ブームに踊るDX。信頼できるパートナーを見つけることの大切さ ~ 【連載】 「私たち」のDXを考える #5

ビジネスの世界では、何かが流行ると、必ずそれを拡大解釈して利用する人たちが登場する。これは、DXも同様だ。
本来の意義や意図を捻じ曲げ、「拡大解釈して利用」しようとする人たちの口車に乗ってしまうと、「あれ、求めていた結果が得られていない…?」ということになりかねない。

現在のDXマーケットには、本義のDXに真剣に取り組む人たちと、DXブームに乗り、自社のシステムやサービスを訴求したいだけの人たちがいる。
同じような状況は、2006年頃に起きたWeb2.0ブームの際にも発生した。当時、私はWebサイトやWebアプリケーションを開発する会社に在籍しており、Web2.0に踊らされる人たちをうんざりした気持ちで見てきた。

連載「『私たち』のDXを考える」第五話では、Web2.0当時の昔話をしながら、玉石混交のDXマーケットにおいて、「玉」を掴むためのヒントを考えていきたい。

 

Web2.0に踊らされた人たち

Web2.0ブームの当時、ある親請け企業の担当者から、こんなことを聞かれたことがある。

「あなたの会社って、Web2.0な会社ですよね?」

意味が分からず…、というか下心のようなものは透けて見えてはいたのだが。私は、半ばうんざりとした気持ちで、質問の意図を尋ねた。

「Web2.0な会社だったら、あなたの会社のことを売り込みやすいな、と思って」

別のエピソードである。
ある日、私は社長から呼び出された。
社長室に入ると、うんざりとした表情の制作部部長と、にこにこ顔の社長がいた。

「お前が担当している**という開発案件、あれって、Web2.0だよな?」

Web2.0だったら、どうだと言うんですか?、問うた私に、社長は即答した。

「宣伝になる」

Web2.0は、ティム・オライリーによって提唱された概念とされている。
だが、Web2.0に明確な定義はなく、ティム・オライリーがWeb2.0というキーワードを生み出した2005年当時、注目を集め始めていた新たなWebサービスを、今まで(Web1.0)とは違う、新たなサービスとして紹介した程度のものであった。
例えば、Facebookが創業したのは2004年のことであったし、当時ロングテールモデルの好事例としてたびたび紹介された、ケンコーコム(薬等の通販サイト)がマザーズに上場したのも、2004年だった。
こういった時代の先駆者に対し、そのビジネスの背景を尊重せず、上っ面のWebサービスの部分だけ真似ようとした、有象無象の模倣者が多数登場し始めたのだ。

Web2.0の潮流に乗れば売れる。
その目論見が甘いことを、マーケットはすぐに知ることになる。

 

ビジネス化できなかったWeb2.0サービス

2007年11月17日号の週刊ダイヤモンドに、以下特集があった。

『ウェブの真贋 玉石混交のWeb2.0ビジネス』

この記事中には、現在のDXブームにも通じる警告がある。

「『ウェブ2.0』という言葉の流行に見るとおり、ウェブ関係の新ビジネスが次々に生まれ、注目を浴びている。だが、彼らが起こす『革新』の中身と、周囲に与える影響については冷静に検証する必要がある」

「彼らが起こしている変革の『本質』に着目しないと、過去のネットバブルの二の舞を演じることになる」

革新の中身、変革の本質という言葉は、ブームの根源的な課題を言い当てている。

2007年12月24日号の日経コンピューターでは、「Web2.0サービスが相次いで終了。開発段階でのつまずきが大きな要因に」と題し、バリューコマース社とサイバーエージェント社のWeb2.0サービスが撤退したことを報じている。

バリューコマース社が撤退したのは、Yahoo!オークションを主たる対象にした検索連動型広告サービスである。記事によれば、システムのバグで適切な広告を配信できなかったとある。その原因は、外部開発元から提供されている、サービスの基幹システムのバグが原因であるとしている。

サイバーエージェント社が撤退したのは、個人が商品在庫を持たずにECサイトを構築できるドロップシッピング事業『ミセつく』であった。要件定義に予想以上の時間がかかり、サービス開始が遅れたことから、先行者利益を確保できず、システム投資の回収期間も長期化する見込みとなったことが撤退の理由だとしている。

Web2.0の好事例として紹介されたケンコーコムは、Web2.0の先駆者になることを目指して、強みとなったロングテールモデルの通販サイトを創り上げたわけではない。自社のビジネスについて、切磋琢磨の努力をした結果、Web2.0という評価が、後から付いてきたに過ぎない。もっと言えば、ケンコーコムの強みは、Web2.0を実現したECサイト・システムにあるのではなく、世に存在するあらゆる薬や健康食品などを仕入れ、販売することができる物流インフラにあった。
つまり、ケンコーコムの「革新の中身」であり、「変革の本質」は、物流インフラということになる。
ケンコーコムは、物流インフラという本質があったからこそ、Web2.0の先駆者となり得たのだ。

思えば、バリューコマース社やサイバーエージェント社の失敗は、Webシステムの完成イメージから逆算してビジネス設計を行ったことで、ビジネス設計そのものが疎かになったことではなかったか。
ビジネスモデルの全体構想からビジネス設計を行っていれば、そもそも自社開発ではない基幹システムに右往左往されることもなかったかもしれないし(バリューコマース社)、要件定義に悩まされることもなかったではないかと推測する(サイバーエージェント社)。

Web2.0は、時代が生んだあだ花だった。そのブームは、わずか2年ばかりで幕を閉じることになったのだから。

 

玉石混交のDX

DXは、Web2.0とは違う。
Web2.0は、当時注目された新進気鋭のWebサービスを紹介したもの、つまりは現象の説明であったが、DXは、すべての企業が目指すべき指針であり目標である。
だからこそ、DXは注目を集めているわけだが、首を傾げたくなるような売り込みやアピールも多々見受けられる。

私がもっとも首を傾げたくなるのは、「DXの成功事例」という言葉である。
DXという言葉が注目を集めたのは、ごく最近である。企業の体質改善とも言えるDXが、ほんの数年で実現するものであろうか。
例えば、Googleのように、元からデジタルシフトが進んでいる企業はあると思う。ただ、こういった企業は、トランスフォーメーション、すなわちビジネスや業務を変革させたわけではなく、もとから(誤解を恐れずに言えば)デジタルシフトの完成形であったわけだ。
DXができる、もしくは挑むべき企業は、デジタルシフトが進んでいなかった企業である。
繰り返すが、従業員の意識も含め、DX化を完遂した企業など、現時点では、ほとんど存在しないのではないだろうか。

だが、世間では「DXの成功事例」と称したセミナーやら記事が、多数存在している。
私もそのすべてに目を通しているわけではないが、私が見たもの/読んだものはすべて、企業における業務の一部や、ある事業部におけるデジタルシフトの成功例を紹介しているものであった。

本連載の第一話において、私はこのように述べた。

「IT化とDXは違う。
誤解を恐れずに言えば、IT化とは部分最適であり、DXとは全体最適を目指し、企業に対し、大きな変革を求めるものだからである。
『実際のビジネス変革には繋がっていない』※理由は、IT化という、小手先の改善に終止し、ビジネスの組み立てを根本から変えるような、ダイナミックな変革を実現できてこなかったからではないだろうか」

※引用部分は、経済産業省の「DXレポート ~ITシステム 『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」の一文。

言ってみれば、現在成功事例とされているもののほとんどは、部分最適化をDXの成功とアピールしているに過ぎない。部分最適化がダメだとは言わない。むしろ、部分最適化を積み上げていかないと、全体最適化などありえないのだから。
だが、道半ばにあるDXへの取り組みを、あたかも完成形であるかのように訴える、「DXの成功事例」は、ミスリードを招きかねないと、私は危惧する。

もうひとつ、ミスリードの最たる例とし、私が考えるのは、システムの売り込みにDXを利用する例である。
自社の提供するシステムを導入すれば、あたかもDXが完結するかのような売り込み…
もちろん、そんなことはありえない。

例えば、ある業界特化型の基幹システムについて、同システムを導入すれば、DX対策は完遂するといった趣旨の売り込みを見かけたことがある。その基幹システムの仕様を確認したが、確かに優秀なものであった。だが、システムを導入しただけでDXが実現するとは、ミスリードが過ぎるであろう。

宝の持ち腐れという言葉がある。
どんな優れた道具も、それを活用できなければ意味がないのだ。むしろ、優秀なシステムであるほど、使い手がシステムに合わせて進化、成長することを求めるケースもある。

システムベンダー側としては、システムだけを売って、手離れの良いビジネスにしたいという気持ちは、理解できなくもない。
だがDXは、BPR(Business Process Re-engineering / 業務変革)なくして進むことはない。そして、BPRは「変革の本質」を無視して、進めることはできない。使い手、すなわり人が変わることなく、システム導入だけで得られるDXなどありえない。

DXは、座して得られるものではない。
それを訴えることのない、つまり「楽して手にすることができる」DXを訴えるアピールには、疑ってかかるべきである。

昔も今も、ものごとの良い面、楽な面だけをアピールして、人に取り入ろうという広告や営業は、後をたたない。
だが、もしDXが、そんなに楽して得ることのできるものなのであれば、経済産業省が「2025年の崖」などという危機的な言葉で、DXの必然性を訴える必要はなかった。そもそも、あなたの会社だって、とっくにDX化していたのではないだろうか。

DXの主語は、あくまで「私」である。システムベンダーでもないし、コンサルタントでもない。
「私」、すなわちユーザー企業に負担と努力を強いることなく、DXの実現と達成を訴える売り込みが世に、それも少なからず存在することに、かつてのWeb2.0ブームを思い出し、私はうんざりとしてしまう。

賢明な皆さまには、ぜひDX実現に向かって、努力する覚悟と、共に歩んでくれる良きパートナーを見極める目を持って欲しいと、切に願う。

自社だけでDXを実現することは難しい。
もっと言えば、限りなく不可能に近いかもしれない。

だからこそ、DXには信頼できるパートナーが必要なのだから。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。