製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現ステップと成功事例

製造業のデジタルトランスフォーメーションには、単なるデジタル技術の活用ではなく、「ノウハウのデジタル化」が求められています。製造後のデータも活用した品質向上、生産性向上を目指したDXの、実現ステップと成功事例をご紹介します。

製造業にもデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せています。

業界の構造が大きく変化したり、顧客の消費活動にも転換が起きたりしている今、製造現場にも変革が求められています。いわゆる「モノづくり」だけでは済まなくなってきているのです。

今回は、製造業におけるデジタルトランスフォーメーションの意味を確認し、なぜ今DXが求められているのか、どのように実現していけばいいのか、現在の課題をご説明します。また、製造業におけるDX先進取り組み事例として、トヨタ自動車、コマツ、三菱電機の事例を紹介します。

自社でどのようにDX化を推進していくか、考えるきっかけになれば幸いです。

 

製造業におけるデジタルトランスフォーメーションとは

製造現場において変革が求められる今、モノづくりの現場において、ノウハウや経験値をデジタル化して共有し、製造のリードタイム短縮や生産性向上、品質向上などに活かしていくことが求められています。

つまり、製造業におけるデジタルトランスフォーメーションとは、単純にロボットやシステムを現場に導入する、ということではありません。端的に言うと「ノウハウのデジタル化」です。

デジタル技術を活用して、製造プロセスから出荷後のデータまで一元管理し、現場にフィードバックを行い、生産性と安全性を高めながら、製造コストを抑え、クライアントにも満足してもらえるようなモノづくりを目指すことを指します。

例えば自動車用の部品を生産している工場であれば、生産個数や品質、出荷個数などの「部品が作られ出荷されるまで」しか情報を持っていなかったところを、その先自動車が販売・使用されている際に、トレーサビリティで「どの工場でいつ生産されたものか」まで情報として取得することができる状態にするイメージです。

仮に自動車が故障した際に原因を特定しやすくなって再発防止に繋がりますし、反対に問題なく使用されているデータを追いかけ、製造現場の改善にも活かすことができます。

 

なぜ製造業にDXが必要なのか?

では、なぜ製造業にDXが求められているのでしょうか?

市場や人口減少により、ノウハウのデジタル化が急務に

ハードウェアの加工・製造そのものの付加価値は下がりつつある中で、グローバル市場ではいかにスピーディに新しい製品・サービスを高品質で届けていくかが重要です。しかも、人口減少により技能伝承が難しくなっている今、新製品・サービス立ち上げも難しくなっています。

このような現状で今後の製造業を回復させていくには、機械に任せることは任せ、限られたリソースを有効活用していくことが大切です。人手で収集・分析してきた運用部分を自動化したり、ノウハウ部分をデジタル化して現場に取り入れたりすることが重要なのです。

製造現場では「デジタルマニュファクチャリング」が求められている

こうした「製造工程におけるデジタル技術の取り入れ」を行うことを「デジタルマニュファクチュアリング」と言います。具体的には、各製造工程から様々なデータを収集・分析し、本来は熟練の作業員にしかできなかった製造工程などを機械に代替して、組織全体の生産性を向上させるための取り組みです。

ただ、上記の意味合いにとどまらず、出荷後の販売データやメンテナンスデータも収集し、クライアントや消費者の要望にあわせた製品を製造できるようにするための、デジタルマニュファクチュールが求められています。

今後、製造業が力を発揮していくためには、モノづくりだけでなく、納品後のデータも併用して、生産性向上、品質向上を求めていくことが重要なのです。

 

製造業におけるDXの実現ステップ

では具体的に、どのようなステップで製造業においてDXを実現していけばよいのか、解説します。

製造業におけるDXは、たとえば以下のような工程を指しています。

・手作業で集計していた製造現場での不良発生頻度を自動で集計する
・営業部門、サービス部門に集まる顧客ニーズやクレームが自動で記録・分類される
・AIがニーズから得られる示唆を抽出し、製品・サービスと組み合わせて新たな顧客体験と収益モデルを作り出す
・顧客体験の入り口となる製品を、標準化・自動化された加工機によって素早く製造し市場に出す

いずれも効果があるものの、後者のほうが効果的だと思ってしまいがちです。しかし、自社においていきなりそのレベルを目指すのがいいのか、というのは考えなければいけません。

実現ステップ1. 定型業務をDX化して生産性向上につなげる

まずは、バリューチェーン上にある各業務において、一定数ある定型業務をDX化するところから始めてみましょう。受注入力や生産現場での実績情報の収集、出荷実績の登録に、手作業で行っている部分をRPA等も使いながらシステム化することは第一ステップと言えます。

一見、仕組みを整えているだけのように見えるかもしれませんが、これらの自動化されたデータ入力のおかげで生まれた時間を活用して、既存製品のブラッシュアップやデータを活用した改善に取り組むこともできます。結果的に生産性向上につながるのです。

実現ステップ2. 市場ニーズをモノづくりにも即時反映させる

次に、顧客の声やクレームなどの情報を集約し、新商品やサービスに反映させることを目指していきましょう。これには多くの部門を巻き込む一大プロジェクトとなるため、経営層やDX専門部署の人たちが巻き込んで前進させていくことが必要です。

たとえば、顧客の声は営業部門のデータベースに入っており、顧客のクレーム情報はコールセンターの履歴に残ったまま、という状態を解消する必要があります。また、製造部門においても、生産計画の固定期間が長かったり、変更した際に無駄が発生したりと、連携させづらい状態になっているかもしれません。

製造現場におけるIT化やデジタルデータ取得だけでなく、製造部品の調達、原価管理、販売データ、営業データ、顧客管理など、すべての情報を一元管理できるような業務システムを導入・最適化することも目指していきましょう。

実現ステップ3. 複数事業の顧客基盤を連携させて顧客体験の質を向上させる

自社内に複数の事業があり、多くの商材を持っている場合、同じ顧客にアプローチしていては無駄が発生してしまいます。このような場合に備えて、顧客データを一元管理もしくは共有できるような状態にしておきましょう。

また、顧客データとコンタクト情報の共有においてAIの支援を受けることで、人では見つけられなかったチャンスを発見する可能性もあります。複数の商材を組み合わせたソリューションの提供や、新たな収入源の実現にもつながるかもしれません。

しかしこの実現には、部門間での利益分配のルールや、評価方法などを取り決める必要があり、DX推進に関わる人員も増えてさらに実行が難しくなります。部門をまたいだ専門チームをつくって、経営トップが力強く掲げることで協力を仰ぎ進めていきましょう。

 

製造業のDXの課題、現状の問題点とは?

具体的なステップを見たところで、現状、製造業においてDXはどのような課題や問題点を抱えているのでしょうか。実情として、なかなか思ったように普及していないことは明らかになっているので、その理由を考えてみましょう。

実際にDXを推進しようとすると、技術導入のための資金確保、IT人材の採用、設備の導入、従業員への教育や製造現場への組み込みなどが必要です。これらに想定していなかったコストがかかることで、なかなか進まないという現状が生まれています。

また、これらの新しい技術やサービスを管理するためのプラットフォームの選定も必要です。個別で新しいデジタル技術を活用していると、結果的に得られた情報やデータがまとまっておらず、その先に活用することが難しくなるので、管理プラットフォームがあるとよいでしょう。導入にあたっては、複数の部門や事業部をまたいでデジタル技術を把握し、最適なプラットフォームを選ぶ必要があるため時間がかかります。

そして、次にぶつかる壁が、IT技術者とモノづくり現場技術者の対立です。必ず発生するわけではないですが、IT技術者は変化を強く求めてしまい、モノづくりの現状を把握せずに進めてしまったり、モノづくり技術者は仕事の流れを急激に変えたくないとの反発が生まれて変えられなかったりする可能性があります。

日本の製造業に多い中小零細企業では、一時的なコストアップにつながるために新しいシステムを導入することは消極的です。大規模な企業・工場でなくてもDX化を進めるにはどうすればよいのか考えていくことが求められます。

 

日本の製造業におけるDXの推進事例

日本の製造業において、具体的にどのようなデジタルトランスフォーメーションが進んでいるのか、よく知られた企業の事例をご紹介します。

◆サブスクサービスへの展開で新たな顧客体験を|トヨタ自動車

自動車業界は、若者の車離れなどがあり、従来のように自動車販売だけでは成長を見込むことが難しくなってきています。

そこでトヨタ自動車が取り組んだのが、「月額定額制で乗り放題」というサブスクリプションサービスの展開です。自動車をモノとして所有することを打ち出すのではなく、「移動する」に特化した新しい体験を提供してビジネスモデルを新しく作っています。

その他、BtoBのソフトウェア開発にも進出しているのは特筆すべき点です。2018年にはトヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の3社で、自動運転ソフトウェアを開発するなど、AI技術活用にも力を入れています。

◆従来型の建設機械に設置できる装置を開発|小松製作所

建設機械の製造・販売を手掛ける小松製作所では、成長戦略として「イノベーションによる価値創造」を掲げ、DXに取り組んでいます。建設機械の自動化とオペレーションの最適化の実現によって、建設業界での深刻な労働力不足に対する課題を解決します。

具体的には、既存の建設機械にジャイロや加速度などを取得する慣性計測装置(IMUセンサー)や、位置情報を取得する衛星測位システム(GNSSアンテナ)、制御するコントローラーなどを後付けで設置できるキットを販売しています。これにより、データを取得できるようになり、従来型の建設機械であっても高度なICTを活用した施工が可能になりました。

◆FAソリューション同士をつなぎ、スマート工場を実現|三菱電機

三菱電機では、もともと製造業向けにFA関連のソリューションを提供しており、自動化に関するノウハウや技術を蓄積していました。

そこで、機器同士をネットワークで繋ぎ、取得したデータを分析・活用することで、工場を最適化するスマート工場の実現を支援しています。たとえば、工場の加工機械にセンサーを設置して遠隔診断をする仕組みや、稼働状況を別の場所から確認できる機能などを使って、デジタルトランスフォーメーションを進めていきます。

 

まとめ|ノウハウのデジタル化で製造業のDX化を推進しよう

今回は製造業におけるデジタルトランスフォーメーションの意味を確認したあと、なぜ今DXが求められているのか、どのように実現していけばいいのか、現在の課題をご説明しました。また、具体事例からイメージを掴むこともできたかと思います。

製造業においてデジタルマニュファクチャリングが求められる今、自社であればどのようなゴールを目指してDX化を進めていくのか、考えることから始めてみてください。

 

 

ライタープロフィール

パプリカ

パプリカ

外資系総合商社と総合マーケティング支援会社にて法人向け営業職を経験。 世の中にあふれる情報をかんたんにわかりやすく、一人ひとりに合ったかたちで伝えることをミッションに活動中。