アウトソーシングと内製(インソーシング)のメリット・デメリット
「アウトソーシング」そのものは、現在、特に珍しいものではなくなりました。
アウトソーシングとは、企業の業務遂行の一部を外部に委託することをいいます。アウトソーシングの反対は、“内製(インソーシング)”といわれます。
それでは、このアウトソーシングとインソーシングにはどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。この点について、従来からよく指摘されているポイントを踏まえて整理してみます。
人件費(費用)の削減目的でアウトソーシングを行うと失敗することがある?
上にみたように、インソーシングのデメリットとしては人件費の固定化があり、アウトソーシングのメリットには人件費に相当する外注費を変動費化することができるのがメリットです。
しかしながら、これはアウトソーシングすればコスト削減もできることには必ずしもつながりません。なぜなら、アウトソース先は、受託する業務の内容によっては高度専門人材でこれを担うことになるため、受託費用が低くなるとは言い切れないからです。
ここで注意する必要があるのは、アウトソーシングによる変動費と対比すべきはインソーシングのための人件費だけではないことです。人員が社内に存在する以上、そこにはマネジメントコストもかかってきますし、社内で業務を進めるためには、そのためのPCなどのOA機器設備も用意する必要があります。
人員がオフィス内にいる以上、その人員が使用するスペースもオフィス賃貸料の一部が割かれていることになります。こうした総合的な観点から考えることが必要です。
マルチタスクによる見えない時間コストとも比較する必要がある。
特に中小企業においては、1人の人員が複数の業務を担っていること(マルチタスク)が一般的です。これは、一人の人件費で複数の業務をこなすことになりますから、コストパフォーマンスが良いように見える(人件費が安くみえる)ことが厄介です。
このような場合は、過分な時間コストが生じているという問題を見落としがちです。マルチタスクであるがゆえに効率性が落ちたり、また本来、時間を割いてもらうべき業務(コア業務)がおろそかになってしまい、結果として「時間」という見えづらいコストを過分に生じさせていることがほとんどだからです。
反面、マルチタスクによるメリットもあります。社内の様々な業務に精通した人材の育成につながることが考えられるからです。ただし、相当スキルの高い人材でない限りは、マルチタスクによる業務の効率化には早晩、限界が生じます。
総額人件費の観点から整理するアウトソーシングとインソーシングのメリットとデメリット
このように考えてみると、アウトソーシングとインソーシングのメリットとデメリットには伝統的な分類とは別に新たな見方ができるようになります。すなわち、単なる「人件費」の観点からだけではなくこれまで見てきた種々の観点を含めた「総額人件費」の観点から、両者のメリットとデメリットを整理する必要があります。
アウトソーシングとインソーシングはどう選択されるべきか?
アウトソーシングとインソーシングをどう選択されるべきかについては、おおむね次の整理ができます。
【インソーシングを選択すべき場面】
- コア業務がおろそかにならずにマルチタスクを担えるレベルの業務量であること
- コア業務がおろそかにならないマルチタスクの業務量が任せる人材のキャパシティの範囲内に収まっていること
【アウトソーシングを選択すべき場面】
- コア業務が圧迫されてきている中で品質を保ちながら外部のリソースを有効活用したい
- 単純な「人件費」削減の観点ではなく総合的な費用対効果の観点から自社の業務を効率化させたい
これを表で表すと以下のようになります。
クラウドソーシングの誕生
上にみたように、明らかにアウトソーシング(又はインソーシング)を進める場合が企業にとってベストであると判断できる場合もありますが、多くの場合はそれぞれのメリットとデメリット、そして自社が今後どのように事業を展開していくのかの経営判断によらざるを得ないことがわかります。
最近ではクラウドソーシングも無視できない存在になっています。
クラウドソーシングとは、Web上で自社が発注したい制作物等のデザインや自社の給与計算業務などを担ってくれる人材を募り、応募のあった中から最適と思われる希望者に対して業務を発注する仕組みのことをいいます。
アウトソーシングはその業務におけるプロフェッショナルが担うものであるのに対して、クラウドソーシングにはアマチュアも混在している点が異なります。クラウドソーシングはアウトソーシングのひとつであるといえますが、次のように整理してみると違いは明確です。
モバイルワークという働き方の登場
そして、これと似て非なるものとして、モバイルワークという新たな就労形態にも注目が集まっています。国も過重労働の防止や子育て世代の就労参加を推進するといった観点から推進しています。
(例えば、総務省「ICT成長戦略会議」http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ict_seichou/index.html)
また、東京都には「ワークライフバランス推進助成金」(平成27年度の募集は終了済)が用意されており、企業がモバイルワークを進めていく上で必要となる使用機器類の整備や社員への教育研修に要するコスト負担の軽減策を講じています。
モバイルワークは広義には固定のオフィスを持たずに社員間が自由な場所で就労し、業務遂行に必要なコミュニケーションはチャットやテレビ通話などを利用しながら進めていく就労形態です。モバイルワークが浸透してくると、総額人件費の観点からすればオフィス賃料の削減や社内設備への投資コストの軽減にもつながります。結果的にますますアウトソーシングとインソーシングのコスト面での優劣は付きにくくなるでしょう。
反面、モバイルワークは社内ノウハウの蓄積があまりできず、情報漏洩のリスクなどの注意点もあります。
企業としては、アウトソーシング、クラウドソーシング、モバイルワークという新しい就労形態を、総合的な観点から選択し、自社にとっての最適な業務の進め方についての判断が求められるでしょう。