副業解禁! 会社のリスクと対応をおさらい

2019年から本格的に稼働が始まった働き方改革。その背景には日本の人口減少による労働力不足の解消という目的がありますが、働き方改革を踏まえて国が行っているのが副業や兼業の普及・推進です。

ほとんどの会社で副業が禁止されていた頃は正社員は当然のこと、派遣社員であっても派遣元のルールで副業ができない社員が多くいました。最近では社員の副業や兼業を認める会社は増えてはきたものの、リスクを感じて二の足を踏んでいる会社もまだ多いのが実情です。

会社で副業が許可されるにともない、管理部門にはどのような対応が求められるのでしょうか。

 

「副業」どんなものが人気?

本業の空き時間にできる副業としては、どのようなものが人気なのでしょうか。時代やITの普及などによって人気の副業は変化してはいますが、概ねこのあたりが副業としてはやりやすく人気だと言われています。

・アフィリエイトやYouTuber
・ハンドメイド作品などをネットショップやオークションなどで販売
・在宅でできるクラウドソーシング
・投資
・ミステリーショッパーやイベントスタッフなど、単発のアルバイト
・デザイナーやWebサイト制作、カウンセリングなど、スキルを活かした仕事

あくまでも本業が優先であるため、時間の拘束が緩く融通が利くこと、ある程度の収入が見込めること、スキルを活かせることなどが人気の理由となっているようです。

 

副業を認めることで、会社にはどんなメリットがある?

副業を許可することで、会社はどのようなメリットを得られるのでしょうか。厚生労働省では「副業・兼業の促進に関するガイドライン」上で、副業のメリットについてこのように考えています。

・自社では提供できないスキルや知識、経験を社員が手に入れられる
・それによって自社の事業拡大や競争力の拡大につながる
・社員が退職する機会を減らすことができ、優秀な人材を手放さずに済む

優秀な人材の流出阻止について、厚生労働省の「複数就業者についての実態調査」によれば、副業をしている人の58%が「今後も副業・兼業を続けたい」と回答しています。

ちなみに、社員が副業をすることによって得られるメリットとしては、以下のように考えられます。

・複数の収入口が得られる
・副業を認めることにより、社員は新たな収入源を確保しつつキャリアを伸ばせる
・会社を辞めるというリスクを抑えつつ自分がやりたいことに挑戦できる

 

社員はなぜ副業をするのか

そもそも、社員が副業をする理由はどこにあるのでしょうか。こちらも厚生労働省の「複数就業者についての実態調査」からのデータですが、副業をする理由としては、「収入を増やしたいから」と答えた人が全体の54.9%、「1つの仕事だけでは収入が少なくて生活自体ができないから」と答えたのは37%となっており、経済面が大きな理由であることがわかります。上位5つを見てみましょう。

・収入を増やしたいから・・・54.9%
・1つの仕事だけでは収入が少なくて生活自体ができないから・・・37%
・自分が活躍できる場を広げたいから・・・23.9%
・様々な分野の人とつながりができるから・・・18%
・時間のゆとりがあるから・・・16.6%

この結果を見ると、副業をしている人の属性は「経済的に困窮している層」と「時間にゆとりがあり、自己実現をしたい層」と大きく二分されることが伺えます。実際に厚生労働省の「副業・兼業の現状と課題」では、副業している人の割合が最も多い層は年収100万円未満と1,000万円以上となっています。

出典:「副業と兼業の課題」厚生労働省

 

 

未だ、副業を認める会社は多くはない。会社が抱いている懸念とは

ただ、副業を認めている会社の割合はまだ多くはありません。中小企業庁の「平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業」によれば、85.3%の会社が副業を認めていないというデータも出ています。

副業への懸念となっている最も大きな理由が「本業がおろそかになる」ことで、全体の63%となっていました。その他、情報漏洩のリスクや競業避止、利益相反のリスクを懸念している割合が57%と半数以上です。

具体的には、競合先に自社のノウハウや顧客情報などの重要な情報が漏洩される危険性や、会社のPCや機密書類などを副業先に忘れてしまい、そこから情報が漏洩する危険、社員が自社の顧客を横取りする危険性などが懸念されています。社員が持つスキルを活用して副業をすることになれば、どうしてもこれらのリスクは避けられません。

また、副業をするとなるとどうしても長時間労働につながりやすいため、オーバーワークによる体調不良なども懸念材料となっているようです。

 

 

副業を許可するときの注意点

会社としては、副業を許可する前にルールをしっかりと定めておかなければなりません。では、どのような点に注意してルールを作っていけばよいのでしょうか。

 

・副業をしている社員とその内容を把握する

大前提として、どの社員がどのような副業をしているのかは把握しておく必要があります。ポイントとなるのはこのあたりです。社員の私生活にまで踏み込んでしまい、過干渉にならないように注意が必要です。

・会社が定めているルールに反して競業避止義務に違反していないか
・本業以外でどれくらいの時間働いているのか
・副業先との労働関係(社員雇用なのか、アルバイト雇用なのか、業務委託なのかなど)
・副業先で社会保険や労働保険に加入しているか
・情報の取扱や競業避止の義務を明確に

単に「機密情報は厳重に取り扱いましょう」とだけ周知しても、あまり効果は期待できません。まずは、どのような情報が「機密情報」にあたるのか、基本的にどのように取り扱うべきか、どのような取扱が禁止されるかを定めることが大切です。

具体的には、顧客情報をプリントアウトして持ち歩かない、社外に持ち出す端末には特定の情報をダウンロードしないなどのルールを細かく決めておくことが大切です。特にテレワークを導入しているなど、社員が通常業務を社外で行う機会が多い会社では注意が必要です。

また、同業他社での副業は禁止するなど、競業避止義務に配慮したルールの策定も重要です。基本的に、社員は当然の義務として競業避止義務を負っていますから、改めて競業避止義務についてルール化しなくても問題ないようにも思えます。しかし、社員に改めて注意喚起をし、リスクを認識してもらうためにも、改めて明文化しておきたいところです。

これらのルールは社員に周知した上で就業規則にも明記し、社員と合意書を交わしておくといいでしょう。

 

・社員の健康管理

社員が他の会社で副業をしているか、もしくは自社が副業先なのかについては、基本的に社員の自己申告によって把握することになります。しかし、実働時間を正確に把握することはほぼ不可能と考えられることから、社員がどれくらい働いていて、どれくらい心身に負担がきているのかを会社側が把握することはとても難しいのが実情です。

そこで会社側の対応として、基本的には社員に副業に関する情報を申告・報告してもらいつつ、長時間労働にならないような配慮が求められることになります。定期的な健康診断とストレスチェック、面談などによってできるだけ社員の心身的なコンディションを把握し、必要に応じて措置を講じることが求められます。

 

・副業の規定に違反した社員への対応

このようなルールを定めていても、ルールに反する社員はどうしても出てきてしまいます。違反した社員に対しては、就業規則に懲戒規定を定めておけば懲戒処分をすることができます。

懲戒には戒告や減給、懲戒解雇など、違反した内容に応じた処分がなされることになりますが、違反した内容に対してあまりにも処分が重いとトラブルになりかねません。懲戒権の濫用と見なされてしまうと、懲戒処分が無効となることもありますので、バランスを見ながら懲戒規定を決めたいところです。

 

 

管理部門がしっておくべき労務に関するポイント

このように会社の多くは副業解禁に慎重な態度をとっていますが、これから副業を解禁する場合、管理部門として抑えておくべき労務のポイントをまとめます。

 

①副業全体に当てはまる注意点

アルバイトやフリーランスに関わらず、社員が副業をして本業の会社からの給料以外に所得を得るときは、本業の会社では正確な副業での所得額を把握できないケースも多いものです。

本業のみの社員の場合は年末調整で所得税や住民税の手続を済ませられますが、他に所得を持つ社員の場合は年末調整のほかに確定申告が必要になります。

また、副業での収入が20万円以下であったとしても住民税を計算するときには所得が合計されます。副業を許可するときには、これらの手続について社員から管理部門に質問や相談が来ることも予想されますので、あらかじめ確定申告や住民税の申告が必要であることをアナウンスしておくと親切です。

 

②社員が副業先と雇用関係を結ぶときの労務の注意点

業務委託契約や委任契約ではなく、副業先の従業員として雇用されて働くときには、社会保険や労働保険、雇用保険が問題となります。基本的に社会保険や雇用保険、労働保険は本業をしている会社で加入しますが、副業を始めたらどうなるのでしょうか。

 

□雇用保険

雇用保険は重複加入できず、基本的に本業の会社で加入することになります。

 

□社会保険

社会保険については、副業先での雇用形態がアルバイトやパート、派遣であったとしても、正社員や正社員のように常用的に働いている社員の場合は、「1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3以上」であれば社会保険に加入義務が生じます。

しかし、「4分の3」という要件を満たさなくても、以下の要件に該当すれば社会保険の加入義務が生じるとされています。

・週の所定労働時間が20時間以上
・雇用期間が1年以上見込まれる
・賃金月額が8.8万円以上
・学生でない
・厚生年金保険の被保険者数が常時501人以上の法人・個人の適用事業所、および国または地方公共団体に属する全ての適用事業所に勤めていること

これらの要件を満たすと、副業先でも社会保険に加入する義務が生じることになります。その場合、保険料は本業・副業の会社での賃金を合計し、それぞれの会社で按分して計算することになります。

例:A社で40万・B社で20万
社会保険料は、A社が2/3・B社が1/3を負担

 

□労災保険

原則として、労災については本業と副業の会社の労働時間は合算されません。例えばA社で月に40時間、B社で月に30時間労働していてB社で労災事故があったとしたら、B社での労働時間のみが算定の基準になります。

ただ、脳や心臓疾患などについては、短期間、または長期間の過重業務があったことが認定要件となっており、目安としては80時間〜100時間を超える時間外労働があったかどうかという労災認定基準が設定されています。いわゆる「過労死ライン」と呼ばれるものです。

本業と副業で労働時間が合算されないと過労死ラインの認定が困難になるため、全ての労働時間を合算して判断するよう、法律が改正される動きが出ています。

また、労働災害で判断に悩むのが通勤中の労働事故ではないでしょうか。例えばA社から副業先のB社へ移動中に事故に遭った場合、どちらの会社で労災保険が適用となるのでしょうか。

この点、厚生労働省のガイドラインによれば、「事業場間の移動は、当該移動の終点たる事業場において労務の提供を行うために行われる通勤であると考えられ」るとしています。

引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)

そのため、この例では通勤の終点であるB社の労働保険が適用されることになります。状況によってどちらの会社の労災保険が適用となるかが変わりますので、この点も注意しておきたいところです。

 

・副業先で残業したら、どちらの会社が残業代を払う?

労働基準法38条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、 労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されており、「事業場を異にする場合」には事業主を異にする場合も含むと考えられています。

だとすれば、その社員が時間外労働をしたときの割増賃金は誰が支払う必要があるのでしょうか?

厚生労働省のガイドラインQ&Aによれば、法定外労働時間を発生させた使用者に割増賃金の支払義務が生じるとしています。 このガイドラインを適用すると、例えば、1日のうちA社で8時間働き、その後でB社で3時間働いたとしたらB社に割増賃金の支払義務があり、B社で3時間働いた後でA社で8時間働いたとしたら、A社に割増賃金の支払義務があるということになります。
ただ、労働時間の把握は社員からの報告によるとし、実際の現場では正確な報告を得られないケースもあるため、実際の現場で厳格に適用するのは難しい部分があります。

 

まとめ

今回は、副業を認めたときに管理部門が抑えておくべきポイントについて紹介しました。ウーバーイーツなど、業務的には労災保険の加入が強く求められるものの、個人事業主として働く場合に労災保険が適用にならない仕事もあります。社員が雇用や業務委託契約の違いをそこまで理解しておらず「副業先でも労災に入っている」「確定申告は必要ない」など、副業に関連した知識を間違えて覚えている可能性もあります。社員の副業内容については、本人からの申告のみを鵜呑みにするのではなく相応の確認が求められるともいえそうです。

 

 

ライタープロフィール

金子 千鶴代

金子 千鶴代

ステラワークス代表・ライター。 商業施設や飲食業界などで10年近く経理・総務に従事し、2016年からライターとして独立。 「難しいことをわかりやすく伝える」をモットーに、これまで法制度や行政、住宅や公的保険などのコンテンツを数多く執筆。