働き方改革で労働時間はどうなった?! 生じた弊害とその打ち手

2019年4月、働き方改革関連法が大企業から順次施行され始めました。これを受け、各企業では働き方を見直す流れが高まってはいますが、全ての企業で働き方改革が順調に進んでいるのでしょうか?

制度は導入したものの別の問題が…、と表面上の取り組みに目を奪われ、本質的な改善が進んでいないことも多いでしょう。本記事では「働き方改革」という言葉に踊らされている現状とその弊害などについてフォーカスしていきます。

 

働き方改革の弊害とは

働き方改革は、社会構造の変化やサービス残業の常態化による心身の不調などの問題を解決すべく行われた大改革です。

労働時間の適正化は進んでいるの?

2019年4月に株式会社あしたのチームが実施した調査*によると、労働時間の適正化が進んでいない企業が7割近くという状況にまず驚きました。法改正を受けて、対応に慌てている状況がうかがえます。

それでは、適正化を進めている企業において弊害となったものはどのようなものがあったのでしょうか。勤務時間が減ったことから残業代が少なくなり、給与が減ったという社員の経済的な話もあります。具体的に、本調査で「労働時間の適正化(長時間労働の是正)のための施策を実施している」と回答した方に対し、労働時間の適正化(長時間労働の是正)を進めようとする中で、会社で起こったことの回答項目を見てみましょう。残業をしないよう制限をされているが業務が減るわけではない、そのため休憩時間を業務にまわしたり申告せずに持ち帰り仕事をしたりするなど、厳密には労働基準法に抵触する働き方が常態化している職場も少なからずあるようです。旧体質な企業ほど、就業時間を減らすことだけに目を向け、これまで通りの仕事をこれまで通りの手順を踏んでこなそうとするため、弊害は大きくなりがちです。
*:「2019年4月 中小企業の働き方改革実態に関する調査」(株式会社あしたのチーム)

部課長クラスの労働時間が増えた!?

最も目立った項目です。多くが労働時間を減らすことを命じられた管理職クラスの人々です。彼らはメンバー社員の残業時間を管理したり、終わらない業務のしわ寄せで負担が大きくなっているという事象が発生しています。

労働基準法に定められた時間が適応されるのは、裁量権を持たない一般の労働者です。つまり、自分で自分の働き方をある程度決める権限を持った「管理監督者」の立場にある人は、労働基準法の定める労働・休憩時間、休日などの縛りがありません。この点を利用して、他の労働者がやり残した仕事を代わりに行うケースが多くあるのです。

裁量権や相応の報酬、勤務の有り方などいくつかの要件をクリアして「管理監督者」となるわけですが、中には要件を満たしていない部課長クラスを「管理監督者」と混同している企業もあり、残業をめぐるトラブルで裁判に発展するケースもありえます。

部課長クラスにも働き方改革は必要

それでは法令に引っかからないからと言って、管理監督者の要件を満たした部課長クラスは本当に無制限に働いても問題はないのでしょうか?

確かに、労働時間の上限はありませんが、働き方改革関連法施行以降は、管理監督者も労働時間をタイムカード等の記録に残してきちんと把握しておく義務は発生します。また月80時間以上残業した場合には、管理監督者であっても産業医の面接を受けることになります。

このような流れから、そもそも部下を帰宅させて上司が仕事を片付けるという体制が企業として健全な姿であるとは言えず、本質的な働き方改革ではありません。

 

会社全体の働き方を改革するために必要なこと

管理監督者も含め、本来の働き方改革を実行するためには、業務効率化を避けては通れません。「24時間働けますか?」時代を過ごしてきた世代、特に現管理職に就いている方々に多いのではないでしょうか。この世代の方々は「これからの社会に適合していなければ変えていかざるを得ない」という意識を持つ必要があります。

これまで日本の多くの企業は顧客最優先の体制をとってきましたが、これからは自社の社員も大切にしていかなければ、会社が成り立たなくなる恐れさえあります。

それでは、ここから本質的な改革はどのようにしていくべきか考えてみました。

本質的な業務改善のテコ入れ

業務を遂行する人の問題だけではなく、そもそもの業務体制・仕組みの見直しが重要です。今の業務フローは見直しされていますか?IT環境の変化も激しく、部署単位で導入できるサービスもここ数年で格段に増えました。この機会に業務全体のプロセスから見直してみましょう。この取組は管理者が旗振りをしないと進みません。自身の働き方改革のためにも、まずは洗い出しから始めてみましょう。また、合わせてメンバーへのフォローも必要です。長年やってきた人ほど、変化を好まない人もいます。ずっとこうやってきたから…というものを一から見直し、変化を柔軟に受け入れられるような声がけ・事前の通達、フォローアップなどを欠かさずに行っていきましょう。

タスク管理で仕事の優先順位を見極める

本質的な改善は少し時間がかかるかもしれませんが、短期的にできることでは、「タスクの可視化・管理」などが挙げられます。仕事を細分化し、期限を決めるタスク管理は業務効率化にとって欠かせない一歩です。これは、個人で行う業務はもちろんのこと、チームで行う業務にも大きな効力を発揮します。

まず、全員のタスクを可視化することにより、仕事が明確になります。チーム全体でタスクの進捗を共有すれば、発注ミスや作業の重複を防ぐこともできます。ここで重要なのは、仕事に優先順位をつけることです。今しなければならないこと、今じゃなくていいことをしっかりと仕分けることで、無駄な残業の削減にも繋がります。社員のタスク管理を統一化したい時は、ツールやテンプレートなどから自社の業務内容に最もあったものを選び共有しましょう。

「やらない」を決める

郵便局が土曜日の郵便配達廃止を検討したり、NHKが来春から朝ドラの土曜休みを検討するなど、一般的には古い体質と思われがちな組織も、これまで当たり前だった商習慣を変えようとしています。

身近なところでは、たとえば「長いつきあい」や「次につながれば」と仕事を受ける習慣もあるでしょう。ただ、規定内の残業時間でおさまらないほどの仕事量を抱えているならば、採算の取れないような仕事は断る勇気も必要です。

業務プロセス全体の見直しにおいて、全てをまかなおうとするのではなく「やらない」を決めることも重要です。

工程バッファの見直しを図る

工程バッファでは、CCPM(Critical Chain Project Management:クリティカル・チェーン・プロジェクト・マネジメント)という考え方が効率的であると考えられています。これは、一つ一つの工程はギリギリの予算と納期を設定し、全体として予備を確保しておく、という考え方です。

例えば、全部で5つの工程がある作業で、1工程にかかる時間は10分だとしましょう。それぞれの工程に5分の余裕を持たせ、1工程15分に設定した場合と、1工程は10分で全体として25分の余裕を持たせた場合では、合計時間は両方とも同じですが、多くの場合で1工程10分に設定した方が早く仕上がります。

人間の心理としてあらかじめ余裕があると、その余裕を含めた時間内に仕上げればいいと思ってしまうからです。

業務効率化で時間を生み出す

「タスク管理」「受ける仕事の選択」「工程バッファの見直し」など、業務効率化につながる動きが成功すれば、時間が生まれます。それに伴い、通常の業務をツールやシステムに置き換えることも積極的に実行していきましょう。

余裕をもって仕事をすることで、ミスを減らし、一つ一つの仕事のクオリティを上げることができれば、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。

 

働き方の先進企業に学ぶ~週休3日がもたらすもの~

働き方改革関連法の施行を受け、多くの企業で様々な取り組みが行われていますが、大胆な方法で働き方改革を進めている企業があります。

従業員2,280名(2019年7月現在)を抱える日本マイクロソフト株式会社(以下、日本マイクロソフト)が、2019年8月の1カ月間という期間限定ながら全社員を対象(業務内容によっては期間をずらす例外もあり)に毎週金曜日、全オフィスをクローズにしての週休3日制を実施しました。

日本マイクロソフトでは働き方改革を経営戦略の中核に位置づけており、「ワークライフチョイス チャレンジ2019夏」と名付けた1カ月間、週休3日を柱とした取り組みを通じて、徹底した業務の効率化や、週休3日で生まれた時間の使い方の提案などを進めました。

徹底した業務の効率化

例えば、「会議」は多くの社員が業務の中断を余儀なくされます。とはいっても、情報の共有やプロジェクトの進行には欠かせないものでもあるでしょう。

日本マイクロソフトでは、会議の基本時間をこれまで慣習となっていた60分から30分に短縮し、参加人数も多くて5人までとする改革に取り組んでいます。

これはマイクロソフト社がグローバル企業で、海外との比較ができたことから生まれた発想とも言えます。日本式の会議は、同じチームから複数人が参加したり、本部長・マネージャー・現場社員など三階層が出席したりするなどの慣習があり、この点を改革すれば、より効率的な話し合いも可能です。

また、メールではなくビデオ会議などもできるチャットツールを使うことにより、必要性のないメールの送受信を省くことができ、コミュニケーションのスピードも上げられるといいます。

自分らしく使える時間

休日をどう使うかは個人の自由ですが、これまで仕事ばかりしてきた人ほど、休みが増えるとその使い方に困惑してしまうケースもあるでしょう。

日本マイクロソフトでは、この休日の使い方にも重点を置いています。例えば、自己研鑽をしたい社員のために学びの機会や、会社以外の地域や社会とのつながりを持つ機会を設けています。

また、サポートが必要な家族がいる社員には、より家族と関わる時間の取れる働き方を提案するなどの取り組みも行っています。

このような取り組みは、一見本来の業務とは関係のないようにも見えますが、新しい知識や、社会との繋がり、家族のサポートで得られる経験などが社員一人一人を成長させる糧となり、やがて会社にとっても大きな力となります。

 

利用したい!働き方改革に関連した補助金

具体的な改善の中には費用が発生するものもあります。そんな働き方改革を進める企業(主に中小企業)に対して、いくつかの助成金が用意されているのをご存知でしょうか。働き方改革のコンサルティングから、関連する新しいシステムの導入、企業内の非正規雇用者のキャリアアップを図るなど、様々な用途に使える助成金があります。そのうちの主なものをご紹介しましょう。

時間外労働等改善助成金

時間外労働等改善助成金とは、業務効率を高めることなどにより時間外労働を短縮するためのさまざまな取り組みに対して支給される助成金です。

・時間外労働上限認定コース
・勤務間インターバル導入コース
・職場意識改善コース
・団体推進コース
・テレワークコース

労務担当者や社員の研修、労務士など専門家によるコンサルティング、人材確保に向けた取り組み、労務管理機器の導入、テレワークの導入などの費用に充てることができます。
※2019年9月時点調査の内容であり、変更の可能性があります。実際にお探しの際は関係省庁、団体の最新情報をご確認ください。
出典:労働時間等の設定の改善(厚生労働省)

業務改善助成金

社員の働き方改革のためにパートなどの人材を確保したいと思っても、最低賃金以上の賃金が出せず、なかなか人が集まらないという悩みを抱えた中小企業もあるかもしれません。
そんな時利用できるのが、この業務改善助成金です。既存の設備やシステムの効率化を図り、その結果、賃金を引き上げられた場合、設備やシステムの導入にかかった費用の助成が受けられます。

キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、非正規労働者の企業内でのキャリアアップを図り、モチベーションやスキルの向上により生産性を高めることを目的とした助成金です。

・正社員化コース
・賃金規定等改定コース
・健康診断制度コース
・賃金規定等共通化コース
・諸手当制度共通化コース
・選択的適用拡大導入時処遇改善コース
・短時間労働者労働時間延長コース

非正規雇用者を正規雇用者へ転換するときや、非正規雇用者の待遇を改善し、人材の流出を防ぎたい場合などにも利用できます。
※2019年9月時点調査の内容であり、変更の可能性があります。実際にお探しの際は関係省庁、団体の最新情報をご確認ください。
出典:キャリアアップ助成金(厚生労働省)
    非正規雇用の労働者を雇用する事業主の方へ(厚生労働省)

 

まとめ

日本の会社員は、上司や同僚の目を気にしながら仕事をしてきました。自分の仕事は終わっていても、周りが残業しているのに自分だけ定時で帰るのは気が引ける、といった風土の残る会社もまだまだ多いことでしょう。これには長時間労働を良いことと評価する会社の評価制度や報酬制度も根底にあるのかもしれません。

働き方改革が成功するためには、企業だけでなく、一人ひとりの意識改革が必要不可欠です。そのなかでも、まずは経営層の確固たる意志が最も重要になります。本質的な企業の体質改善、管理職の意識改善に本気で舵切りをしていくと決定しないと、制度だけが空回りしたり、管理職の負荷が増える一方で健康を害するようになったり、企業としての損失しかありません。最初に投資コストがかかる場合もありますが、得られるものはそれ以上です。

また、個人単位でできることは、自分や自チームのタスク管理を行い、問題点を解消していくことで、企業全体としての効率アップにもつながると考えます。

そして、企業や社会が、長時間働くことではなく、時間当たりの生産性を評価するようになることが、働き方改革には不可欠と言えるでしょう。

 

 

ライタープロフィール

パプリカ

パプリカ

外資系総合商社と総合マーケティング支援会社にて法人向け営業職を経験。 世の中にあふれる情報をかんたんにわかりやすく、一人ひとりに合ったかたちで伝えることをミッションに活動中。