乱した。
いったい、どういうことなのか?

 

 

RPAを作成できるようになるためには

例えば、NOCアウトソーシング&コンサルティングにおいて、WinActorを使いこなすことができる人材を育成しようとすれば、2週間程度は必要だ。
もちろん、素人をゼロから育て上げるわけではない。SEとしての経験を積んだ者が対象である。

さらに言えば、RPAのSEとして活躍するためには、適性も必要だ。
RPAとは、クライアント企業内における業務をロボットに代替させるアプリケーションである。しかし、ロボットは、人と同じ動作や判断ができるわけではない。人が行っている業務を、ロボットが代替できるように変換する必要がある。そのため、RPAのSEには、論理的思考(ロジカルシンキング)能力が必須だ。

「いやいや、じゃあRPAって、全然カンタンではないよね!?」

ちょっと待って欲しい。そもそも「カンタン」とは、何を意味しているのであろう?
例えば、JAVAについて、一人前のSEを育てようとすれば、とてもこんな短期間では育たない。他のプログラム言語でも同様だ。乱暴な言い方をすれば、RPAのSEを育てるのは、「カンタン」と言えなくもない。

「RPAはカンタンだ」というフレーズの不幸は、「カンタン」の価値観が、人、もしくは立場や経験によって、異なる点にある。

 

 

自転車よりも、自動車のほうが便利な理由

突然だが、自転車と自動車は、どちらが便利だろうか?

・速い。
・遠くまで移動可能。
・大人数で移動できる。
・たくさんの荷物を運ぶことができる。
・悪天候でも移動可能。

他にもあるだろうが、多くの人は、自転車よりも自動車の方が便利だと言うだろう。

だが、考えて欲しい。
自動車には、運転免許が必要だ。しかも、運転免許を取得するには、合宿免許でも最短2週間程度必要だし、最低でも15万円から20万円程度の費用も掛かる。しかも、自動車を購入しようとすれば、中古車であって、数十万円の購入費用が飛んでいく。
対して、自転車には免許がない。ディスカウントストアなどでは、1万円台から格安自転車が販売されている。購入すれば、すぐに乗ることが可能だ。

圧倒的な初期投資の違いがあるのに、多くの人は、自動車のほうが便利だと言う。
これはなぜか?

答えは、投資対効果だ。
確かに、自転車を乗るための初期投資は、極めて低い。だが、初期投資は高くとも、圧倒的に自動車の方が機能性が高く、充実している。なんなら、ランニングコストも比較に加えても良い。
だから、皆が「自動車のほうが便利だ」と考えるのだ。

RPAも、自転車vs自動車の比較と同じである。
一般論ではあるが、ERPなどのシステム投資と比較すれば、RPAの投資対効果は極めて良い。これが、RPAが注目を集めている理由のひとつだ。

しかし、これは「RPAには初期投資が必要ない」ということではない。
RPAにも、初期投資は必要なのだ。

 

誰が言い始めたのか知らないが、「RPAはカンタン」という言葉がひとり歩きしていることは、とても不幸だと思う。

 

 

RPAときちんと向き合うために必要なこと

企業内で、RPAを活用するために必要なことは何か?
内製することを前提に、ポイントを挙げておこう。

 

①RPAで実現する業務の「ビフォー・アフター」を導き出すチカラ

RPA化したい業務があるとする。
現状(before)に対し、RPA化した後の業務(after)を設計しておくことは、とても大切である。当然、これはRPAを制作する前に行うべきことだ。

RPAは、ある業務の一部を担うものである。いきあたりばったりでRPA化を進めると、RPA化した業務は効率化されるものの、対象業務全体を診れば、効率が下がってしまうことだってありうる。

「RPAには論理的思考が必要だ」と既に申し上げたが、RPAで実現する業務の「ビフォー・アフター」を導き出すためにも、論理的思考は必要なのだ。

 

②RPAを使いこなすための教育

いまさら言うまでもないが、RPAを利用するためには、「教育を行う」、もしくは「教育を受ける」ことが必要だ。
ここで言う教育とは、RPAを利用し、ロボットを生み出すための教育であり、そしてRPAの正しい、もしくはあるべき姿を理解するための教育である。

特に後者は、RPAを利用し、関わるすべての人が、教育を受ける必要がある。RPAの特性を理解せずに、いたずらに高い要求を求めること、間違った要求を求めることは、RPAへの幻滅につながりかねないからである。

 

③作成したRPAに対し、運用フェーズでフォローし続ける覚悟

ロボットを作成した場合、制作工数と同じだけのテスト工数がかかると思ったほうが良い。
もちろん、設計フェーズでは予期し得なかった課題が、テスト時に顕在化することもある。しかし、最たる理由は、RPAは、概して環境変化に弱いからである。

同じことは、運用フェーズにも言える。いや、むしろ運用フェーズのほうが、課題は顕在化することが多いであろう。

RPAは、「作ったら終わり」ではない。
むしろ、運用を開始してからのほうが、手がかかるケースもあることを、あらかじめ理解しておくべきだ。

 

 

「良薬口に苦し」を伝えたがらない、一部RPAベンダーの責任

誤解を恐れずに言えば、RPAを始めること、入門することは、比較的カンタンである。しかし、よいロボットを生み出すことを「カンタン」と言い切るのは誤解を生じかねず、それなりに苦労を伴う。切磋琢磨することも必要だ。

だが、RPAブーム(とあえて言おう)とともに、無責任な説明をするRPAベンダーが、一部ではあるが現れてきたことも確かである。冒頭のエピソードで紹介したベンダーも、その一社であろう。

 

「良薬口に苦し」という言葉がある。これは、孔子一門の説話をまとめた『孔子家語』に登場する。

『よく効く薬は苦くて飲みにくい。よい忠告の言葉は聞くのがつらいが、身のためになるというたとえ』(Web大辞林より)

RPAは、業務改善や業務効率化などに、とてもよく効く良薬だ。
しかし、甘いだけではない。当然ながら、苦い部分だってある。

これからRPAを導入しようという企業は、ぜひRPAの苦い部分も知った上で、導入の判断をするべきだ。
もちろん、そのためには、RPAの課題や苦労も、ちゃんと説明してくれるベンダーと付き合って欲しい。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。