~これまでのあらすじ~
TOARU株式会社で働く、人事部係長の館林、財務部課長の内藤、そして、庶務部の備品管理室長(元経理部長)の関口といった三人らが主人公。彼ら・彼女は、テレワーク期間中、社内のチャットシステム上での交流がきっかけとなり、意気投合する仲になった。三人が集う場所は、遊休資産が眠る“視聴覚室”だ。
内藤とシニア層の男性部下ミズノ、経理課のA課長といったメンバーらは、Z地方にある自社所有資産である倉庫に息吹を取り戻すため、プロジェクトを展開しようしたが、何度か現地を訪れた中、地元の人々が“白い家”にて、謎の物質“ダイヤモンドダスト”の発掘に精を出している姿に刺激を受ける。
これが契機となり、経理課のA課長が突然の退職。今は、“白い家”で、Z地方の方と共に“ダイヤモンドダスト”の発掘を進める日々を送っている。
こうした一方で、TOARU株式会社の組織内は暗雲が立ち込めていた。高額にもかかわらず、機能性の低い人事考課システムの導入理由を会議の場で問いただした経理部長の関口は、庶務部へと左遷されてしまう。
それでも、前進しようとする主人公たち。関口は庶務部の備品管理室長の役目を活かし、視聴覚室内に眠る古い楽器たちに光を当てようとしている。内藤は人事決定権を得るため、人事部へ異動。その裏で係長の館林は、内藤を課長職として迎えたいと上層部へ申し出ていた。
ただ、彼ら彼女らが思いもしないところで、事態は動いている。A元課長は“白い家”の長老と手を組み、Z地方のバックアップも得ながら、TOARUの内部に蠢く悪しき組織を利用しようとしているようだ。Z地方の姉妹都市“ディール”も動き出している。
白い家でのいつもの風景。
窓から差し込む日差しが彼ら彼女らの手元を照らしている。軽やかでどこか丸みのあるリズムをキープしながら、動く両手たち。それらの先にあるものは、銀色に光り輝く物質だった。どうも、“ダイヤモンドダスト”が放つ光沢とは違う様相である。白い家の中の風景としては、いつもの様子にしか映らないが・・・
長老はA元課長と共に発掘作業をしている。長老は額の汗を自身の左腕で拭いながら、A元課長に語り掛ける。
「Aさん、これくらいで良いでしょうかね?かなり発掘出来ましたよ」。
A元課長は、一息つくと長老に笑顔で応え、白い家にいる皆に声をかける。
「皆さん、いったん袋に詰めて、外に集積しましょう」。
白い家の一人一人が穏やかで幸色を表情に表している。彼ら彼女が担う仕事は、単調な発掘作業ではない。皆それぞれの価値観で、誇りを感じながら、日々当たっているのだ。麻袋に発掘物を丁寧に入れ込む彼ら彼女たち。台車に麻袋を乗せる手つきも丁寧だ。一つ一つの仕草に発掘物に対する、愛情が感じられる。時間の経過と共に日差しが傾いているが、白い家は高台にあるせいか、見下ろす景色も輝いている。
「皆さん、ありがとうございます。かなり集まりましたね~」。
A元課長は、嬉々とした笑顔で白い家の皆に言葉を掛ける。長老は、彼女の横顔を眺めた後、視点を遠い先に移していた。幾つもの家々の屋根とずっと先にある海原。ちょうどその間にある、同じ高さくらいの丘の上。そこには、TOARU所有の倉庫があった。長老はそこを見つめていた。A元課長は彼に語り掛ける。
「気づかないのでしょうね。TOARUの人達は・・・」。
長老は同意の意味で、首を縦に動かすが言葉は発しない。何に気づかないのか?そんな問いをするはずもない。なぜなら、長老のみならず、ここの白い家の人達がとうに知っていることだからだ。
「さーて、そろそろですかね?」
長老が話したその時だった。空から、ヘリコプターのビート音が響いていた。徐々に着陸の準備をしている。左扉はZ地方の市章“錨”のマーク。そして、反対の右扉には“DEAL”のロゴが描かれている。
着陸が完了すると、スタッフが白い家の人達に負けないくらいの笑顔で、ヘリコプターから降りてきた。
「いつも、ありがとうございます。皆さんのおかげで、開発は順調ですよ。DEALの基地に運びますね」。
どうやらスタッフはDEALの人。白い家の人達は、いつものルーティンのごとく、麻袋をヘリに詰め込んでいた。最後の一袋を詰め終わると、DEALのスタッフは皆に向かって敬礼をした。
「こちらこそ、ありがとうございます。開発に関わることができて、皆も幸せですよ」。
長老がDEALのスタッフに言葉を継げると、スタッフは笑顔を返して、ヘリに乗り込んだ。
プロペラのビート音が響く。機体はまっすぐに飛んでいく。TOARUの倉庫に向かって・・・
視聴覚室にて、元経理部長関口が本音を爆発。
「視聴覚室内に眠る古い楽器、使い勝手の悪い人事システム。そして・・・あのZ地方の倉庫。元経理部長としての失態だよね。結局、組織内の生産性や遊休資産の有効活用が利いた仕事など、出来ていない。元部下は、新天地にいるのに・・・」。
現在は庶務部の室長、関口の憂いが混じるセリフが視聴覚室中に共鳴した。
彼は自分自身に対し、俯瞰した末で発したセリフなのだろう。だが、彼の真正面の位置で、そのセリフを受け止めている人物がいた。
「人事システムは、あなたではなく私の失態でしょう!たとえ、役員たちの裏事情による導入だとしても、担当者としての責任はありますよ。そりゃ、今では有効活用策を練っていますけど、限界あります。ポジティブ思想だけでは、無理を感じますよ」。
その声の主は人事部係長の館林だ。まるで、合いの手を打つかのように、関口のセリフに対する応えを発信している。
彼らの周囲では、視聴覚室内でキラキラと光沢を放っている楽器たちが微笑んでいる、館林は、楽器一つ一つを見つめ始める。
「みんな、関口さんのおかげで、こうして“有効活用”の準備が出来ているじゃないですか。社内で昔、君臨していた役員たちの失態が招いた音楽事業の誤算がよみがえろうとしている。ひょっとして、Z地方で演奏会をお披露目する企画をしていたりして・・・!」
館林の言葉に対しての応えを考えているのか?関口は、ずっとしゃがみこんで下を向いたままだ。あえて、次のセリフも発さないと決め込んだ館林係長だが、関口はどうしても、発したい自身の思考を口にする。
「どこかで、共通項が繋がっているような気がして・・・このTOARUで生じた失態とZ地方にある“白い家”で発掘している、“ダイヤモンドダスト”」。
関口は自身の言葉に対する、館林の返答に期待していなかった。なぜなら、想像できるからだった。館林係長は、自身と同じような思いを抱えている・・・と何となく感じていたからだ。
財務部 元上司&部下の関係。花壇での決断。
「ミズノさんありがとう。ダイヤモンドダストの成分について、調べてくださって・・・確かに自社の貢献に繋がる貴重な物質は殆ど含まれていませんでしたが、あなたには感謝しています」。
今は人事部の課長である内藤は、社屋の向かい側にある花壇を挟んでミズノの労を労った。次はミズノが応える番だ。
「ただ、わずかに不明な物質が確認されたので、再検査依頼について、上層部に申請を出しています。内藤課長の意向である、上層部に内密で進めるといった意向に反していますが、申し訳ありません。社内システム上、仕方のないことです」。
ミズノの応えに努めた笑顔で、頷く内藤。そんな時だった。内藤は自身の傍らにある、エコバックから軍手を二組取り出し、そのうちの一組をミズノに投げ渡した。そして、彼に問うのだった。
「ありがとうございます。でも、ミズノさん、その物質を調べて、もしも、何らかの有効な資源になるのであれば、あなたならどうしたいのですか?TOARUのために、どのように貢献したいと思うのですか?」
軍手をはめながらミズノに問う内藤の真正面に強めの風が吹いた。花壇の中の土が舞い、彼女のスカートの裾に散らばった。それでも、気にせずに彼女は軍手をはめた両手で、花壇の土を掘り起こす。この姿につられて、元部下のミズノも同じアクションを興す。そこに再び風が吹く。互いに向かい合わせの二人に土埃が容赦なく覆った。
「TOARUのために、何かしたいなど、とっくに思っていらっしゃいませんよね。内藤課長は・・・
A元課長を呼び戻すのも、実は迷っておられるのではないですか?」
土埃をぬぐいながら、紳士的に優しい声で言葉を選びながら、元上司に質問するミズノ。そこに、今度は容赦のないボリューム感の声が響いた。
「ミズノさん!私の質問に応えてください!あなたなら、どうしたいのですか?」
土を掘り起こす手を止め、ミズノが内藤の方を真剣なまなざしで見つめる。内藤の瞳に自身が映り込む。
何が相応しい答えなのか?考え直すも、彼なりの答えしか、口に出せない。
「組織に属していれば、何がやりたいかなど、内藤課長なら言っていられないこと、ご存じですよね。自身のやりたいことと、組織の意向がイコールになることなど、稀です。TOARUの方針に沿いながら、貢献すべきことを、探して実践するだけです」。
これが本当にミズノの声なのか?どうも、違うような気がする。何かが作用している、だから土埃が容赦なく吹き付けている。そんな思いでいっぱいになる内藤。思わず、叫んでしまうのだった。
「TOARUの組織にばかり注目しているから、皆が自身それぞれを見失っているのよ!私たちも、自身の錨をここに、しっかりと置きましょう!」
ミズノは、いくら大きな声で内藤が叫んでも、驚きもしない。花壇を掘り起こし、小さな種を捲きはじめていた。どことなく光沢がある種だ。そう、あの“ダイヤモンドダスト”を捲いているのだ。その姿に内藤はホッとした表情を浮かべていた。このシーンの締めくくりは、内藤のセリフで終えようとしている。
「何が咲くのかしら?種の中の組織が太陽の光や水や肥料を与えられながら育っていく。ヒトも内部の身体の細胞組織を躍動させて、地球規模に影響を与えるようにならないとね」。
ミズノも黙っていない。
「宇宙規模に影響を与えることも必要かもしれません。TOARUの組織など、我々社員が有効利用すれば良いことでしょう」。
二人は、互いに笑い合っている。
次回につづく・・・