日本企業の完全なペーパーレス化は実現可能か?ペーパーレス化を阻む壁

企業のペーパーレス化という考え方は意外にも古く、1970年代にはすでに未来のオフィス像として描かれていたといいます。
デジタル先進国と呼ばれるデンマークでは2000年代に入ってすぐのころから、政府主導でICT化に取組み、行政手続きをはじめとする多くの分野でペーパーレス化が進められており、まさに未来の形を実現しつつあるといえるでしょう。
一方、デジタル後進国といわれる日本の現状はどうでしょうか。日本企業のペーパーレス化の現状と未来について考えてみましょう。

 

企業のペーパーレス化を取り巻く現状

ICTの進歩とペーパーレス化は共にあるように思えますが、PCが多くの企業に導入されはじめたころには、書類が簡単に作れるようになった分、会議用や保存用の資料が増大し、紙の使用量は減るどころか逆に増えたと言います。
その後、環境問題や業務効率などへの意識が高くなり、ペーパーレス化を推奨する動きはあったものの、多くの企業ではあまりペーパーレス化が進まない状況が続いてきました。

簡単ではない紙文化からの脱却

ペーパーレスが再び大きく注目されるきっかけとなったのは、今回のコロナ禍でしょう。ハンコを押すためにテレワークができず出社を余儀なくされる人達、インターネットで申請された内容をプリントアウトして照合する行政、滑稽にさえ見えるこの光景が日本の現状です。
コロナ渦でペーパーレス化を模索する企業は確実に増えましたが、日本の紙文化は根強く、脱却までには多くの壁が存在しています。

保守的な大企業と革新的なベンチャー企業

ペーパーレス化への取組みを会社の規模別でみるならば、中小企業よりも大企業の方が導入率としては高くなります。ただしそれは、勤怠管理・交通費申請・購買申請といった業務フロー内の一部ということも多く、業務全体のペーパーレス化を意味しているというわけではありません。
一方、中小企業でもITベンチャーを中心に、ほとんどの業務のペーパーレス化を成し遂げている企業もあります。もちろん、取引先との関係もありますから100%とはいかない部分もあるでしょうが、少なくとも社内業務のほとんどはペーパーレスで行われているようです。
そういった意味では、新しいものを取り入れるのが得意なのは、大企業よりベンチャー企業とも言えるでしょう。

 

ペーパーレス化を阻む壁

日本のペーパーレス化が進まない理由は一つではなく、複数の要因がからみあっています。根底には、多くの日本人の中に根強く残る現物主義の意識もあるでしょう。キャッシュレス決済の普及率が諸外国と比べて低いのも、恐らく同じ意識が原因の一つです。
もちろん、心情的な問題以外にも、ペーパーレス化の実現までには多くの現実的な壁があります。

経営陣の意識

ペーパーレス化が進むかどうかの一番の鍵は、経営陣の意識です。ペーパーレス化のためには多くの準備が必要ですが、経営陣が消極的な企業ではペーパーレス化はかなり困難といえます。
経営陣が消極的な企業の典型例としては、「これまで紙ベースの業務を長年続けて来たけれど特に大きな問題がなかった企業」です。
長い歴史のある企業でも、新しいものに目を向け積極的に導入をはかりながら成長を続けている企業もないとは言えませんが、多くの場合は安定を望む傾向が強くなります。
何か顕著な問題があるならともかく、業務に支障がなければ、わざわざ経費をかけて、リスクを冒して新しいことを始めるという気にはなかなかなれないものです。

社員のICTスキル

ペーパーレス化のためには、社員全員がそのシステムを使えるだけのスキルを持っている必要があります。
これまでの日本といえば、デジタル化の波に乗り遅れても、アナログに生きようと思えばできないこともない世の中でした。
行政の申請などはいまだに紙ベースも多く、オンラインから申し込みができるものであっても、紙ベースとオンラインの2通りの方法が準備されているものがほとんどです。
そのような環境の中ではスキルが育ちにくく、特に年齢層の高いベテラン社員にスキル不足が多い傾向があります。そして問題は、ベテラン社員にはペーパーレス化導入に大きく関わる経営陣や管理職が多いという点です。

取引先など外部との関係

社内から外に目を向けたとき、ペーパーレス化を阻む壁として最も大きいのは、取引先との関係です。先進的な企業では、契約書などもペーパーレス化し電子署名を導入するところも出てきましたが、まだまだ紙ベースが主流です。
立場にもよりますが、取引先が紙ベースの場合、こちらからペーパーレス化をお願いするというのはなかなか難しいでしょう。
そうなると必然的に業務の一部は紙ベースで行うことになり、紙ベースの取引先の件数が多ければ多いほどペーパーレス化のメリットが少なくなっていきます。

システム導入コスト

システム導入にかかるコストもペーパーレス化を阻む壁のひとつです。費用対効果で考えた場合、特に中小企業ではペーパーレスで得られるメリットよりも、コストがかかるというデメリットの方が大きく感じられることも多くあります。
加えて、中小企業といっても、100人以上の社員の社員がいるような企業と、社員数人といった小規模な会社とでは考え方も違ってくるでしょう。
ただ、現在のメリットは少ないとしても小規模な会社の方が小回りが利くという面もあるので、将来的な事業拡大を目指しているのであれば、早い段階からペーパーレス化を進めておくというのもひとつの手です。
また、コストの壁に関しては、自社の課題やニーズに合ったITツールを導入する経費の一部を補助してくれる「IT導入補助金」や時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進に向けた環境整備を行うことに対して助成する「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」などもあるので有効活用しましょう。

ペーパーレス化に関する知識不足

ペーパーレス化を進めたいと思っても、ペーパーレス化に関する知識がなければ進めようがありません。これまで紙ベースで業務を行ってきた会社には、ペーパーレス化について詳しい社員はそうそういないでしょう。
ペーパーレス化に必要な知識は大きくわけて2つあります。ひとつは、どのようなシステムを使ってペーパーレス化を進めればいいのかという技術的な知識。もうひとつは、紙ベースの作業をペーパーレス化した場合に、変化する業務フローをスムーズに移行させるための実務的な知識です。
この知識不足をどう補うかを考えないままにペーパーレス化を行うと、業務に支障をきたし、ペーパーレス化が失敗に終わる公算が高くなります。

 

ペーパーレス化までの越えるべきハードル

ペーパーレス化を阻む要因が分かってきたところで、今度はその乗り越え方を考えてみましょう。もちろん、会社の規模や業務内容によって、抱える問題は違いますが、ペーパーレス化を進めるために共通することもあります。

社内環境の整備

ペーパーレス化を進めるために必要なのは、まず、ハード面・ソフト面共に社内の環境を整えることです。
先ほども触れましたが、ペーパーレス化には専門的な知識が必要とされる場面も多くありますから、自前では力不足という場合には思い切って専門の会社に相談するのも一つの手です。
ペーパーレス化は最初が肝心。中途半端なシステムでは、社員が右往左往することになってしまいます。

ペーパーレス環境の整備

環境の整備の第一歩はペーパーレス化に向けたシステムの導入や、PCやタブレットといったツールの整備です。
PCとタブレットは同じような機能も持っていますが、PCは実務向き、タブレットは感覚的に使えるという特徴があります。業務内容にあわせて選びましょう。PCとタブレットを同時に使うことで、作業効率が飛躍的に上がることもあります。
また、ペーパーレス化に向けたシステム導入については、まずペーパーレスを目指す業務内容を決め、それに合わせて選びましょう。

研修などによる社員のスキルアップ

システムを導入しても社員が使いこなせなければ意味がありません。研修などを行ない、社員のスキルアップをはかることも重要です。
ただ、知識はあるに越したことはありませんが、全員がスペシャリストである必要はありません。業務に関わる範囲を使いこなせれば問題ないでしょう。

取引先・関係先との調整

どんなに社内環境を整えても、完全ペーパーレス化が成し遂げられるかどうかは、取引先など相手方との調整にかかっています。
これまで企業のペーパーレス化の足枷のひとつとなっていた、公的機関とのやりとりも、オンライン化が整ってきたことから、今後のペーパーレス化にはこれまでよりも期待が持てるかもしれません。

取引先のペーパーレス対応状況の確認

まずは、最新の取引先のペーパーレス対応状況を確認してみましょう。
コロナ禍は日本社会にさまざまな課題をつきつけました。これからも生き残っていくために、業務の在り方を見直した企業も多いでしょう。
これまでペーパーレス非対応だった取引先も、ペーパーレス化もしくは、ペーパーレス化の検討をしているかもしれません。

法定保存文書の保存方法の確認

企業の完全ペーパーレス化を実行するために避けて通れないのが、国税関連書類などの「法定保存文書」のペーパーレス化です。
1998年7月に施行された電子帳簿保存法や、2005年施行のe-文章法などにより、ほとんどの法定保存文書は紙ではなくデータとしての保存が認められています。
データとして保存した書類の「真実性の確保」を守るため細かい規定がありますが、完全ペーパーレス化にとっては大切なプロセスなのでしっかりと確認しましょう。

 

ペーパーレス化はできることから一歩ずつ

企業のペーパーレス化は、印刷コストの削減、業務効率の向上、自然環境への配慮、働き方の多様化などさまざまなメリットをもたらすといわれています。
ただ実際にその恩恵を感じられるかどうかは、企業の取組み方によって大きく変わります。導入を急ぎすぎるあまり、業務フローが混乱しては元も子もありません。
これから先、ペーパーレス企業が主流になっているかもしれませんが、できることから一歩ずつ着実に進めていくことが大切です。

 

参考:
e-文書法のキホン
https://keiriplus.jp/tips/e-doc_advantages_and_requirement/

ペーパーレス化は本当に必要? 事例から学ぶメリット・デメリット
https://www.holmescloud.com/useful/2241/

日本は「ペーパーレス後進国」…導入を阻む意外な要因とは?
https://gentosha-go.com/articles/-/24756

ペーパーレスオフィスはなぜこないのか?紙はどこで使われているのか?(論文)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/isj/56/5/56_537/_pdf

「デジタル政府」先進国対決! デンマーク vs. エストニア
https://www.projectdesign.jp/201907/rivals/006606.php

3分でわかるペーパーレス化が進まない理由
https://www.transrecog.com/diary/2019/04/29/post-202/

 

 

ライタープロフィール

パプリカ

パプリカ

外資系総合商社と総合マーケティング支援会社にて法人向け営業職を経験。 世の中にあふれる情報をかんたんにわかりやすく、一人ひとりに合ったかたちで伝えることをミッションに活動中。

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