2025年の崖とは? ~ 【連載】 「私たち」のDXを考える #2

日本国内におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)事情を考える時、キーワード「2025年の崖」は外せない。
「2025年の崖」は、2018年9月7日に経済産業省が発表したレポート「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』(以下、「DXレポート」と略す)において登場した。

経済産業省は、これからの企業が目指すべき目標としてDXを提示し、そしてDXを実現しなければならない理由として、「2025年の崖」というキーワードを生み出した。

DXレポートは、読み手である私たちの危機感を煽り、奮起を促す文章にあふれている。
なぜ、経済産業省は、これほどまでに危機感を煽ってくるのであろうか?

「『私たち』のDXを考える」連載第二話では、「2025年の崖」について解説する。
DXレポートは、総じて優れたレポートではあるが、読みやすいとは言えない。本編が57ページ、Powerpoint版が41ページというボリュームもさることながら、重複した内容が切り口を変えて何度も登場することもあり、まるで情報の迷路に迷い込んだかのような困惑を読み手に与える。
本記事では、内容を大胆にとりまとめ、しかし本質は損なわないように配慮しながら、「2025年の崖」について解説することを目指す。

 

「2025年の崖」とは

「2025年の崖」とは、日本企業が、DXを推進・展開する上で障壁となる、企業内外の構造的な課題のことである。

DXとは、企業が、最新のデジタル技術を活用し、それまでの業務やビジネス・モデル、もしくは企業文化を変革することで、競合他社との差別化、市場での優位性などの躍進を図ることである。

DXを推進し、実現するためには、企業における経営戦略の見直しと、業務変革が必要となる。だが、「2025年の崖」問題を解決することなしに、経営戦略の見直しに着手しても、絵に描いた餅となりかねない。ましてや、業務変革の実現は、限りなく不可能に近い。

 

「2025年の崖」について、課題と、その主役、要素をマッピングした。詳しくは、上図表を確認して欲しい。
図表のとおり、3つの要素、2つの主役があり、挙げられた課題は5つだ。
これらについて、解説していこう。

 

ブラックボックス化問題 【ユーザー企業×レガシーシステム】

2025年の崖に関し、もっとも注目を集めているのは、このブラックボックス化問題であろう。
DXレポートでは、日本企業の約8割が、老朽システム(レガシーシステム)を抱えていると指摘する。
今後、さらにデジタルシフトが加速するであろうビジネスマーケットを考えれば、企業内に蓄積されてきたビッグデータの活用推進は不可避である。さらに言えば、これまでの企業活動において、連綿と蓄積されてきた営業情報、顧客情報、品質管理情報、顧客からの問い合わせなどは、企業にとっては、次のビジネスへのヒントが詰まった宝であるはずだ。

ところが、多くの企業では、レガシーシステムを適正に管理できておらず、ブラックボックス化していると、DXレポートは指摘する。要求仕様書、要件定義書を始めとする、各種ドキュメントがきちんと整備されてこないまま、改修を重ねてきたがため、システムの中身がきちんとした形で記録されていない。また過去に構築、もしくは改修に関わった人材も、次々と退職してしまい、システムに関するノウハウは、そういった人材の脳内に暗黙知として留まったまま、失われていく。さらに言えば、Cobolなど、古いプログラム言語で構築されたレガシーシステムは、そのプログラム言語を扱えるプログラマーが、ユーザー企業のみならず、ベンダー企業にも少なくなっている。

こうして、「分からない/触れない」状態、つまりブラックボックス化したレガシーシステムが、多くの企業に残っている。
ブラックボックスと化したレガシーシステムの中には、貴重な宝物である、企業活動によって得られたビッグデータが残っているはずだ。しかし、あるのは分かっていても、触れない宝物など意味がない。

宝物であるはずの、企業内ビッグデータを活用しなければ、デジタルシフトが加速する今後のビジネスマーケットでは、競争力を失う危険性が高い。だが、宝物である、企業内ビッグデータを活用するためには、未来を見据え、レガシーシステムをDX後のビジネスを支えられるものへと再構築する、経営者による決断が求められる。

だが、レガシーシステムのブラックボックス解消に向けた道は、茨の道である。
膨大なコストと手間が掛かるからである。

ブラックボックス化問題については、次話にて、さらに深堀りして考えていこう。

 

アフターDXを見据えたビジネスへの転換 【ベンダー企業×レガシーシステム】

DXレポートでは、ユーザー企業とベンダー企業が不適切な関係にあると指摘する。
ここで言う「不適切」とは、癒着等、倫理的に不適切な取引関係を指しているのではなく、デジタルシフトが進むビジネスマーケットにおいて、競争力と独自性を持って、勝ち抜いていくパートナーシップを組めるような関係性にないことを指している。

近年、システム開発においてベンダー企業がユーザー企業から訴訟を起こされるケースが頻発している。
DXレポートでは、国内におけるシステム開発の多くが、請負契約、準委任契約であり、ユーザー企業とベンダー企業の責任関係や作業分担が明確になっていないと指摘する。これが、訴訟頻発の一因となっている。

「何を開発するかをベンダー企業に決めてくれと言っているのと同じ」

これは、要件定義から請負契約を締結する両者の関係性の不自然さを指摘する、DXレポート中の一文である。
DXレポートでは、従来型の受託開発ビジネスではなく、アフターDXを見据え、ユーザー企業との戦略的パートナーシップを築き、デジタルビジネスを創造していく必要性を訴えている。

 

また、ベンダー企業の多くが、既存システムの保守運用(ラン・ザ・ビジネス)に収益の多くを頼っていることも問題として指摘されている。
日本企業が費やすIT関連費用の8割は、現行ビジネスの維持運営に割かれているという統計※もある。ビジネスのボリュームゾーンがあれば、当然、ベンダー企業のリソースも、ラン・ザ・ビジネスに費やされるのも当然なのだが。
これはベンダー企業だけの課題ではなく、ユーザー企業の課題でもあるのだが。

レガシーシステムの子守をするビジネスに依存するのではなく、競争力と独自性を備えた戦略的なビジネスへと、ベンダー企業も展開すべきと、DXレポートでは指摘している。

経済産業省「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(PowerPoint版)」 12ページより参照。

 

人的リソースの課題 【ユーザー企業&ベンダー企業】

2015年、IT人材の不足数は、約17万人であった。
だが、2025年には、IT人材不足は約43万人まで拡大すると、DXレポートは、警鐘を鳴らす。

レガシーシステムが、再構築されず、現状のまま放置されれば、2025年には基幹系システムの6割が、構築から21年以上経過、老朽化すると見込まれている。
当然、古いプログラム言語を扱える人材は、退職等により減っているから、その時になって、ユーザー企業がレガシーシステムの刷新を希望しても、ベンダー企業側が対応できないケースも多発するであろう。

なぜ、レガシーシステムが、これほどまでに日本企業には残っているのか。
原因のひとつとして挙げられているのは、国内におけるIT人材の偏在である。
例えば、アメリカの場合、IT人材の65.4%は、ユーザー企業のIT部門に在籍しているが、日本の場合、ユーザー企業に所属しているのは、わずか28%しかいない。
この結果、多くの国内ユーザー企業において、システムの構築や改修、保守運用などに伴って蓄積されるはずのノウハウが、社内に蓄積されず、ベンダー企業、とりわけ、大手ベンダー企業の下請け企業にノウハウが蓄積されてしまうという、いびつな状況が生まれた。

言ってしまえば、国内ユーザー企業の多くは、自社では情報システム部門を育成せず、社外のベンダー企業に情報システム機能を委ねているのだ。
これでは、先を見据えたIT戦略が立案されることは難しい。結果、目先のコストや手間に目を曇らされ、根本的見直しをずっと先送りにされてきた数多の業務システムが、レガシーシステムと化してしまった。

多くのユーザー企業における情報システム部門は、レガシーシステムのケアに日々追われるお世話係になっている。ノウハウを蓄積し、そして継承していくためには、ユーザー企業におけるIT人材の増強が必要なのだ。

では、ベンダー企業はどうか?
前述のとおり、国内のSIビジネスは、ラン・ザ・ビジネスに依存する割合が高い。
当然、ベンダー企業におけるIT人材(エンジニア人材)の多くも、保守運用や受託開発にリソースの多くが割り当てられている。

GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)を筆頭とする、世界的IT企業が、未来を創造する新たなデジタルビジネスに邁進する中、これでは国内ベンダー企業の競争力は低下するばかりである。
国内ベンダー企業は、新たなビジネス・モデルの創造に対し、もっと戦略的な経営を進めなくてはならない。
そのためには、最新かつ先鋭的なIT技術を備えた人材を育成すべく、既存IT人材のスキルシフトを積極的に進めていかなければならないのだ。

 

投資リソースの課題 【ユーザー企業&ベンダー企業】

もし、レガシーシステムのブラックボックス化を解消できずに、このままずるずると放置されるとどうなるのか。

DXレポートでは、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が生じると、警告している。

原因のひとつは、レガシーシステムの維持管理コストの高騰である。DXレポートでは、ブラックボックス課題を放置した場合、ユーザー企業における維持管理コストは、IT予算の9割以上になると予測している。

 

DXの波は世界に押し寄せている。
我々の日常生活においても、デジタル技術は拡大することはあれど、利用が縮小することは、もはや考えられない。
そんなごく近い将来において、レガシーシステムにしがみつき、その維持管理コストを賄うことに汲々としている企業は、DXの波から取り残されてしまう。もはや、生き残ることすら難しいであろう。

DXレポートでは、国内企業における経営者の多くが、DXに対する危機感が足りないと指摘する。
確かに、レガシーシステムのブラックボックス化を解消するためには、巨額のコストと大きな手間が必要だ。だが、その決断を行うことができるのは、経営の舵を取る経営トップだけであると、DXレポートは指摘する。

先のない(と断言しよう)レガシーシステムへお金を払い続けるのか、それともDXの先にある未来に投資をする決断ができるのか。
ユーザー企業の経営者には、大きな決断が迫られているのだ。

 

一方、DXレポートは、ベンダー企業にも、大きな決断と変革を求めている。

「我が国の情報サービス産業は、実態的にはユーザー企業の一部機能を構成している」

これはDXレポートの一文である。
結果、ベンダー企業は、ユーザー企業に代わり、情報システム部門を代替していることは、すでに述べた。結果、ベンダー企業は、ユーザー企業における人件費の変動費化に貢献することとなった。
だが、これでは駄目なのだ。

ベンダー企業は、「新しい革新的なアプリケーション・アーキテクチャーの習得」を行い、「ビジネス・モデル転換の必要性」がある。(※「」内は、いずれもDXレポート中の表現)

国内のシステム受託開発は、大型開発の一巡、企業統合等による情報資産の共有、クラウド化の進展などを理由に、今後縮小すると考えられる。

変わりゆくアフターDXの世界に、ベンダー企業が取り残されないためには、システム開発の受託者から、新しいビジネス・モデルをユーザー企業とともに協創するパートナーシップの構築が必要であると、DXレポートは指摘する。

 

「2025年の崖」は、なぜここまで危機感を煽るのか?

ここまで書いたとおり、2025年の崖というキーワードに含まれるメッセージは、攻撃的かつ危機感を強く煽るものである。

なぜ、経済産業省であり政府は、ここまで危機感を煽るのであろうか?

誤解を恐れずに言えば、政府は、国内企業の経営に、危機感を感じているのだ。
DXレポートの冒頭、「1.検討の背景と議論のスコープ」には、このように記されている。

1.あらゆる産業において、デジタル技術を活用する新規参入者が、ゲームチェンジを起こしつつある。
2.だが、国内企業の多くは、ある程度のIT投資は行っているものの、実際のビジネス変革にはつながっていない。
3.そもそも、レガシーシステムのブラックボックス化を抱え、人と金のリソースが適切に配分されていない現状では、DXの推進は難しい。

実際の文面はもっと冗長なのだが、要点だけをピックアップした。

 

第二次世界大戦後、日本は飛躍的な経済発展を遂げ、世界有数の経済大国へと名乗りを上げた。
だがその反面、日本人的な働き方は生産性が低く、また少子高齢化が進むなど、これからの日本経済の未来には、複数のネガティブファクターが存在する。

GAFAの台頭が示すように、デジタルビジネスは、今後世界経済のメインストリームとなっていくであろう。その潮流に、国内企業が遅れを取れば、日本経済は、デジタル競争の敗者となる。
そうならないように、政府がかける激励のキーワードが、2025年の崖なのであろう。

 

次話では、DX、そして2025年の崖解消への鍵となる、レガシーシステムのブラックボックス化について、考えていこう。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。