「DXを進めるには」、DXプロジェクト推進のポイントを考える ~ 【連載】 「私たち」のDXを考える #4

連載「『私たち』のDXを考える」第四話は、企業内にてDXを進める際に留意すべき点を考える。

巷では、DXのやり方、方法論について、さまざまな議論が行われている。DX推進プロジェクトの進行について、「やれアジャイル型が良い」、「いやいや、ここは基本に立ち返って、ウォーターフォール型で進めるべきだ」と言った議論※は、その代表であろう。

結論から言えば、現時点では、DXについて、「これがベストなDX推進方法である」ということは語れない。何故ならば、そもそもDXという概念が、ここ数年で生まれたものであり、おそらく本当の意味で、DXを成し遂げた企業は存在しないからだ。(もともと、デジタル体質な企業であり組織は存在するが)

だが、DX推進プロジェクトを遂行する上で、留意すべき点は、徐々に診えてきた。
NOCがDXを進める上で大事にしているポイントも紹介しながら、DXプロジェクトのツボを考えていこう。

 

DXを進める上で知っておきたい、「ウォーターフォール型」と「アジャイル型」

DX推進プロジェクトを遂行する課題を考える前に、「ウォーターフォール型」「アジャイル型」という、ふたつの代表的なプロジェクト進行方向を確認しておきたい。


ウォーターフォール型システム開発のイメージ

 


アジャイル型システム開発のイメージ

 

ウォーターフォール型システム開発を端的に言えば、最初に設計図を書きあげてから、設計図に従いシステムを完成まで導く方法である。水が上流から下流に流れることに例えて、ウォーターフォール型と呼ばれる。

ウォーターフォール型システム開発は、直感的に理解しやすい方法だが、いくつか欠点もある。完成までに時間が掛かる点、そして新たなシステムを立ち上げるのに、言わば卓論で全体像を描くこと(完全な設計図を作ること)が可能なのか?という点である。

アジャイル型システム開発は、ウォーターフォール型システム開発に対する解決策のひとつとして考えられた。
「アジャイル」(Agile)とは、「素早い」「俊敏な」という意味だ。
「反復」(イテレーション)と呼ばれる、比較的短い開発期間で、優先順位の高い機能から、順次リリースしていくのが、アジャイル型システム開発の特徴である。

アジャイル型システム開発は、柔軟性が高く、リリース済み機能に対するユーザーの反応などを反映し、途中で開発方針や基本設計に対する修正や見直しを行うことが可能である。
一方で、システム開発に参加するメンバー全員が、プロジェクトが目指すコンセプトや戦略をきちんと理解していることが大切である。理解が不十分なメンバーがいると、プロジェクトが迷走することもあり得るからだ。

 

何故、DX推進プロジェクトは難しいのか?

ウォーターフォール型、アジャイル型は、システム開発の手法ではあるが、あらゆるプロジェクト進行の方法論としても応用が効く。

では、皆さまに考えていただきたい。
DX推進プロジェクトにおいて、適切なのは、ウォーターフォール型、アジャイル型、どちらなのであろう?

DXは、「デジタル・トランスフォーメーション」であるが、より大切なのは「デジタル」ではなく、「トランスフォーメーション」である。

あるプロセスにおいて、デジタル化を果たすことは、たやすいとは言わないが、想像できる範囲であろう。だが、「トランスフォーメーション」することは、簡単ではない。

例えば、稟議書の承認プロセスを考えて欲しい。
プリントアウトされた稟議書を、捺印→回覧するプロセスをデジタル化するだけであれば、難しくはない。世の中には、電子承認ソリューションはたくさん存在するから、導入すればよいのだ。

では、何故、電子承認ソリューションを導入するのか?
もっと言えば、紙の回覧で行っていた稟議書承認を、電子承認ソリューションにすることで、どういった「トランスフォーメーション」(業務変革)を生み出したいのか?

巷のDX関連書籍などを紐解くと、いとも簡単に、「DX実現後の、あなたの会社の未来を想像しなさい」などと書いている。
だがこれは、「言うは易く行うは難し」の典型である。

ウォーターフォール型システム開発では、完成したシステムの姿をあらかじめ設計することが求められる。
DX推進プロジェクトに置き換えれば、まさに「DX実現後の、あなたの会社の未来を想像しなさい」に該当する。だがこれは、見たことのない景色を描きあげなさいと言っていることに近しい。

この意味で、DX推進プロジェクトを、ウォーターフォール型プロジェクト推進の枠におさめることには無理がある。

だが一方で、アジャイル型のDX推進はどうだろうか?
全体戦略もなく、ただデジタル化を進めたら、どうなるのか?

先の例で言えば、紙の回覧で行っていた稟議書承認を電子承認ソリューションにデジタル化するのであれば、それは業務変革につながるものでなければならない。DXが実現したあなたの会社における業務プロセスの全体像において、電子承認ソリューションが果たす役割が明確になっていなければ、電子承認ソリューション導入は、単なる経費の無駄遣いに過ぎない。
繰り返しになるが、デジタル化とトランスフォーメーション(業務変革)は似ているようだが異なる。そして、トランスフォーメーション(業務変革)には、ひとつの業務、ひとつの部署内での議論ではなく、関連する複数の業務や部署、もしくは全社的な調整であり、目線が必ず必要となる。

アジャイル型にこだわって、プロジェクトを進めようとすれば、どうしても視野は狭くなりがちである。
だから、デジタル+トランスフォーメーションに至らず、単なるデジタル化で終わってしまう可能性もあるのだ。

では、DX推進プロジェクトに最適なプロジェクト推進手法とは何か?
結論から言えば、DX推進プロジェクトでは、ウォーターフォール型とアジャイル型を取り混ぜた、バランス感覚が必要なのだ。

DXが実現した会社の未来を完全に設計することは無理だが、ある程度のビジョンを用意することは必要である。
描いたビジョンは、ふわっとした、不鮮明なものかもしれない。
だが、描いたDX実現後のビジョンに従い、段階的に、手を付けられる業務プロセスからデジタル化していく勇気を持たなければ、DXに向けて歩き始めることもできないであろう。

大きな意味で、ウォーターフォール型に該当するDX推進プロジェクトの工程表を組むことは大切である。
だが、同時進行で、アジャイル型プロジェクト進行に学び、会社の業務を分割、随時個別業務のデジタル化をリリースしながら、修正と変更を繰り返していくことも必要なのだ。

このバランス感覚に正解はない。
少なくとも、他社の成功事例が、そのままあなたの会社に当てはまることはないだろう。

あなたの会社における、DX推進プロジェクトの進め方は、やりながら、最適な形を模索していく必要がある。
だから、DX推進プロジェクトは難しいのである。

 

「デジタル化すれば見えてくる」、BPR推進の学び

話は変わるのだが。

先日、私は、私の顧客をNOCに紹介した。
紹介した顧客は、現場業務に課題を抱えており、RPAを導入したいと考えていた。そこで、私は、顧客にNOCを紹介したのだ。

「少しづつ進めましょう。焦ることはないです。RPAを導入したら、必ず次の課題が見えてきますから」

これは、私に同行してくれたNOCのコンサルタントが、顧客に掛けた言葉である。
確かに、私の顧客はRPA導入を検討している。
だが、RPAを導入したところで、どれだけの業務変革につながるものか、判じかねているののも事実である。そこで、NOCは先んじて現場からヒアリングを行い、RPAを導入する業務の範囲や、その効果を探ってくれると言う。

先の言葉は、BPR※のプレッシャーを感じている、現場担当者にNOCコンサルタントが掛けた言葉である。
現場担当者が、プレッシャーを感じるのも当然だ。
会社からすれば、DX推進の第一歩となるRPA導入である。当然、その期待も大きい。
現場担当者からすれば、いきなりBPRの対象となる業務課題をピックアップしなさいと言われても、戸惑ってしまうのは当然だ。

皆、業務改善に興味関心はあることと思う。
だが一方で、現場担当者の立場であれば、「あなたの業務に対し、DX化を進めていきます」と言われれば、興味よりも、脅威が上回るのは、人の性であろう。
NOCではデジタルアレルギーを持った従業員の体質改善も、DX推進においては大切であると考えていると言う。

BPRの現場をいくつもいくつも経験しているからこそ、「少しづつ進めましょう。焦ることはないです」という言葉が自然と出てきたのであろうと、私は感心した。

※BPR
BPRとは、「Business Process Re-engineering」の頭文字を取ったもの。
一般的な「業務改革」とは、組織や制度の見直しも含めて、業務プロセスの最適化を図る点で異なる。

 

イノベーションを、どのように見出すか?

ピーター・ドラッガー(オーストリア/経営学者)は、語っている。

「問題に見える多くは症状であって問題ではない」

この言葉は、課題の本質を見抜くことの難しさを言い当てている。

私は、この連載を執筆するにあたり、いくつかのDX関係書籍に目を通している。
そのうちのひとつ、『90日で成果をだすDX入門』(須藤憲司/日本経済新聞出版社)に、DX事例企業としてネスレ日本が登場する。そのインタビューが興味深い。

「日本では、『いつでもどこでも提供できる』ことがコーヒーの市場やマーケットを拡大するきっかけになっていたと考えます。
では、たとえば『缶コーヒーがあったから、コーヒーの需要拡大につながったのか』と考えると、それは半分が正解で、半分は間違いだと思います。缶コーヒーだけではなく『自動販売機』というイノベーションがあったからいつでもコーヒーが飲めるようになった。そしてそれが『いつでもどこでもコーヒーを飲みたい』という問題解決となったわけです」

DXを進める上では、業務改善に加え、イノベーションがなければならない。
だが、イノベーションを創り出すためには、「症状ではなく問題」を見出す目線を、常に持ち続けることが必要だ。

DX推進プロジェクトでは、全体進行はウォーターフォール型で進めつつも、個別業務のDX化については、アジャイル型で進める必要がある。
そして、ドラッガーが言うところの「症状ではなく問題」を見出したら、そこからイノベーションを生み出し、最終的には、デジタルシフトに向けて、会社の体質改善を実現していかなければ、DXはなしえないのだ。

繰り返そう。
DXを推進することは簡単ではない。
その方法論も、確立したものは、まだ存在していない。そもそもDXが日の浅い概念であり、多くの企業がDX化の途上にあるから、先人の事例から学ぶことも難しい。

だが、DXを推進する上でのポイントは、徐々に明らかになってきた。
DXに挑む企業とその担当者は、本記事に限らず、DXに関する最新情報をまめにチェック、新たな知見を収集し、自社のDX推進に実践されることをおすすめしたい。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。