労務管理担当者なのに過重労働?過重労働の定義とは?

労務担当者の過重労働

労務管理担当者の職務は、企業によってその役割に多少の差はあるものの、おおむね次のようなものになります。

・労働時間管理(有給残管理、代休又は振替休日などの休日管理と作業の効率性の調査などの職務分析を含む)
・給与計算業務
・安全衛生管理
・社員のライフイベントに沿って生じる必要な諸手続きの管理
・労使関係管理

このように、労務管理の担当者の職務としては、給与計算業務に直結し、また安全衛生管理にも直結する社員の労働時間管理が筆頭にあげられます。しかし、労務管理担当者自身が、実は過重労働にさらされているという事態を招いているケースもあるようです。

転職サイト「DODAホンネの転職白書」によると、全58職種の職種別平均残業時間の調査では、人事職の平均残業時間は21.1時間となっており、全58職種中44位と比較的残業時間の点では過重労働とは言えない実態も見てとれます。

これは、営業系(建築・不動産)の平均41.9時間(同8位)、経理・財務の平均23.2時間(同40位)と比較すると少ないです。

労務管理は労働時間の面からみると、過重労働にはあてはまりません。

しかし、昨今の売手市場における新卒採用や転職市場において、会社から与えられる採用目標は必ずしも楽なものではありません。せっかく内定を出しても、辞退の可能性は入社直前まで残されており、せっかく入社してもらったとしても組織になじむ暇もなく会社を去っていく人材も存在します。

また、労務管理の職務は、中小企業においては専任の人材を配置することは稀で、他に経理、経営企画、法務渉外担当などを兼ねていることも少なくありません。このように考えると、人事(労務管理)担当者の労働時間の実態は、統計上ベールに包まれている部分があると言わざるを得ません。

 

■ そもそも過重労働とは?

そもそも「過重労働」という言葉の定義についても認識しておく必要があります。
過重労働と聞くと、多くの方は「労働時間の長短」を意識しがちなのですが、過重労働に該当するか否かは労働時間の長短のみならず、心理的負荷の観点も考慮されます。

この点、まずは疫学的に長時間労働や心理的負荷が影響すると考えられている労働災害には「脳・心臓疾患」と「精神疾患」があります。

このうち、長時間労働と「脳・心臓疾患」については、

①発症前1か月から6か月間にわたって、1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できる
②おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること
③発症前1か月に概ね100時間又は発症前2か月ないし6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること

といった基準が厚生労働省より通達で示されており、それまで非常に分かりにくく労働者保護の観点からは不十分であった労働時間と労災認定との関連性に一定のルール化が図られるようになりました(平成13年12月12日基発第1063号等)。
(参考:厚生労働省Webサイト 脳・心臓疾患の認定基準の改正についてhttp://www.mhlw.go.jp/houdou/0112/h1212-1.html

また、同通達では、精神的負荷を原因とした「脳・心臓疾患」について、「極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常事態」が発症直前から前日にかけてあった場合には、同じく労働災害として認定されうるという基準を示しています。これは「労働時間」に関わらない労災認定基準です。

さらに、「精神障害」を理由とした労災認定の基準としては(平成23年12月26日基発1226第1号等)、

①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
②認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負荷や個体的要因により発病したとは認められないこと

といった基準が示されています。この点も「労働時間」とは必ずしも関連しない労災認定基準となります。

以上のように、過重労働に該当するか否かは、確かに「労働時間の長短」も重要な要素であることに間違いはありませんが、その一方で「心理的負荷の強弱」もまた同じように過重労働に該当するか否かを考えるうえでは重要な要素なのです。

職業別自殺者表

この点、参考資料として、警察庁による「平成27年中における自殺の状況」をみてみましょう。もちろん、必ずしも「自殺」と「過重労働」との因果関係は明確ではありません。

しかしながら、両者は全くの無縁ではないと仮定することに大きな異論はないものと思われます。この資料から「事務系職種」が私たちの持つイメージ以上に自殺者の割合が多いことが分かります。

まず、自殺者の割合のうち、もっとも割合が高いのは、自営業者や家族従事者ではなく被雇用者になります。しかも驚くべきことには、この被雇用者の中で圧倒的に自殺者数が多い職種が「事務員」なのです。もちろん、この「事務員」が全て「労務管理担当者」ということはありません。しかしながら、事務系の職種であったとしても、統計的には非常に強い心理的プレッシャーを受けていることがこのデータからは演繹できるのです。

それでは、次回は上にみた「過重労働」についての知識を前提に、具体的に企業に求められる安全配慮義務(労災を未然に防止する義務)と仮に労災認定を受けてしまった場合の経営上のリスクについて考えてみます。

 

次:『社員の長時間労働に要注意。企業に求められる安全配慮義務とは

ライタープロフィール

横井 祐

横井 祐

特定社会保険労務士兼DCプランナー

特定社会保険労務士、DC(Defined Contribution Plan 確定拠出型年金)プランナー。自動車メーカー系総合商社、ベネッセスタイルケアを経て2010年ヨコイ・マネジメントパートナーズ設立。 2015年度厚生労働省過重労働対策セミナー&労働条件相談ホットライン検討委員会メンバー。 介護保険、人事マネジメントに関する書籍等の執筆、社会保険労務士業、経営コンサルティングサービスなどで全国各地の顧問先のお客様と日々奮闘中。

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