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2020.12.24 掲載 2022.04.13 更新

レガシーシステムのブラックボックス化 ~ 【連載】 「私たち」のDXを考える #3

間接部門にロボットを導入し業務効率化

NOC RPA導入・サポートサービス


連載「『私たち』のDXを考える」第三話は、レガシーシステムのブラックボックス化を考える。
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、選択肢ではない。すべての産業における、すべての企業が、程度の差、もしくは方法論の違いはあれど、向き合うべき課題である。
だが、DXを推進していく上で、もっとも大きな障壁となるのが、レガシーシステムのブラックボックス化問題である。
2018年9月7日に経済産業省が発表したレポート「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~』(以下、「DXレポート」と略す)によれば、国内企業の約8割が老朽化したシステム(レガシーシステム)を抱えていると答えている。また、2018年時点で、構築後21年以上経過した基幹系システムを抱えている企業は、2割あるとされている。
最初に断っておくが、ブラックボックス化したレガシーシステムを、最新の環境や設計に刷新するモダナイズは、茨の道だ。費用も掛かるが、モダナイズする手段も、悩ましい。
筆者の経験も踏まえながら、ブラックボックス化の原因、ブラックボックス化したレガシーシステムをモダナイズする方法を考えていこう。
 

レガシーシステムの刷新という決断に迫られた、ある中小企業の話

ある中小企業の話である。私が相談を受けたのは、2015年のことだ。
同社では、20年ほど前、ファイルメーカー(※データベースソフトウェアのひとつ)で顧客管理システムを構築した。数百万円掛かったと言うから、同社の経営規模から考えると、思い切った投資であったのだろう。
件の顧客管理システムは、WindowsXPにしか対応していなかったため、当時既に顧客管理システムをインストールしたマシンのサポートは終了していた(※WindowsXPの更新プログラム提供が終了したのは2014年)。
同社が馴染みのシステム開発会社に相談したところ、マシンの載せ替えに伴う、顧客管理システムの改修に、数百万円掛かると言われたらしい。
そこで同社は、新しい顧客管理システムを導入した。
だが、実際の顧客管理業務においては、ファイルメーカーベースの旧システムと、新システムの両方に入力を行っているという。
「何故、そんな面倒なことを…?」
聞けば、旧システムと新システムでは、データベースの入力フィールドがかなり異なるのだと言う。本音は、新システムに統一したいが、必要な入力フィールドがないため、泣く泣く二重入力をしているとのことだった。
だが、一方で、旧システムをインストールしたマシンそのものの老朽化もあり、使用中に勝手にダウンすることも多くなってきたという。
出入りのシステム会社に相談しても色よい返事がなく、そこで以前別の仕事で付き合いのあった私に相談を持ちかけてきたわけである。
実は、ファイルメーカーについては、私もかなり使い倒した時期があった。とは言え、90年代後半の話である。当時最新のファイルメーカーについては、まったく分からない。
その旨を話したところ、相手はがっかりした様子であった。
そこで私は、課題の整理を私がお手伝いすることを提案した。
どうやら本件を相談した、出入りのシステム会社に、ファイルメーカーに関するノウハウがないことは明らかであったし、新しく購入した顧客管理システムが、そうそう程度の悪いものとも思えない。
失礼ながら、同社に標準的なITリテラシーを備えた人材がいるとも思えず、過去に高額な費用を掛けて構築した旧顧客管理システムを断舎離する勇気がないだけとも思えた。
「…、社内で検討してみますね」
担当者はそうは言ったものの、その後、本件に関する連絡はなかった。
おそらく、同社が求めたのは、問題が解決する、それも安価に解決する方法であり、それをできる人材だったのだろう。
「今、困っているんです。助けて!」という声に対し、ドラえもんのひみつ道具のように、即答/直答できる解決手段を求めていたのだ。
私が提案した課題の整理とは、ユーザーである同社に対し、現状を理解し、(私も一緒に考えるにせよ)問題解決の方法を考えさせることである。そんな面倒なことはしたくなかったのであろう。
 

レガシーシステムのブラックボックス化問題とは

一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会が実施した、『デジタル化の取り組みに関する調査2020』2019年度調査結果では、レガシーシステムについて、以下のように定義している。
1. 技術面での老朽化
古い要素技術やパッケージでシステムが構成されており、H/W*等が故障すると代替がきかない状況。または、古い要素技術に対応できる技術者の確保が難しい状況。
2. システムの肥大化・複雑化
システムが複雑で昨日の追加・変更が困難となり、現行業務の遂行や改善に支障がある状況。システムの変更が難しく、外部に補完機能が増えたり、人が運用をカバーしなくてはいけない状況。
3. ブラックボックス化
ドキュメントなどが整備されておらず、属人的な運用・保守状態にあり、障害が発生しても原因がすぐにわからない状況。または、再構築のために現行システムの仕様が再現できない状況。
※H/W:サーバ等のハードウェアのこと。
 
レガシーシステムのブラックボックス化問題とは、上記のように厳密に言えば、レガシーシステムが抱える課題のひとつであるが、本記事では、「1.技術面での老朽化」「2.システムの肥大化・複雑化」も含めて考えていこう。

『デジタル化の取り組みに関する調査2020』2019年度調査結果 236ページより

上図は、DX推進の足かせとなっている理由について、企業から取ったアンケート結果である。
1. レガシーシステムとのデータ連携が困難
2. 影響が多岐にわたるため試験に時間を要する
3. ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する
4. 維持・運用費が高く、回収コストを捻出しにくい
5. 技術的な制約や性能の限界がある
6. 有識者がいない、ブラックボックス化しているため触れたくない
7. 特定メーカーの製品・技術の制約があり、多大な改修コストがかかる
8. 分析に必要なデータが不足している、ない
9. 特定技術に関する技術者を確保するのに、多大なコストがかかる
10. メーカーのサポートが切れており触れたくない
見て分かるとおり、DXの推進を妨げているのは、過去の「放置」と「怠慢(手抜き)」である。3位の「ドキュメントが整備されていないため調査に時間を要する」などは、その典型であろう。
 

レガシーシステムのブラックボックス化は、なぜ起きたのか

日本企業は、いつからこんなふぬけた体たらくを示すようになってしまったのか。
その理由を考えよう。
1. ユーザー企業におけるIT人材不足
DXレポートでも指摘されているとおり、国内ではIT人材の多くが、ベンダー企業に所属している。
アメリカの場合、IT人材の65.4%は、ユーザー企業のIT部門に在籍しているが、日本の場合、ユーザー企業に所属しているのは、28%しかいない。国内企業の多くは、本来企業にとって必要なはずの情報システム部門機能を、ベンダー企業に委ねているのだ。
結果、どうなったのか。
「有識者がいない」のように、社内にノウハウが蓄積できなくなってしまった。さらに言えば、社内のIT管理、もっと言えばIT戦略に対し、本気でベンダー企業が責任を負うはずもないし、負うこともできない。
「基幹システムの再構築をこれ以上放置すると、数年後にはレガシーシステム化し、技術的負債になってしまいますよ」とベンダー企業が警告したところで、ユーザー企業からすれば、「危機感を煽って営業をかけてきたな!」と思われるのがオチだからだ。
情報システム部門は、現在の企業にとっては、戦略的にも極めて重要な部門であるはずだ。それを、コストセンターと呼び、社内システムのフォローやら、社員たちのPCヘルプセンターなどといった、お世話係に留めてしまう企業のなんと多いことか。
その結果、情報システム部門が本当に担うべきである、自社のIT戦略立案や実行を任せられるような、自社IT人材の育成を怠ってきたから、今DXを推進しなければならない段になって、あたふたすることになっている。
2. 経営者のITリテラシー不足
DXレポートでは、国内企業の経営陣の多くが、ITリテラシーに乏しく、またITを経営上のファクターとしては軽視していることを指摘している。
例えば、既存システムのレガシー化を憂い、モダナイズすべく改修を起案する声が上がったとする。
だが、その時点では、既存システムは問題なく動いている。起案者は、近い将来、システムが稼働しているサーバOSや、プログラム言語がサポート終了されることなどを見据え、起案しているからだ。
DXレポートでは、「レガシー問題に関する改修プロジェクトは、自社経営陣の理解を得にくい」と指摘する。将来的なリスクはあっても、今が問題ないので、誰も困っていないからである。
もっと言えば、国内企業では、経営者自らが、ITシステムやセキュリティの必要性を語ることが少ないと、DXレポートでは指摘する。これは取りも直さず、国内企業における経営者の多くに、経営者の立場から必要なITリテラシーが備わっていないことを表している。
ブラックボックス化の原因のひとつとして、サイロ化がある。
サイロ化とは、事業部が、社内の他事業部と情報や人、もしくはノウハウの共有をせずに孤立化している状態を指す。
サイロ化が進む企業においてDXを推進しようとすれば、事業部が抵抗勢力となり、DX推進の障壁となることがある。これを打破し、全体最適化、標準化を進め、DXを実現するチカラを持つのは、経営トップだけである。
だが、経営陣が、社内抵抗勢力からの反対を押し切るためには、経営陣自身が優れたITリテラシーを備え、「なぜDXを推進しなければならないのか?」ということを、きちんと社内に説明できなければならない。
DXは、経営陣が自らの言葉で語るべき経営課題である。
「分からない」「苦手」といった言い訳は通用しないし、ましてや自身のITリテラシー不足が、DX推進の障壁になることなど、あってはならないのだ。
3. 「頑張ればなんとかなる」、人力重視の勘違い
勘違いされている方も多いのだが、「システム」(System)という言葉は、単にコンピュータープログラムを指す言葉ではない。
本来、システムとは、仕組みのことである。
余談だが、SAPが日本国内で展開を始めた当初、ドイツ本国のSAPスタッフは、日本企業の多くが、カスタマイズを求めてくることに呆れたというエピソードがある。
「我々は、優れた経営管理の仕組みを提供しているのに、それを変えようとするのは、どういうことなのだ」
これは、SAPに限ったことではない。
パッケージシステムに対しても、多くの国内企業は、カスタマイズを求める。
さらに困るのは、既存システムでは対応できない例外処理を、現場において、人力手動オペレーションで対応してしまうケースだ。日本企業の現場リテラシーは高い。それは、日本企業の美点でもあるが、こと業務の標準化という観点から言えば、マイナス要因である。
結果、現場業務がブラックボックス化し、伴って既存システムのオペレーションや外部設計も、ブラックボックス化していくのだ。
 

ブラックボックス化したレガシーシステムを、モダナイズする方法

では、ブラックボックス化したレガシーシステムをモダナイズするためには、どうすれば良いのか?
1. レガシーシステムを、ストレートコンバージョンでモダナイズする。
2. モダナイズ後の新システムの内部解析を進めながら、DXに向けた業務変革を要件定義しながら、DXに対応した新システムを構築する。
この方法では、言わば2度、システムを構築することになる。1度目はストレートコンバージョンだが、2度目はフルリニューアルである。
この方法は、一見回り道に見えるかもしれない。
ただ、NOCの経験上、結果的にこれがもっとも費用対効果が高く、レガシーシステムをモダナイズする方法だと言う。
レガシーシステムを解析し、ドキュメンテーションを行うことを専門としている会社もあるにはあるが、経験上、こういった会社は、詳細設計書は作ることができても、外部設計書はつくることができないという。また、システムには「なぜ、この機能を設けたのか?」という設計思想が必ずついてまわる。システム構築時に作成された要件定義書ならばともかく、設計思想がないままに、詳細設計書を作成しても、システムの全容を把握することにはならない。
ゼロから新システムの設計を始める方法もあるが、そもそもブラックボックス化しているのは、レガシーシステムだけではない。業務の標準化ができておらず、システムと、システムのオペレーションすべてがブラックボックス化しているケースも多い。ゼロベースから要求仕様のヒアリングを開始するのは、手間と費用が掛かりすぎてしまうのだ。
最初に断ったとおり、ブラックボックス化したレガシーシステムのモダナイズは、茨の道である。
心苦しい言い方になってしまうが、業務システムがレガシー化し、ブラックボックス化するということは、その間、その企業は、業務システムに掛けるべきであった手間と投資を怠っていたことにほかならない。
10年、20年におよぶそのつけを、今まとめて払おうというのだから、レガシーシステムのモダナイズには、相当の手間と投資が必要となることは覚悟しなければならない。
それでも、DXは待ったなしである。
2025年の崖が訴えるとおり、問題のさらなる先送りは、企業存続の危機にまでエスカレーションしかねないのだから。
 
 

間接部門にロボットを導入し業務効率化

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ライタープロフィール

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。

坂田 良平

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