DXとは? ~ 【連載】 「私たち」のDXを考える #1

DX(デジタルトランスフォーメーション)が、話題になっている。
筆者のもとには、さまざまなメールマガジン、もしくは広告宣伝メールが届くが、連日のように、DX関連のセミナーやら売り込みが届くことに、少々加熱し過ぎではないかとも感じることがある。

ここまでDXが取り沙汰されるようになった背景には、2018年9月7日に経済産業省が発表したレポート「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』の影響が大きいだろう。

DXへの取り組みを進めないと、2025年以降、日本経済は大きな打撃を受け、世界との経済競争力を、やがて失っていく。

「2025年の崖」というキーワードが与えるインパクトとともに、DXは、広く世間で知られ、そして議論されるようになった。

 

だが、経済産業省のDXレポートから2年が経過した今、DXの実態はどうなっているのであろう。
世の中には、DXを冠したセミナーやらセールスが溢れ、DXが目指すべき本義とずれた、DXバブルとも呼ぶべき状態になってはいまいか?

本連載では、DXの定義から、DXの抱える問題点などを取り上げつつ、DXに対し、私たちは、どのようにあるべきなのかを、考えていきたい。

 

連載一話目では、DXの定義について、考えていこう。

 

DXとは

DX(Digtal Transformation)とは、企業が、最新のデジタル技術を活用し、それまでの業務やビジネス・モデル、もしくは企業文化を変革することで、競合他社との差別化、市場での優位性などの躍進を図ることを指す。

 

「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」
(スウェーデンのウメオ大学:エリック・ストルターマン教授の言葉)

これは、キーワード「DX」が、生み出された当時の説明である。
ずいぶんとふわっとした定義であるが、この言葉が生み出されたのは、2004年である。当時は、まだ本当の意味で、ITの進化が、私たちの生活に対してもたらすインパクトは、想像もできなかったのであろう。

四半世紀が過ぎた今、私たちの生活は、デジタルテクノロジーによって大きく変わりつつある。
スマートフォンの普及に加え、スマートフォン、PCを問わず、私たちが日々利用しているデータの多くは、ネットワーク上に存在するようになった。
私たちのコミュニケーションは、対面、もしくは電話や手紙といった物理空間から、SNSに代表されるデジタル空間に、大きくシフトしつつある。
GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)が、世界経済の巨人となっている今の姿は、重工業や自動車産業が、世界経済の中心であった、20世紀の人々からは、想像もつかないことであろう。

デジタルテクノロジーは、私たちにとって可能性であると同時に、脅威にもなりつつある。デジタルテクノロジーの、急激すぎる拡大と普及は、デジタルデバイドを生み、「ついていける人(企業)と、ついていけない人(企業)」の間に格差を生み出している。

デジタルデバイドとは?

 

こういった背景もあり(そして確かに事実なのだが)、2018年9月7日に経済産業省が発表したレポート「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』においては、かなり危機感を煽る文脈の中で、DXは登場する。

同レポートに登場する、DXの定義を記そう。

『企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること』
(※IDC JAPANのDXに対する定義を、経済産業省が同レポートに転記したもの)

 

現在、話題になっているDXは、この文意に基づいていると言って良い。
だが、この定義は、少々難解である。解説しよう。

まず、エコシステムという言葉について。
聞き慣れない人もいるかも知れないが、エコシステムは、近年注目されている概念である。
生物学におけるエコシステムは、生態系を指すが、ここで言うエコシステム(もしくは、ビジネス・エコシステム)は、その企業自身はもちろん従業員とその家族、取引先、顧客、競合他社、自治体や地域社会も含めたビジネス領域における関係性を示している。

注目すべきは、『内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら』の一文である。DXでは、企業における組織のあり方や、ビジネスプロセスの変革だけでなく、企業文化、もしくは従業員の意識などにも変革をもたらさなければならないとしているのだ。

 

のプラットフォームとは、IDC(米国の調査会社)が、2013年頃から提唱しているコンセプトである。
IDCは、第一のプラットフォームとしてメインフレームと端末、第二のプラットフォームとしてクライアント・サーバを挙げている。第三のプラットフォームは、現在注目され、またビジネスとしても拡大している、モバイル、ビッグデータ、クラウド、ソーシャルを挙げている。
『第3のプラットフォームを利用して』の一文は、注目の集まるこれらの最新テクノロジーをしっかりと取り込むことを、企業に求めているのだ。

 

企業が変革を成し遂げるのは、『競争上の優位性を確立すること』が目的である。
そしてそのためには、アウトプットとして、『新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデル』を生み出さなければならない。
ただし、『新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデル』とは、『顧客エクスペリエンスの変革を図る』ものでなくては、『価値を創出』することにはならない、とも読み解ける。
さらに、これは、『ネットとリアルの両面』で提供されるべきであるとしている。
このように、DXが求めるアウトプット(製品やサービス)は、極めて高い次元を要求している。これまで経験したことがないような、製品やサービス、ビジネス・モデルを生み出しなさいと言っているわけだからだ。

なぜ、そこまで高い次元の要求をしているのか。
そうしないと、『競争上の優位性を確立』することができないと、この一文は結んでいる。

 

私は、経済産業省のレポートを初めて読んだとき、このDXの定義を掲載したことに驚きを覚えた。
専門用語が頻出する上に、文章は難解、そして極めて攻撃的な表現で危機感を煽る説明だからである。

だが、これは取りも直さず、経済産業省が、現在の日本社会であり、多くの日本企業に対して感じている危機感の現れなのだ。
なぜ、これほどの危機感を示す必要があったのかは、同レポートで提唱した『2025年の崖』というキーワードで表されている。『2025年の崖』については、本連載の第二話で取り上げよう。

経済産業省(むしろ、「日本という国家が」と言うべきか)が訴えたかった危機感は、広く共有されたと言っても良いのかも知れない。だからこそ、DXバブルとも言うべき今があるのだろう。

 

IT化とDXは違う? ある運送会社のエピソード

少々、筆者の昔話に付き合って欲しい。

かつて、筆者は、トラック向けの配車システムを販売する会社に勤め、営業として活動していた。
これは、その時のエピソードである。

飛び込み営業で訪れたのは、トラックドライバー含め、全従業員30名ほどの中小運送会社であった。
システムを売り込もうとする私に、応対してくれた社長は、このように言ったのだ。

「うち、わりとIT化は進んでいる方だと思うけど?」

見ると、30代前半と思われる配車担当者のデスクには、モニターがなんと5台連なっていた。5台のモニターを、拡張デスクトップ機能で横並びにしていたのだ。私は、後にも先にも、5台のモニターを横並びにして使っている人を見たことはない。

これは、IT化とは違うだろう…

心の中で、私はつぶやいた。
と言うか、これをIT化と呼ぶ社長のITリテラシーを、私は密かに小馬鹿にすらしていた。
だが、社長の話を聞くうちに、私の認識は変わっていった。

 

配車とは、運送会社において、その日のトラックが行う運行計画を立てる仕事である。何時に営業所を出発し、どこで荷物を積み、どこで荷物を卸し…、という一日のスケジュールを、トラックの台数分だけ考えるのだ。
当然、トラックが走る道路には渋滞も発生する。荷積み、荷卸しにかかる時間も、その場所によって異なる。トラックドライバーによって、仕事の得意不得意もあるし、仕事をこなす早さも異なる。

配車担当者は、こういった諸条件を考慮しながら、トラック運行のスケジュール(配車)を考える。現場を知り、また運送をこなしてきた経験がモノを言うことから、経験も深く、他ドライバーたちからの信頼も厚い、リーダー格の元ドライバーが、配車担当者に抜擢されることが多い。

 

件の運送会社でも、そうであった。しかし、その熟練の配車担当者が急死してしまったのだ。
同社の運ぶ貨物は特殊であったため、外部から配車経験のある人材を募ることも難しかった。そこで、他のトラックドライバーを配車担当者にしてみたものの、どうにもうまく行かない。挙句の果てには、トラックドライバー同士で、不平不満がたまり、社内の人間関係は、最悪の状況に成り果てたと言う。

困った社長は、配車業務を、まったく運送ビジネスの経験がない人に委ねることにした。
そこで、ある中小メーカーにおいて、情報システム部で働いていた人材を採用、配車担当に据えたのだ。

 

「もはや、勘と経験に頼った配車など、会社にとってはリスク以外の何物でもない」

痛すぎる反省とともに、そのように悟った社長は、ITリテラシーは高いが、運送に関してはズブの素人に、運送会社の肝とも言える配車業務を任せたのだ。
当の配車担当者は、分からないなりに、Googleマップや経路探索アプリなどを駆使して、配車業務に取り組んだ。
5台並べたモニターは、試行錯誤の一環であった。
配車表は、学校などで見る時間割のような形式で表現されることが多い。件の配車担当者は、モニター5台を横断する長大な配車表を作成し、配車業務を行っていたのだ。

「笑っちゃいますよね。私も、これが正解だとは思ってはいません。
運送業界って、勘と経験が絶対的な正義じゃないですか。ウチは、その悪しき業界文化に対し『No!』と言えるように、ITを利用して、なんとか配車業務を標準化すべく、今まさに紆余曲折している真っ最中なんです」

配車担当者の照れたようなこの言葉を、社長は嬉しそうに聞いていた。そのふたりの姿を、私は今でも覚えている。

モニターを5台並べた、そのことだけを診れば、これはIT化でもなんでもない。
だが、その背景にあるストーリーを診れば、これは立派な業務変革へのチャレンジである。拙くはあるが、ブラックボックス化していた属人化業務(配車業務)を、標準化しようとするチャレンジに、私は感動すら覚えていた。

業務変革とは、絶対値のモノサシで測るものではない。
たとえ第三者からは拙く診えようとも、当事者たちと、その未来にとっては、価値のある業務変革は、存在するのである。

 

DXが企業に、そして日本社会に求めるものとは

『DXレポート』が求める、「変革」の一例

経済産業省のDXレポートでは、企業、そして日本社会に対し、さまざまな変革を求めている。その一部ではあるが、図表にまとめたので参考にして欲しい。
同レポートを紹介する一文に、このようなくだりが登場する。

『我が国企業においては、自らDXを進めるべく、デジタル部門を設置する等の取組みが見られます。しかしながら、PoC(Proof of Concept:概念実証。戦略仮説・コンセプトの検証工程)を繰り返す等、ある程度の投資は行われるものの実際のビジネス変革には繋がっていないというのが多くの企業の現状です』

IT化とDXは違う。
誤解を恐れずに言えば、IT化とは部分最適であり、DXとは全体最適を目指し、企業に対し、大きな変革を求めるものだからである。
『実際のビジネス変革には繋がっていない』理由は、IT化という、小手先の改善に終止し、ビジネスの組み立てを根本から変えるような、ダイナミックな変革を実現できてこなかったからではないだろうか。

先に挙げた、運送会社の例は、極端な例であり、IT化の視点から見れば、あまりに無謀で稚拙なチャレンジだ。しかし、DXへのチャレンジとしては見習うべきポイントは多い。
経済産業省のDXレポートでは、IT人材の育成と確保をDX推進における課題のひとつとして挙げている。先の運送会社に、もっと優れたIT人材がおり、また、社長のDX的センスが優れていれば、より早く、より良い結果を得られたであろうと、残念に思う。

 

DXに関する論客のひとりである、マイケル・ウェイドは、その著書『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織を作る』において、DXを「デジタル・ビジネストランスフォーメーション」の略語であるとしている。そして、より大切なのは、「デジタル」ではなく、「ビジネストランスフォーメーション」であると訴えている。

確かに、「デジタル・ビジネストランスフォーメーション」としていれば、DXを単なるITツールの導入促進だと思う勘違いは、大きく減ったように思う、

企業が、生き残りをかけて、デジタルシフトにどこまで本気になれるのか?
それまで培ってきた、企業文化や風土に踏み込んででも、変革を為し遂げることができるのか?

DXは、今を生きる私たちに、覚悟のほどを突きつけているのかもしれない。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。