「DXが分からない」と感じている皆さまへ ~ 【連載】 「私たち」のDXを考える #6

年の瀬も押し迫った2020年12月28日、経済産業省は、「DXレポート2 中間取りまとめ」(以下、「DXレポート2」と略す)を発表した。
これは、「DXレポート」(2018年9月7日発表)から2年が経過した今、国内企業におけるDXへの取り組みの現状と、この2年間で蓄積されたDXに関係する知見をまとめたものである。

DXレポート2では、国内企業の9割以上が、「DXに未着手である」、もしくは「DXを進めたいが散発的な実施に留まっている」として警鐘を鳴らしている。

この結果は、衝撃である。
DXという言葉がこれだけ世間には溢れているのに、何故DXが進まないのか?
DXレポート2では理由について、現状認識の甘さ、危機感の欠如、もしくは取り組みへの怠慢といったトーンで語られている。

だが、これらよりももっと注視すべき理由があるのではないか。

「DXそのものが分からない」、もしくは「DXというハードルが高すぎて、自社で取り組む方法が分からない」という理由で、改革を進められていない自分(自社)に対し、漠然とした不安を感じつつも、結果としては何もできていない、という企業も多いのではないかと、私は考えている。

連載「『私たち』のDXを考える」最終話前半は、DXレポート2を紐解きながら、DXが抱える課題を考える。後半では、DX悩む企業への応援メッセージとすべく、「私たちの」DXにおける、現実的な取り組み方法を考えていこう。

 

DXレポート2が指摘する、国内企業がDXに取り組まない理由

DX取り組みの現状(「DXレポート2(概要)」6ページ)

DXレポート2では、現在のDXへの取り組み状況について、約95%の企業においてDXへの取り組みが不十分、もしくは未着手であると指摘している。だが、これは経済産業省が実施したアンケートに対する、わずか500社あまりの回答数による統計である。国内企業の企業総数が、358.9万社(2016年集計)であることを考えると、DXに取り組んでいる企業の数は、微々たるものと考えられる。

何故、企業は、DXに取り組まないか?
DXレポート2では、メタボリックシンドロームを例に、このように考察している。

『このような企業の行動変容が進まない理由は、生活習慣病のアナロジーで理解が可能で
ある。誰しも、一般論としてメタボリックシンドロームの状態よりも痩せていたほうが良い
ことは理解している上、生活習慣病のリスクについても理解しているが、自分自身は健康だ
と信じている。企業のDX についても同様で、DX が必要だと理解はしていながらも、行動
を変容できていない企業は多い』
※「DXレポート2 本文」 48ページから転記

DXレポート2では、企業の心情への理解も示しているのだが。

「一部の経営者からは、DXについて『具体的に何をすればよいのかわからない』といった声も聞かれる」
※「DXレポート2 本文」 33ページから転記

引用した「生活習慣病のアナロジー」を展開し、DXに取り組まない企業の認識を、「誤認」であると、一刀両断している。

「『DX が進まない理由』を生み出しているのは、企業において『DXは進めた方が良いと理解している』ものの、『自社は健全である』との誤認であるといえよう」
※「DXレポート2 本文」 48ページから転記

DXに取り組んでいる企業が微々たるものであることを鑑みると、まるで大多数の国内企業に対し、糾弾しているようにも感じる。

さすがに、これは言い過ぎではないか。
私は、「DXについて『具体的に何をすればよいのかわからない』」、つまり、DXについて、具体的かつ現実的に実行可能な道筋を示せていないことが、DXが進まない最大の原因であると考えている。

 

劣等感の植え付けと、高すぎる目標が、DXへのモチベーションを失わせる危惧

私が、独立起業した当時の話である。
私は、人材派遣会社を経営する後輩のもとを訪ねた。あわよくば、何か仕事をもらおうという下心あってのことだ。

私の後輩である社長は、ITリテラシーに乏しかった。
社長のITリテラシー不足を反映したのか、会社のIT環境もひどいものであった。グループウェアから会社Webサイトまで、運用、セキュリティともに、問題だらけだった。

勢い込んで、私は問題を次々と指摘していった。

「『分からない』って君は言うけど、分からないっていうことそのものが、経営リスクだということを、きちんと理解しなきゃ駄目だよ」

「私が先輩である」という意識も働き、上目線で、しかし課題を的確に指摘する私に対し、社長は、こうつぶやいた。

「あなたの言うことは、きっと正しいのだろうと思うけれども…。これだけダメ出しされたら、劣等感しか感じないですよ」

2018年に発表されたDXレポート(以下、「DXレポート1」と略す)、そして今回のDXレポート2を読んでいて、私が思い出したのは、かつて私がしでかした失態であった。
ふたつのレポートが指摘する課題と危機感は、極めて正当なものである。
だが、正当であるがゆえに、DX以前のIT化、デジタル化に対し、「できていない」という不安を自負している経営層や、IT関連部署の人たちは、劣等感を感じ、DXへのチャレンジに対し、モチベーションを削がれてはいないだろうか。

そして、もうひとつの課題は、DXが掲げる難解かつ高い目標設定である。

『企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること』

これは、DXレポート1で示された、DXの定義である。
はっきり言って、難解すぎて意味が分からない。これでは、DXがなんたるかは、伝わらないであろう。この解釈は、本連載の第一話でていねいに解説しているので参考になれば幸いである。

DXレポート1では、企業とその従業員が、デジタル技術を十分に利活用できるように体質改善した上で、これまで経験したことがないような、製品やサービス、ビジネスモデルを生み出しなさいと言っている。

だが、企業文化や従業員の意識を改革した上で、新しいビジネスモデルまで生み出せとは、さすがにハードルが高すぎる。
高すぎる目標は、時として目標達成に対するモチベーションを損なってしまう。「私には無理である」と諦めてしまうのだ。

経済産業省が、「2025年の崖」といったバズワードを生み出してまで、国内企業の奮起を促した背景は理解できる。だが、DXレポート1からDXレポート2に至る2年間の結果を診れば、もうちょっと別なやり方があったのではないかとも感じてしまう。

では、DXレポート1&2に不足しているものは何か。
ひとつは、DXという高い目標に対し、身の丈にあった方法で取り組むことができる方法論。
もうひとつは、たとえ現状、ITリテラシーが低かったり、デジタル化が進んでいなかったとしても、恥じたり諦めたりすることなく、すべての企業がDXにチャレンジしようという空気感を醸成することだと、私は考える。

 

DXのフレームワークと具体例

DXの構造(「DXレポート2(概要)」25ページ)

とは言え、DXレポート2でも、「身の丈にあった方法で取り組むことができる方法論」のヒントは語られている。図表に挙げた、「DXの構造」(※DXレポート2 本文 34ページ)である。

デジタイゼーションとは、アナログ・物理データをデジタルデータ化することを指す。典型的な例は、紙文書のデジタル化や、FAXからの脱却などが該当する。
デジタライゼーションとは、個別業務をデジタル化すること。
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、「全社的な業務のデジタル化」ならびに顧客起点の価値創造のために、事業やビジネスモデルを変革すること」とされている(DXレポート2)。

私が、NOCの協力を得て取り組んでいる、ある運送会社(以下、A社とする)におけるRPA導入の事例を、この「DXの構造」に当てはめてみよう。

配車業務は、運送会社において、とても重要な業務である。配車業務については、本連載第一話で説明しているので、ここでの詳細な説明は割愛するが、簡単に言えば、トラックが配送を行う時間割を決める業務のことである。

A社では、配車担当者が自身の経験と知恵を頼りに、毎日配車業務を行っている。作成した配車結果は、大学ノートに日々書き記されているが、符丁が使われていたりと、同じ社内でも、他部署の人間が内容を把握するのは困難である。

A社では、属人化された配車業務を改善するため、自動配車システムの導入を決めた。だが、ITリテラシーに乏しい、現在の配車担当者に、高度な自動配車システムを操作させることは難しい。そこで、配送依頼データの入力から、自動配車システムの操作までをRPAで実施させ、配車担当者は、配車結果の確認と最終修正だけを行わせることを考えている。

A社における取り組みを、「DXの構造」に当てはめると、このようなイメージとなる。

A社における取り組みと、「DXの構造」の関係

A社の取り組みは、基本デジタイゼーションの範疇であり、いくぶんデジタライゼーションをかすめている程度のものである。つまり、本来的な意味でのDXではない。
さらに言えば、その先の取り組みやビジョンについては、現時点では白紙である。

実は、A社の所長は、今回の取り組みについて、配車担当者にこのように話している。

「これ(自動配車システム+RPA)が実現したら、君(配車担当者)の仕事がなくなっちゃうな。でも、これが実現した後、君がやらなければいけなかったはずの『本当の仕事』が見えてくると思う。一緒に考えような!」

 

DXへのものさしは、絶対値で測るものではない

A社における取り組みは、稚拙なものであろう。スタート地点が低いため、一般的な評価から言えば、そのように思われることは致し方ない。

だが、考えて欲しい。
例えば、SFA(営業支援システム)を全社導入しただけで満足し、新たなビジネスモデル創出を考えもせず、現状に満足している企業と比べ、DXへの取り組みという観点から言えば、どちらが評価されるべきものであろうか。
A社の所長は、改革に挑む際に必要なモチベーションの本質を理解している。評価されるべきは、A社のような取り組みへの姿勢ではないか。

繰り返しになるが、DXレポート1、DXレポート2を読んでいると、ダメ出しをされ続けているような気分になる。アメとムチで言うところの、ムチである。そして、この感覚は、DX全体がまとう空気感にも感じる。

DXが目指すゴールは高い。これは事実だから仕方ない。
だがそれ故に、企業に対するダメ出しが先行し、ムチをふるい続けるような方法論は間違いだ。
世の中には数多くの企業があり、デジタル化/IT化の進捗も、それぞれ異なる。特に、デジタル化/IT化の達成度が低い企業に対し、共通のものさしでDXを語ることは暴力的ですらある。

まず大切なのは、DXへ取り組もうという意思を持ち続けること。
歩みは遅くとも、できることから取り組んでいくという姿勢で、アクションを起こし始めること。
最初から、DX実現後のビジョンを描くことができる企業は良い。だが、そうでない企業(そして、それは世にある企業の大半だと考える)は、部分的なデジタル化を進めながら、DXで実現するビジョンを考えれば良いのだと、声を大にして言いたい。

DXは、絶対値のものさしで測るべきものではない。
「私たちのDX」を実現させるためには、あなたの会社にあったものさしで、DXという高い目標に向けて、現実的な選択肢、実現可能/着手可能なデジタル化を積み上げつつ、その範囲を部分から全体へと波及させていくべきであろう。

「千里の道も一歩から」という言葉がある。
DXというキーワードのプレッシャーに負けることなく、「あなたのDX」に向けて、一歩づつ、しかし自信を持って取り組んで欲しい。

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。