DXを考える上で、覚えておきたい「3つの対立軸」とは?~議論百出のDXだからこそ、「自分の進むべきDX」を見つけるためのヒントを求めるあなたのために~

「DXを進めなくてはならないことは分かっているけれども、何から手を付ければ良いのか迷ってしまって…」、世の中は、DXに関する議論が百花繚乱です。情報が多すぎて、迷ってしまう方が現れるのも、致し方ないでしょう。そんなあなたのために、DXを考える上で必要な、3つの対立軸をご紹介しましょう。

 

DXという「言葉の威圧感」に怯む必要はない!

坂田良平氏(以下、坂田):DXというキーワードを聞いただけで、身構えてしまう方も多いと思います。

津久井基喜氏(以下、津久井):DXという言葉に引きずられると、つい「難しいことをしなければならない」と思ってしまう方も少なくありません。例えば、「DX=イノベーションだよね!?」とか。
そういう人は、まずデジタル化(デジタイゼーション、もしくはデジタライゼーション)から考えるべきではないでしょうか?

坂田:いきなりイノベーションは…、ハードルが高すぎます。

津久井:そうですね。改善活動などは、DXブーム以前から、各企業で行われていたはずです。「どうやったら楽にできるか、もしくは正確にできるか」、すなわち「課題感」を出発点にDXを考えれば、DXに対するハードルも、ぐっと身近になるはずです。

坂田:そこで大切になってくるのが、1つ目の対立軸ですね。

 

対立軸1:「会社としてどうしていきたいか」対「部門としてどうしていきたいか」

津久井:日々の業務や営業活動を起点として、「課題感」を知るのであれば、まずは「部門としてどうしていきたいか」からDXが始まるのは自然の流れです。

坂田:つまり、部分最適化からスタートするわけですね。部分最適化が、DXのスタートであるという考え方には、私も賛成です。
ただし、部分最適化の積み上げが、常に全体最適化につながるわけではないところが、DXを考える上では悩ましいところです。

津久井:ことシステムに関して考えると、確かに部門で導入された業務系・営業系システムは、それ自体がサイロ化することによって、データの孤立を生んでいました。しかし、最近では、iPaaS(Integration Platform as a Service)の発達と普及が、システムのサイロ化解消に役立っています。

坂田:私は以前、NOCのBPOブログにおいて、部分最適化を全体最適化へと導くための道標として、経営者のビジョンが必要であると説いたことがあります。
最近のスタートアップ企業の多くが、DXを体現済み、もしくは体現しつつあるのは、ビジョンがしっかりしているからではないでしょうか。

津久井:ネットや書籍でスタートアップ企業の経営者の方のインタビューや自叙伝的ストーリーを読みますと、目標達成の中で、「課題感」に対し、どうやったら解決できるかを明確に意識するタイミングが見つかります。
話が少しずれてしまいますが、「課題感」に目を向けようとせず、DXという言葉で尻を叩くようなDX推進方法は、現場の社員にとっては少々かわいそうだなと思います。

坂田:よく見かけますけどね。スタートアップ企業の多くが、ビジョンを備え、またDXを体現できている背景には、何があると思いますか?

津久井:最近のスタートアップ企業には、自ずと社会貢献の目線が備わっているケースが多いと感じます。
「自分が起業するのであれば、どういう社会貢献ができるのか?」と、ちゃんと考えているスタートアップの起業家が多いこと。これが、会社のビジョンへとつながっているのではないでしょうか。
また、そのビジョン達成のために素早く意思決定をし、行動に移せることもDX化が体現できている要因の一つでしょう。

 

対立軸2:「業務に合わせてDX」対「システムに合わせてDX」

坂田:システムというのは、あくまで業務でありビジネスの一翼を担うだけのものですから。業務ないしビジネスを起点にDXを考えるというのは、基本だと思います。

津久井:そうですね。ただ、実際には、システムが、業務とビジネスを育てるケースもあると思います。

坂田:NOCでは、セールスフォースが営業部門を育てる素地となったわけですね。

津久井:目指すべきビジネス、もしくは業務の姿をしっかりと掴んでいる組織・企業の場合は、業務ベース・ビジネスベースでDXを考えることもできるかと思います。
ですが、そうでない組織・企業の場合は、システムからDXへのヒントを掴んでいくことも方法論のひとつとして十分ありではないでしょうか。

坂田:確かにそうですね。一方で、システムがDXの可能性を狭めてしまうケースもあります。
IBMのAS400(Sysytem i)などは、その典型ではないでしょうか。
確かに、AS400はオフコンの名機なのですが、どんなにレガシーなシステムでも稼働させ続けることができる、というアドバンテージが仇となってしまいました。カビが生えたようなレガシーシステムを、未だ使い続けているAS400ユーザーのなんと多いことか…。

津久井:ブラックボックス問題の温床となっているわけですね。

坂田:「業務に合わせてDX」を行っても、「システムに合わせてDX」を行って、結果としてDXにたどり着けばOKだと思います。
ですが今、自分がいる立ち位置、つまり「業務に合わせてDXを行っている最中なのか」、それとも「システムに合わせてDXを行っている最中なのか?」を把握し続けることは、とても大切なことです。
立ち位置を忘れると、全体最適化を行っているつもりで、部分最適化、もっと言えばサイロ化に向かって突き進んでいることだって起こりえます。
これは、今回議論する3つの対立軸すべてに共通することですが。

 

対立軸3:「大企業」対「中小企業」

坂田:大企業と中小企業では、DXへの取り組みにおいても、さまざまな違いが出ます。
いわゆる、「ひと・もの・金」が豊富な大企業と、そうではない中小企業では、DXへの取り組み易さはもちろん、DXへの取り組み方も変わってくると考えています。
DXへ取り組む上で必要な、コストを利益に変えるストーリーを事前に作り上げておくことが、苦手な中小企業も多いと感じています。

津久井:コスト削減だけで、サクセスストーリーを作り上げるのは、なかなか難しいですからね。

坂田:何か新しい取り組みを行おうと考えた際、それをコストと考えるのか、それとも利益の源泉と考えるのかによって、取り組み方も、モチベーションも変わってくるはずです。
ですが、中小企業の場合、最初に取り組みに必要な初期投資におびえてしまい、結局何もしないで終わってしまうケースが多いと感じてしまいます。

津久井:こういう表現はあまりよくないのかと思いますが、日本の企業は、というか日本人は比較的マルチで働く事を厭わないため兼任が多い印象です。そのためどの仕事がどのくらいの稼働がかかっているか、明確に数値として示せないことが多く、結果として生産性向上を数字にするのが、得意じゃないのかもしれません。

坂田:投資しただけだとコストになってしまいます。対して、投資に対する効果まで考えて、初めて利益を生み出すストーリーになります。そこまで考えて、DXへのストーリーを生み出さないと、DXなんてできるわけがありません。
ところが、中小企業の場合、なかなか利益を出すところまでストーリーを描ける人が少ないのが、課題です。

津久井:相談できるパートナーを探すことは、大企業、中小企業の違いなく、大切なことです。相談する相手は、コンサルティング会社に限らず、フリーランスなど、個人に近い相手でも、信用に足る相手であれば問題はないはずなのですが。

坂田:私もフリーランスですが、大中を問わず企業が、フリーランスに相談するのは勇気がいるのではないですか?

津久井:結局、コンサルティングファームに頼んだとしても、各ファームごとのメソッドやノウハウはありつつも、最終的に担当するコンサルタント次第な気がします。チームが組成されるとしてもです。

坂田:と言うと?

津久井:インターネットやSNSの発展で、情報の広がりのスピード、量が数十年前に比べ圧倒的です。
コンサルティング手法も「形(カタ)」のようなものがネットにあふれています。「形(カタ)」がわかったから、誰でも同じようなことができる、とまで言いませんが、コンサルティングファームの価値は変わりつつあると思っています。
今まではコンサルしてレポートして終了、というのが多かったと思いますが、コンサルした結果を踏まえ、それを完遂させるための伴走等がクライアントから求められることが多くなっています。プロジェクトマネジメントが求められるということですね。
そうなるとコンサルティングファームのメソッドとか、というよりコンサルタントのコミュニケーション能力のような個人のスキルに依存するシーンが出てくるということです。
顧客はコンサルティングファームに相談しているつもりでも、結局、頼っているのはコンサルタント当人の能力になるわけです。
だとすれば、特に中小企業などは、DXに取り組む上で、無理してコンサルティングファームに相談する必要もなくて、知見のあるフリーランスなどに頼むのも、ひとつの手となります。

坂田:そう考えると、私が事例取材させてもらった、NOCの社内システム運用管理サービスって、中小企業にとっては救いの手のようなサービスですね。

社内システム運用管理サービスのイメージ

 

DXをぶらさげ、ユーザー企業を手玉に取るITベンダーの責任

坂田:最後に、人の問題にも触れておきましょう。
政府では、DX人材の育成を掲げ、実際にデジタル庁では、民間からデジタル人材、DX人材を次々に登用しています。
ですが、これは人材採用力が極めて強い官庁だからできることであって、民間企業ではなかなか難しいです。

津久井:特に人数の限られた中小企業では、DX人材を社内で育成することはとても難しいですよ。DX人材には誰でもなれるわけではなく、適正もありますから、もはや今いる社員の中でDX人材になりえる人がいるのか、という確率論の問題です。だからと言って、DX人材を新たに雇用することも難しい。

坂田:そこで、口のうまいITベンダーに良いようにしてやられてしまうユーザー企業が出てくると…。

津久井:最近、DXという言葉を巧みに使って、自社サービスを販売するITベンダーがいます。

坂田:「このシステムを導入すれば、あなたの会社のDXはバッチリです!」など言っているITベンダーは、だいたい良くないですね。

津久井:もちろん、ユーザー企業の責任も大きいです。DXレポート(経済産業省)でも指摘しているとおり、「何をすれば良いのか?」をITベンダーに丸投げしてきた国内ユーザー企業の体質が、またしても自らの首を絞めています。

坂田:厳しい言い方になりますが、分からないことを分からないままに、ITベンダーの言いなりになるのは、経営の無能をさらけだすようなものです。
分からないならば、自ら勉強しなければなりません。
もちろん、経営者にDX人材の素養まで身に付けろとは言いません。ただ、最終判断を自ら下すことができるレベルの知識は、経営に携わる方々は身に付けるべきだと、私は考えます。

津久井:そういった意味で、本稿がDXに迷う人々にとって、多少なりとも考えを整理整頓するためのヒントになれば良いですね!

坂田:心から、そう思います。

 

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。