「開発したシステムがお蔵入り」、システム開発の失敗を振り返る。

せっかく開発したシステムが、ほとんど使われないままに、お蔵入りしてしまった・・・

システム開発を担った身としては、やりきれないことだ。
その理由が、「バグを抱えている」、もしくは「要求された仕様を満たしていない」など、品質の問題、すなわち作り手の力不足ではなく、「あなたの創ったシステムは、素晴らしすぎて、私たちには使いこなせないです」と言われたら、どうだろうか?

 

実は、筆者にはその経験がある。
しかも、そのシステムは、私が初めて手掛けたシステム開発案件であった。

今回は、恥を忍び、私がしでかした大失敗を振り返ろう。

 

顧客と自社をつなぐ、SNSであり、カタログシステム

2004年、私は、IBMのグループ企業で、Webアプリケーションを開発する、いわゆるLAMP*な会社に営業として転職した。
そして、入社早々、手掛けたのが、問題のWebアプリケーションだった。

クライアントは、専門商社を営む東証一部上場企業である。
同社(以降、A社とする)の、とある地方営業所の所長が、こんな相談を持ちかけてきたのだ。

「メーカーの調達担当者と、当社の営業担当を、Web上でつなぐカタログサイトを創りたい」

A社は、ある産業製品の原材料を専門に取り扱う商社だ。
A社の営業は、調達担当者に対し、さまざまな原材料を売り込む。しかし、ここに課題があった。

便宜上、「調達担当者」と書いたが、これは購買部門を指しているのではない。購買部門は、購買手続きを行うだけで、「どの原材料を採用するのか?」、その判断を担うのは、現場である。
A社のビジネスでは、工場で現場を支える調達担当者に対し、営業をかける必要があった。
しかし、相手も忙しい。
確かに、原材料の調達も仕事のひとつであろうが、主たる仕事は製造管理である。営業にかまっている暇などないのだ。

件の所長は、悩んでいた。
若手の営業は、営業をかけるどころか、アポイントの時間すら取れず、悶々としていたからだ。

 

そんな所長が、あるアンケートを目にした。
アンケートの回答者は、医者たちである。

「MRの売り込みは、面倒くさいですか?」

そりゃそうだろう・・・
我が身を振り返り、つぶやいた所長が注目したのは、次の質問だった。

「MRが、Web上で情報提供を行ったら、利用しますか?」
回答者の8割が、Yesと答えていたのだ。

 

医者も、所長が相手にしている調達担当者も、営業の売り込みを疎んでいるわけではない。職務上、売り込まれる情報が、必要なものではあることは重々承知しているが、なにせ忙しいのだ。

これはいける!

所長は直感した。

 

私は入社早々、A社を担当することになった。
そして、所長と面談し、所長が構想するWebアプリケーションの開発において、営業とPMを兼務することになったのだ。

創り上げたシステムは、カタログサイトとSNSを組み合わせたものであった。
A社の取り扱う原材料を収納するデータベースに対し、取引先ごとに異なるカタログサイトを設ける。A社の営業は、データベースを参照し、自分が担当するクライアントに売り込みたい原材料を選び、カタログサイトに掲載する。
カタログサイトには、SNSのような機能を設けており、営業が自己アピールを行い、クライアントの調達担当者とコミュニケーションを取ることができる機能を設けていた。

mixiもFacebookも、創業したのは奇しくも2004年である。世間には、SNSという概念は存在していなかったと言っていいだろう。
その時期に、言わば法人向けのSNSを創り上げたのだから、画期的なものだったと思う。

実際、カタログサイトには、A社の社内、社外から大きな反響があった。

※LAMP
Linux、Apache、MySQL、そして、Perl、PHP、Pythonに共通する「P」の頭文字を並べたもの。これら、OpenSource系の環境や言語で開発するシステム開発会社を指す。

 

なぜ、システム開発の素人が、PMを務めることができたのか?

それまで、私はシステム開発に携わった経験は、なかった。
そんな私が、入社早々PM*を任された(というか、やらされた)のは、会社の事情だったのだが。結果を診れば、PMをこなすことができたのは、前職で事業企画の経験があったからだと考えている。

 

私は、某大手通信会社にいた。
同社が店頭公開し、東証一部に上場、そしてITバブルの崩壊によって、株価が大暴落するさまも、すべて経験している。私は、PHS、携帯電話、コピー機などの営業を経て、同社副社長(当時)のもとで、事業企画を担当していた。
私が事業企画を担当したのは、ITバブル崩壊後であり、同社の評価が低迷していた時期であったが、それでも同社には山のようにビジネスの売り込みがあった。私は、そういった方々と面談をし、新たなビジネススキーム構築を模索していたのだ。

 

これは、事業企画と同じだ!

IBMグループのLAMPなWeb制作会社に転職し、件の所長から要求仕様をヒアリングしている時に、私は気がついた。
事業企画では、事業の形を定め、それを人と組織を用いて現実化していく。
システム開発では、人と組織の代わりに、プログラムを用いて、システムへと組み上げていく。

幸いなことに、IBM出身者の同僚たちは、豊富な知識を持っていた。
私は、システム開発とプログラミングについては、ズブの素人だったから、同僚、先輩、そして年下の部下にも教えを請いながら、貪欲に知識を吸収していった。

某大手通信会社において、私は、モノを売ることしか経験していない。
モノづくりの楽しさを、私は初めて知ったのだ。

だが、所詮は素人である。
私は、手痛いしっぺ返しを食らうことになる。

※PM
システム開発の進行管理を行う役目。プロジェクトマネージャー。

 

華々しくデビューしたカタログサイト

カタログサイトは、絶賛された。

A社社内では、そのビジネスアイデアとコンセプトが認められ、運用を支援し、さらにITを活用した営業を加速するために、専門部署が設立された。件の所長は、その室長に就任した。

その取り組みは、日経新聞でも紹介され、注目を集めた。
また、クライアントであるメーカー側の反応も上々だった。私は、所長(※当時は既に室長だが、記事中では引き続き、「所長」と記す)とともに、A社の各営業所をまわり、カタログサイトの説明に務めた。あるメーカーなどは、カタログサイトの入り口を社内ポータルに設けるため、わざわざWANに穴を開けてくれた。

 

しかし、その頃から、私は焦り始めていた。
肝心のカタログサイトの実稼働が、遅々として進まなかったためである。

 

なぜ、カタログサイトは稼働しなかったのか

繰り返しになるが、私は、A社のカタログサイト構築をとおして、初めてモノづくりの楽しさを知った。

所長のアイデアは斬新だった。
私は、前職で営業、そして事業企画をとおして得た知識や経験をフル活用し、所長のビジネスアイデアを膨らませていった。担当するSEは、以前「『優秀なSEの条件とは?』、このシンプルな問いに含まれるもの」でご紹介した、たなかさんである。
3人でアイデアを出し合い、新たなWebアプリケーションを創り上げていく。私は夢中になった。そして、完成したカタログサイトに対し、3人とも自信を持っていた。

これはいける!

だが、私ども3人の意気込みに反し、カタログサイトは遅々として稼働しなかった。
原材料データの入力が進まないのである。カタログサイトなのに、肝心の原材料が掲載されていかないのだ。

A社の取り扱う原材料は、数十万アイテムになる。
そのすべてを入力するのは難しいだろう。しかし、すべてを入力する必要はない。10アイテムでも20アイテムでも、まずは売り込みをかけたい原材料をピックアップして入力すればよいのでは?

何しろ、すでに公開先である、メーカーにも、「カタログサイトを公開します」ということは知らせてしまっているのである。メーカー側は前のめりで、あるメーカーなどは、既に社内へ周知を始めていた。

私の中には、「これだけのモノを創り上げたのに、何故、あなたたちは使わないのか?」という、A社に対する不満がたまり始めていた。

 

業を煮やした私は、所長がもともと在籍していた営業所に乗り込んだ。
私が、A社の社員たちに代わって入力作業をするつもりだったのだ。所長の元部下たちであれば、私が多少乱暴なふるまいをしても、許容されるであろうとの目算もあった。

原材料の情報を教えてください。
私が、あなたたちのかわりに、入力作業をしますよ。

意気込む私に、室長の元部下は、こう答えたのだ。

「いや・・・、何を売り込めば良いのか?、それが分からないんですよ」

 

営業というのは、キャッチボールである。
A社のように、数十万ものアイテムを扱う商社では、お客様とのコミュニケーションの中で、売り込むアイテムを絞り込んでいく。
ところが、カタログサイトでは、売り込みから、コミュニケーションが始まる。

怖い。
見当外れなモノを売り込んでしまったら、お客様からの信頼を失うのではないか!?
調達担当者が、今欲しいものって何?

営業所員たちは、申し訳なさそうに、こう言った。

「素晴らしいシステムだと思いますよ。でも、僕たち凡人には使いこなせないです」

 

カタログサイトをともに創り上げた所長は、営業の達人であった。
だから、調達担当者に対し、「あなたの欲しいモノは、ズバリこれでしょう!」と初球からストライクボールを投げることができるのだ。これは、長年にわたる営業経験の蓄積に、所長自身の素養があって成立する営業手法である。
だが、その他大勢の「普通の人」である営業マンからすれば、ストライクを投げる技術もなく、そもそもストライクゾーンがどこにあるのかが分からないことが、課題であった。

冒頭に、A社における営業課題は、調達担当者と会うことができないことであると書いた。しかし、これは間違いだったのだ。

 

私は、自分が犯したミスに気がついた。
挽回の策を練ったが、ことごとく失敗した。

結局、カタログサイトは、本格的に稼働することなく、自然消滅した。

 

システムを使うのは、「人」である

『事業企画では、事業の形を定め、それを人と組織を用いて現実化していく。
システム開発では、人と組織の代わりに、プログラムを用いて、システムへと組み上げていく』

確かに、システム開発と事業企画は、とても似ていると思う。
だが、私は、大事なことを見落としていた。

システムを使うのは、人なのだ。

私たちは、自分たちが理想と思う営業手法をシステム化することで、形にした。
しかし、『理想と思う営業手法』を、実際に行うことになる、A社の営業たちの姿は、想像できていなかった。

 

システム 【system】

1.制度。組織。体系。系統。
2.方法。方式。「入会の-を説明する」
3.コンピューターを使った情報処理機構。また、その装置。コンピューターシステム。

※出典:大辞林

私は、舞い上がって勝手に勘違いし、3.の意味しか見ていなかったのだと、今ならば分かる。本当は、A社における、新しい営業制度を創り上げていたにも関わらず。

 

システム開発とは、その企業の中に、業務の制度を創り上げることだ。
プログラムだけを見ていては、良いシステムは完成しない。

繰り返そう。
システムを使うのは、人なのだから。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。