中小企業が法務を内製化するときに重要なポイントとは

会社を経営していく上ではさまざまな法律行為がなされます。中にはトラブルになり訴訟にまで発展してしまうケースもありますが、法的なリスクコントロールのために重要なのが法務部署の存在です。

大企業では社内に専門部署として法務部署を設置している企業が多く、資本金の額が大きくなるほど法務部署の平均人数も増加しています。例えば経済産業省の「企業法務先進国における法務部門実態調査」によれば、資本金500億円以上1千億円未満の会社では法務部署の平均社員数は17名ですが、3億円未満の会社における平均社員数は3.6名です。これよりさらに規模の小さい会社の場合、専門部署や専門担当者すらいないケースは少なくありません。

そこで今回は、規模の小さな中小企業では法務はどのように行われているのか、その実情に加えて法務を社内で内製する際にポイントとなりうることについて紹介します。

 

法務の重要性は増している

中国をはじめとするアメリカやアジアなどへの輸出企業数は増加しており、海外取引が増加しているため、それに伴って契約書の締結機会が増加しています。また、国内でも120年ぶりに商法が改正され、船舶衝突による損害賠償請求権等債権の消滅時効の起算点が変更になるなど、新たに契約書を作成する必要が生じています。法改正や制度の変化に対応できないまま契約や訴訟対応などを行うことは絶対に避けなければなりません。

また、社内に担当者がいないためにリスクの把握や判断に時間がかかり、ビジネスのスピードに影響が出てしまうこともあります。これまでも法務は重要でしたが、近年さらに法務の重要性は増しているといえます。

 

法務部署が携わる業務とは

法務部署が携わる業務は多岐にわたりますが、特に重要となるのがこれらの業務です。

・契約に関わる業務
取引先との売買契約や賃貸借契約、社員との雇用契約など、契約は多岐にわたります。これらの契約スキームを作成し、契約書の作成とリーガルチェックなどを行う業務です。

・訴訟に関する業務
顧問弁護士などと連携して訴訟などのトラブルに関する業務を行います。必要な資料をとりまとめて弁護士に提供し、事実調査などを行う業務です。

・コーポレートガバナンス関連
コーポレートガバナンスに対する企業の方針取り決めや、取締役会・監査役会等の運営や報酬・選任のルール策定などの業務を行います。

・コンプライアンス関連
企業のコンプライアンス体制を整備し、研修などを実施しながら社員教育に関わるほか、従業員と会社・顧客と会社などの紛争に対応するといった業務を行います。

・株式・会社関連
株主総会の運営や株式事務、株主対応などの業務を行います。

・知財関連
制作物の特許や商標権の取得、第三者からの権利侵害などに対応します。自社で開発した商品の著作権や商標を巡っては過去多くの訴訟が行われており、これらの権利をいかに自社で保護し、権利の侵害が行われていないかを監視することはますます重要になってきています。

・労働問題関連
就業規則や顧問契約書の作成、従業員との紛争の対応や、労働基準法に沿った労働環境であるかのチェックなどを行います。

法務部署の業務は他にも業務提携やM&Aに関する業務、内部統制や広報関係など多岐にわたっていますが、違う視点から分類すると予防法務と事後の紛争処理に区別することができます。

 

中小企業の実情

このように企業法務にはさまざまな業務が求められますが、専門の法務部署を置かない会社では以下のようなケースが多く見られます。

・経営者が契約書を作成・管理している
・総務課が労働関係の法務も対応しているなど、管理部署が法務部署を兼任している
・営業部署の担当者が過去の契約書をベースとして取引先との契約書を作成し、チェックを経ずに契約に進む

このように、これまで特に問題がなかった契約書をベースにして流用しているケースや、管理部署などで法務を兼任しているケースが多く見られます。また、顧問弁護士がいない会社においては、問題が起きたときには相談しやすい顧問税理士や顧問社労士に相談が行くケースが多いようです。

法務部署がない企業においては、総務や営業などのメイン業務が忙しいために法改正など最新情報を把握できない、メイン業務で手一杯となり法務をしっかりと学ぶ機会がないなどの問題点が見られます。

 

法務を内製するときのポイント

顧問弁護士を置き、さらに社内に法務部署を置いて社内でも弁護士を雇用できれば法的なリスクコントロールは解決できそうですが、中小企業ではなかなか法務にコストを割けません。社内で法務を内製する場合、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか。

・弁護士との提携は不可欠

まず念頭に置いておきたいのは、法務を内製するとしても弁護士との連携はやはり不可欠だということです。顧問弁護士がおけないにしても、何かあったときにすぐに相談・依頼できる弁護士をあらかじめ見つけておくことは重要です。

弁護士に相談できるのは訴訟に関することだけではありません。契約書の作成を社内で行い、リーガルチェックだけを依頼することもできますし、労使紛争が起きそうなときに従業員と交渉を依頼することや、売掛金の回収が難しいときに債権回収のための書面作成や交渉を依頼することも可能です。どこまでを内製しどこからを弁護士に依頼するかは会社の方針によって異なりますが、弁護士との提携はリスクコントロールのために重要です。

・相談できる弁護士は早いうちから見つけておく

相談できる弁護士がいなければ、弁護士を探すところから始めなければなりません。弁護士が見つかったらそこから面談をして報酬額などをすりあわせ、最終的に委任するかどうかを決めることになりますが、条件が合わなければまた新たに弁護士を探すところからスタートしなければなりません。そうなると、弁護士が決まるまでに長い時間がかかってしまう恐れがあります。
トラブルがさほど大きくない場合や緊急性がない場合は問題ないかもしれませんが、例えば従業員が傷害事件を起こして逮捕された場合や社有車で死亡事故を起こしたというような重大なトラブルの場合、弁護士を探すところから始める時間の余裕はありません。あらかじめ相談できる弁護士を見つけておくことは重要です。

弁護士の見つけ方としては、地域の弁護士会に「この分野を専門としている弁護士を探してほしい」と相談するのもひとつの方法です。また、特定の専門分野に特化した弁護士が研究会を組織していることがあるため、研究会を探すという方法もあります。
例えば東京弁護士会は「弁護士紹介センター」を設置して弁護士を探している人に対応していますし、「中小企業法律支援センター」などの各紛争に応じた窓口を設置して対応にあたっています。

このほか、弁護士が数多く登録しているポータルサイト上で専門特化している弁護士を探してアクセスするという方法もあります。
参考リンク:https://www.toben.or.jp/

・弁護士に相談するタイミングをあらかじめ決めておく

例えばトラブルが訴訟に発展してしまったら弁護士に依頼する流れになりますが、弁護士側としては「もっと早い段階で相談してほしかった」と思うことが多いようです。トラブルは大きくなればなるほど深刻化して解決にも多大な労力が必要になりますが、まだ火種が小さいうちであれば労力も小さくて済みます。それは労力だけでなく、コストにおいても同様です。中には「紛争になりそうだと思ったタイミングで相談してほしい」と考える弁護士もいるほど、早期発見・早期対応は重要です。

弁護士に相談するタイミングについて担当者の感覚に任せてしまうと、担当者によって差が生じてしまいます。弁護士に相談するタイミングについては、可能な限り客観的な判断基準を設けておきたいところです。

・専門分野については多少コストがかかっても社内教育が大切

法務部署や専任の担当者を置くコストがない場合でも、法務を内製する際には、事業に深く関わる分野においては担当者の知識を底上げしておく必要があります。契約書が交付されるたびに弁護士に依頼してリーガルチェックを依頼したり、細かい行き違いや疑問まで逐一弁護士に相談したりすることは、コストの面からも現実的ではないからです。

契約は口頭でも成立する、公序良俗に反することを約束しても無効になるなどの基本的な法的知識に加え、業務に深く関連する分野の基礎知識まで把握しておけば社内で対応できることが増え、長期的に見ればコストの削減に繋がる可能性が高まります。

・社外研修を活用する

社内法務の意識が高い会社は社外研修を活用する傾向が強いようです。パンフレットやメールマガジンなど、公的機関や法律事務所などが発行している情報物で法改正の情報や最新判例などをチェックすることも可能ですが、受動的になるためどうしても後回しになってしまい、メールボックスに未開封のメールが溜まりっぱなしになったり、デスクに書類だけが積み上がったままになったりしてしまうケースも散見されます。

そこで活用したいのが社外研修です。例えば契約書の書き方や民法改正のポイントをわかりやすく解説した講座、労働基準法の基本的な考え方や注意点など、企業法務に関しては多種多様な社外研修が行われています。

 

まとめ

今回は、中小企業が法務を内製するときに気をつけたい視点について紹介しました。専門部署を置くことが難しい企業では、総務課の社員が法務を兼任したり業務によって担当者が違うということも珍しくありません。また、内製化にあたっては基本的な法務に関する理解と弁護士との連携が重要なポイントになりそうです。

 

 

ライタープロフィール

金子 千鶴代

金子 千鶴代

ステラワークス代表・ライター。 商業施設や飲食業界などで10年近く経理・総務に従事し、2016年からライターとして独立。 「難しいことをわかりやすく伝える」をモットーに、これまで法制度や行政、住宅や公的保険などのコンテンツを数多く執筆。