ドラッカー『マネジメント』とアウトソーシングvol.2 知識社会に特有な課題とアウトソーシングの役割

 

■マネジメントは肉体労働の分析から始まった

ドラッカーは、「科学的管理法のフレデリック・テイラーこそ、仕事を研究対象とした最初の人である」と、高く評価しています。

日本は明治時代で、渋沢栄一が論語を用いて儒教的なマネジメントを模索していた時期ですが、フレデリック・テイラーは、肉体労働の生産性を高めるための科学的な方法を研究していました。

例えば、テイラーは、レンガを積み上げる仕事を観察し、積み上げ作業を個別の要素に分け、ストップウォッチで所要時間を測定しました。そして、最も疲れず、短時間で成果をあげる新しい積み上げ方を考え、働く人々に教えました。

これにより、レンガ積みの仕事の生産性は何倍にもなり、労働者の賃金も増え、十分な休憩時間も確保できるようになりました。さらに経営者に対し、一定以上の生産性を労働者に求めない約束をさせることができたのです(テイラー『科学的管理法』)。

テイラーが行ったことは、現代の言葉でいうと、インダストリアル・エンジニアリング(IE)です。この科学的管理法は、「能率運動」として日本でも導入され、第二次世界大戦前の食器メーカーなどの製造業や、銀行などのサービス業に取り入れられました(佐々木 聡『科学的管理法の日本的展開』)。

ドラッカーは、テイラーの業績が正当に評価されていないとして、テイラーの偉大さを語り続けています。

 

知識にかかわる歴史において、テイラーほど大きな影響を与えた者はいなかった。(略)

熟練であれ未熟練であれ、肉体的な仕事はすべて、知識の応用によって分析され、組織されるとするテイラーの原則は、彼の同時代人にとって途方もない考えだった。技能には秘伝があるという考えこそ、長い間受け入れられていたものだった。(略)

テイラーが知識を仕事に応用した数年後には、肉体労働者の生産性が年率3.5%ないし4%で伸び始めた。この数字は、18年で倍増することを意味した。(略)

この前例のない生産性の伸びが、先進国における生活水準と生活の質の向上をもたらした。それら先進国における生産性の伸びの成果の半分は、購買力の増大、すなわち生活水準の向上をもたらした。1/3は自由時間の増大をもたらした。

ドラッカー『ポスト資本主義社会』(名著集8,ダイヤモンド社,2007年)p.46-51

 

ドラッカーによると、テイラーの実践による生産性の向上が、アメリカの豊かな中間層を生み出したとされています。医療費や教育費も増加し、生産性の伸びのほとんどは、「テイラーが予言したように労働者、つまりマルクスのいうプロレタリアの分け前と」なったのです(『ポスト資本主義社会』p.51)。

 

■ドラッカーによる知識社会というモデル化

 ドラッカーは、テイラーの科学的管理法が肉体労働にしか適用できないことに気がついていました。また、歴史的に組織が次々と巨大化していくことを発見していました。

 

1900年にいたってなお、あらゆる国において社会の主役は家族だった。組織などはなかったし、あっても小さかった。(略)

当時の人たちが怪物として恐れたロックフェラーのスタンダード・オイル社は、1911年、連邦最高裁によって14社に分割された。しかし、30年後の第二次世界大戦の直前には、その14社のうち最小のものさえ分割前の4倍以上になっていた。

ドラッカー『マネジメント(上)』(名著集13,ダイヤモンド社,2008年)p.35

 

病院も行政機関も大学も研究所も労働組合も、規模と複雑さを増した大組織になりました。組織が巨大化するにつれて、肉体労働ではない、知識労働が重要となってきます。

 

先進国の経済において、基礎的資源、基礎的投資となり、しかもコストセンターとなるものは、知識労働者である。

知識労働者は、肉体的なスキルや筋肉ではなく、体系的な教育から学びとったもの、すなわちコンセプト、理論、思考を使って働く。

ドラッカー『マネジメント(上)』(名著集13,ダイヤモンド社,2008年)p.35

 

そして、知識労働者が成果をあげるには、知識労働者どうしが協調し、協力できる「組織」が必要になります。

知識労働者は、その活躍の場として組織を求めました。そして組織は、目的を達成するために多様な知識労働者を求めたのです。ドラッカーによる分析によると、知識労働者と組織の結びつきが深まるにつれ、世界は、知識社会・知識経済へ移行していきました。

ドラッカーは、テイラーの肉体労働に関する分析に共感し、研究していたからこそ、肉体労働ではない、知識労働を大きな変化として見つけることができたのです。

 

■知識社会の課題とマネジメント

ドラッカーは、先進国におけるマネジメントの課題として、知識社会に特有な課題を指摘しています。

 

先進国におけるこれからのマネジメントの最大の課題は、知識の生産性を高めることである。(略)

今日われわれは、テイラーのおかげで肉体労働者の生産性を定義できるようになったものの、(略)知識労働者の生産性を定義することは、できていない。

肉体労働者の生産性を表す1時間当たり、あるいは賃金1ドルあたりの生産量という尺度は、知識労働者の生産性には使うことができない。

ドラッカー『マネジメント(上)』(名著集13,ダイヤモンド社,2008年)pp.35-36

 

近年では、非財務情報への注目やKPI(Key Performance Indicator,重要業績評価指標)の設定などで、仕事の目標と成果を測定しようとしています。

それでも、知識労働の生産性向上は、肉体労働の生産性向上の実績の比較において、なお解決されていない課題です。

 

知識労働者の生産性の向上には、仕事の構造、働く者のキャリア、組織に関して、(テイラーの)科学的管理法が工場にもたらしたものと同様の変革が必要だということである。

知識労働では、恐怖による生産性の向上はありえない。自ら動機をもち、自ら方向を決めるのでなければ、生産的に働くことはできない。

ドラッカー『マネジメント(上)』(名著集13,ダイヤモンド社,2008年)p.36, 224

 

この知識労働者の生産性向上が、現代のマネジメントにおける最重要の課題です。しかし、知識労働のマネジメントには先例がなく、手探りの状況となっています。

 

知識労働のほとんどは、その生産性を測定することはもちろん、定義することさえできない。

せいぜい生産性を測定できるのは、文書係か販売員である。メーカーの営業となると、もう生産性の概念は曖昧となる。売上か、利益か。顧客をどれだけつなぎとめたか。新たな顧客をどれだけ獲得したか。

営業よりはるかに生産性の測定が難しいのが、設計エンジニア、サービスエンジニア、品質管理担当者、販売予測担当者、さらには教師、研究者、マネジメントの人間である。

知識労働者の仕事を通じての自己実現は、さらに明らかにすることが難しい。貢献、成果、価値、自己実現のいずれが、いかなる満足をもたらすかは、知識労働者本人だけが知りうることである。

ドラッカー『マネジメント(上)』(名著集13,ダイヤモンド社,2008年)p.225

 

このドラッカーの印象からすると、顧客満足や従業員の仕事を通じての自己実現が、知識労働の生産性と関連しているようです。

事業とは顧客の創造であり、事業の目的は顧客の満足です。そのため顧客満足度の高い仕事を短時間で遂行できれば、その知識労働の生産性は高いと評価できるでしょう。

また、従業員の満足度が高いということは、おそらく知識労働である仕事が快調で無駄が無く充実していると考えられます。それは客観的にも生産性が高い状態といえるでしょう。

 

■知識労働者の生産性向上とアウトソーシング

 知識労働者の生産性向上に対して、アウトソーシングという仕組みがどう役立つか、ポイントを整理します。

肉体労働であれば、成果は時間あたりの生産量で測定できます。品質を加味する場合、品質の高い成果物の比率なども計算していきます。

一方、知識労働の成果は測定が難しく、従って、どの作業手順が良いのかという評価は不安定となります。

また、仕事の手順をどう決めるかも、肉体労働と知識労働とでは異なります。肉体労働や定型的なサービス労働は、業務の専門家が作業手順を考えてマニュアルにし、多数の作業者に仕事の仕方を教えます。一方、知識労働の場合、最適な作業手順や改善案は、知識労働者本人が考え出す以外ありません。個別性が高く、知識労働者の生産性がなかなか向上してこない理由の1つとなっています。

それでは、知識労働の生産性をアウトソーシングで向上させる方策を、これまで確認してきたドラッカーの教えを参考に考えてみましょう。

このVol.2までの分析で、下記のようなアウトソーシングによる生産性向上の案を得ることができます。

 

[1] アウトソーシングで、作業のコストを明確化
社内業務の生産性が判断できないのは、市場経済が導入されていないためです。例えば、一定の予算でリスクを最小にするといった生産性向上を目指すには、システム運用であっても品質管理であっても際限なく精度を求めていくのではなく、業務を切り出して、アウトソーシングすることが考えられます。

 

[2] ノンコア業務のアウトソースでコア業務に集中
営業・医師・看護師・教師・設計者・開発者・プログラマー・接客を主とする販売員などの知識労働者は、請求書や税務・会計処理や会議への出席、事務的な報告書の作成などのノンコア業務に時間をとられることが多いとされています。そのため本来の顧客・患者・生徒への対応や、研究開発に時間を割けないのが現状のようです。このような状況では、生産性が低下するのみならず、仕事のモチベーションも低下していきます。

社員の雑務をなくすために、事務的なノンコア業務をアウトソーシングすることが考えられます。コア業務へ集中できると、仕事への満足度が高まることが知られています。

 

[3] 競争のない社内業務をアウトソーシングし、競争を導入
社内食堂・印刷部門・調査部門・人事部門など、社内で競争がなく社内の他の部門の満足度が高まらない場合があります。このような場合は、アウトソーシングすることで競争を導入し、顧客満足度を高めるための仕事をしてもらうことが考えられます。

 

[4] 専門性の高い上司のいる組織へアウトソーシングし、働く満足度を高める
例えば病院では、医師と看護師が主力であり、一般的に会計や入院施設の清掃・整備などの業務に従事する人は病院という組織の中心になることはできません。

例えば、病院のベッドメイクをするメキシコ出身の女性が、病院でトップマネジメントに入る可能性はないということです。

このような、トップマネジメントへの昇進の道が閉ざされている場合、ベットメイキングという専門的な業務を、アウトソーシングという形で受託することで、評価が変わります。

実際、このベッドメイクの仕方を工夫して生産性を格段に高めた、メキシコ出身の移民女性は、その後、アウトソーサーであるメンテナンス企業の副社長にまで昇進しました(『ポスト資本主義社会』pp.120-121)。

これは、アウトソーシングの活用により、その業務について専門性が高い上司と出会うことで仕事の満足度が高まったケースです。

知識労働の生産性を測定することはできません。しかしドラッカーの知識社会というモデルを使って、顧客の満足度と従業員の満足度とを評価基準とすることができます。

これにより、どの業務をアウトソーシングすれば、より望ましい改善をしていくことができるか、戦略を練っていくことができるのです。

 

 

<<参考文献>>

ドラッカーとマネジメントに関する書籍を紹介します。

【入門】
(1)ピーター・F. ドラッカー著,牧野 洋 訳『ドラッカー20世紀を生きて―私の履歴書』(日本経済新聞社、2005年)

日本経済新聞の「私の履歴書」を編集したドラッカーの自伝です。

(2)上田 惇生=井坂 康志 著『ドラッカー入門 新版—未来を見通す力を手にするために』(ダイヤモンド社、2014年)

マネジメントから文明論まで、ドラッカーが信頼した経営学者で翻訳を手掛けた上田氏と、ドラッカー学会の井坂氏による解説です。

(3)中野 明 著『「超ドラッカー級」の巨人たち – カリスマ経営思想家入門』(中央公論新社、2011年)

ドラッカーを原点に、プラハラード、ミンツバーグ、コッター、ポーター、コトラー、クリステンセンの経営思想を短文で深く解説しています。

 

【中級】
(4)ドラッカー他『経営者に贈る5つの質問』(ダイヤモンド社,2009年)

ビジョンを探り、経営計画を立案するために役立つ5つの質問と、それぞれの専門家からの特別寄稿がおさめられています。経営計画、事業計画を検討する際に、もれの無い思考をするためのお勧めの書籍です。

(5)スチュアート クレイナー 著,嶋口 充輝 訳『マネジメントの世紀1901~2000』(東洋経済新報社、2000年)

20世紀のマネジメントの歴史を、時代と人物で区分けして、ドラッカーの言葉を引用しながら解説しています。マネジメントやコンサルティングへのニーズがどう変化し、新しい方法がどのように企業を変革していったかを把握できる書籍です。

(6)井原 久光 著『テキスト経営学―基礎から最新の理論まで[第3版]』(ミネルヴァ書房、2008年)

経営学の歴史と現在を体系付けた教科書です。ドラッカーについても、たとえば、「ドラッカーは、事業の目的は「最大利潤の追求」ではなく「顧客の創造」であるとし、市場創造の重要性を強調している。そして、そのために、2つの基本的機能、すなわち、マーケティングと革新(イノベーション)の重要性を説いている(p.24)」と位置づけています。また、章ごとの参考文献情報が標準的で有用です。

 

【上級】
ダイヤモンド社からドラッカー名著集が出版されており、15巻まであります。

・マネジメント関係 『現代の経営』(上,下)、『マネジメント』(上,中,下)

・イノベーションの方法 『イノベーションと企業家精神』

・事業戦略 『創造する経営者』

・NPOのマネジメント 『非営利組織の経営』

・社会・文明論、知識社会 『断絶の時代』、『ポスト資本主義社会』

名著集に含まれない文献としては、『ネクスト・ソサエティー』、『見えざる革命』などがあります。

ライタープロフィール

鈴木 健治

鈴木 健治

弁理士・経営コンサルタント

特許事務所ケイバリュエーション 所長 ・経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員、日本弁理士会中央知財研究所 知財信託部会の研究員などを歴任。 ・平成18年信託法改正時に法制審議会信託法部会を傍聴し、日本弁理士会での信託法改正に関するバックアップとなる委員会の委員長を務める。 ・著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。 ・お取引先の要望に応じて、市場調査、ブランディング、従業員意識調査の統計分析などのコンサルティング業務も手掛けている。中小企業診断士が主体の「知的資産経営(IAbM)経営研究会」会員。 公式サイト:http://kval.jp/