坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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「このままじゃ、チームの残業時間をクリアできないよ!」
──知人がぼやいているのは、会社から課される残業時間規制である。
働き方改革を推し進めるべく、多くの企業が残業時間に規制を設けているが、その実行と管理は、中間管理職に一任されることも少なくない。
「今月、チームで使える残業時間は、残り5時間しかないのに、仕事が山積みだ!」
──知人のSNS投稿には、「うちも同じだ…」とため息をつくフォロワーたちのコメントが続く。
働き方改革のしわ寄せは、なぜ中間管理職に集まりがちなのだろうか?
この記事の目次
20数年前、私は絵に描いたようなブラック企業に勤めていた。退社時間は22時を回るのが当たり前で、日付が変わってから会社を出ることもしばしばあった。
行政からの指導もあり、さすがにマズイと思ったのだろう、ある日突拍子もなく人事部は、残業規制を全社通達した。
「19時以降の残業はまかりならん!」──19時以降、人事部担当者が事務所を周り、強制的に事務所内の電源を落としていったのだから、よほど人事部も追いつめられていたのだろう。
だが、それまで21時、22時までやっていた仕事が、ある日突然19時で終えられるようになるわけがない。
困った私は、行きつけのたこ焼き屋に泣きついた。
私と、私の所属チームの仲間は、仕事終わりに立ち呑み可能なたこ焼き屋で、夕食兼晩酌を楽しんでから解散するのが習慣だった。そのたこ焼き屋で、呑みながら仕事をすることを承諾してもらったのだ。
その噂は、あっという間に他チームにも知れ渡った。
かくして、件のたこ焼き屋は、ノートPCを開きながらたこ焼きを肴にビールを嗜む集団に占拠された。
「君たち、ホントに仕事が好きだねぇ…」
──馴染みの店主は、呆れたように言ったものだ。
救いは、課長や部長も含めた部内の主だったメンバーと、この脱法的残業規制逃れを共有できたことだ。
「どうやって残業を減らせって言うんだよ!」と愚痴を言い、若干の後ろめたさも感じつつ、居酒屋で残業をすることで、私たちは痛みを共有することができた。
つまり心理的安全性を確保することができたのだ。
心理的安全性(psychological safety)とは、所属する職場やグループなどの社会集団において、自分の考えや気持ちを、安心かつ安全な状況を保ったまま発言できる状態を指す。
冒頭に挙げた知人の場合は、会社から下知された残業規制に対し、同じ職場内で愚痴や不満を訴えることができない状態にある。
これは、心理的安全性が確保されておらず、当人のうつや適応障害を引き起こしかねない、とても危険な状態である。
働き方改革を推進しようとする企業の中には、「これは国の命令だからしょうがないよね」と強権を発動し、残業規制を行おうとするケースも散見される。
これでは、従業員、とりわけ会社と一般社員との板挟みになる中間管理職の心理的安全性を確保できない。
なぜ、このような状態に陥ってしまうのか?
理由はいくつか考えられる。
一つは、支配型リーダーシップの限界である。
支配型リーダーシップにおいて、上司と部下の関係は、命令する側と命令される側になる。上司は、自身の経験と知恵を用い、部下に指導・アドバイスを行う。
だが、上司が部下に適切な指導・アドバイスを行う能力を持たないケースは悲劇である。
「残業が減らないのは君のせいだよね」
──ここでいう「君のせい」とは、仕事の処理能力や、残業時間の削減に向けた努力不足を指す。
本来、支配型リーダーシップにおいて、適切な指導・アドバイスを部下に対して実施するのは、支配する型の上司の責任であり、能力である。
だが、これまで部下の残業を放置してきた上司に、適切な指導やアドバイスができるわけもない。
そこで、残業規制を会社の命令という形で強権発動し、部下へ責任転嫁するわけだ。
役員や部長は、課長、係長に残業規制の遂行を丸投げし、残業規制に直撃された一般社員は、「この仕事の山を、どうやって残業せずに処理しろと言うんですか!?」と課長・係長に直訴する。
これこそ、中間管理職の悲哀である。心理的安全性など確保されるわけもない。
もう一つは、インセンティブと出口戦略の欠如である。
働き方改革を言い訳にした残業規制には、大きなジレンマが存在する。
残業を減らせば残業代が減り、残業代が減れば収入が減る。
残業の削減には、業務プロセスの見直しなど、何かしらの努力を必要とするはずなのに、その努力に対する見返りは無い。無いどころか、収入が減るのだから、むしろマイナスである。
「わざわざ給与を減らすために努力するの?」
──そう思う従業員の心情を、誰が責められよう?
「10時間でこなしていた仕事を、8時間で終えなさい」と言われれば、誰もがストレスを感じる。
そのストレスに見合ったインセンティブ、明るく希望に満ちた将来を示す出口戦略を与えられなければ、反発する人が出るのも当然だ。
厚生労働省Webサイトには、このように書かれている。少々長いが引用する。
「働き方改革」の目指すもの
我が国は、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化」などの状況に直面しています。
こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。
「働き方改革」は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。
これを実現するための法改正として、「年次有給休暇の時季指定」「時間外労働の上限規制」「同一賃金同一労働」があるのだが、多くの人が、働き方改革=残業規制と勘違いしてしまった。
そもそも、働き方改革とは諸外国に比べ、長時間労働が習慣化し、生産性も低い日本人の働き方を見直すことを基点としている。
そのために必要なのは、今までの仕事の進め方を見直し、より効率的で生産性の高い仕事へと変革させることだ。
変化には、往々にして痛みが伴う。
まして、「今までのあなたの働き方では駄目ですよ。もっと効率的に働いてください」と言われれば、誰もが不愉快になる。
「仕事の進め方を見直し、より効率的で生産性の高い仕事へと変革させる」、文字通りの働き方改革を実現させた結果として、残業時間を含む総労働時間の削減という効果が得られるのだ。
仕事の効率化・省力化に取り組まないのに、残業規制だけを推し進めようとすれば無理が生じるのは当然である。
ある会社(以下、A社とする)では、週休3日の実現を目指し、RPAを活用した業務改善を行っている。
A社は、グループ企業内のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を請け負っている。
グループ企業の業務は、金融から産業廃棄物処理まで多岐にわたっており、自ずとA社内では、グループ企業ごと、業務内容ごとにチーム分けされていた。
課題は、各々の業務における波動だった。
月末が忙しい業務もあれば、月半ばに繁忙期が発生する業務もあった。業務による波動の差もまちまちで、ある業務では、閑散期は手持ち無沙汰なのに、繁忙期には残業が続くケースもあった。
そこで、A社は業務(チーム)の垣根を超えて仕事をお互いにフォローできる体制を作り上げることにした。
チームの垣根を超えて、お互いの業務をフォローし合うことができれば、波動を吸収し、生産性を向上させることができる。
そのため、業務の標準化、マニュアル作成、そして単純業務に対してはRPA導入を図っていった。
業務の標準化やマニュアル化は、言うは易く行うは難しの典型である。
実際に業務を遂行する方々は、どうしても近視眼的に成りがちである。
「標準化できるだろう?」と言われても、当人たちにはすべてが日常業務であり、標準化可能な業務と、個別対応が必要となる業務の洗い出しを行うのは、精神的に大きなストレスがかかる。
ストレスをいとわず、業務改善を実現できたのは、A社特有の事情と、A社の掲げたスローガンにあった。
A社は、「業務改善を推し進め、週休3日を実現しよう!」と従業員たちに呼びかけたのだ。
もちろん、給与支給額は変わらず、それどころかさらにアップすることを目標に掲げた。
A社は、従業員のうち、女性が9割を占めていた。
子育てをしながら仕事をしている子育てママワーカーも多い。
つまり、業務改善に挑むストレスを乗り越えてでも、時短勤務を実現したいという従業員のニーズが高かったのだ。
結果、A社では、標準勤務時間が8時間勤務(9時~17時)から7時間勤務(9時~16時)に変更できるようになった。残業時間はほぼゼロだと言う。全社的な週休3日実現はまだだが、希望者は先行して週休3日勤務に移行し始めている。
働き方改革を推し進める過程において、もし中間管理職が悲鳴を上げているとしたら、それは経営の責任である。
業務改善という武器を与えず、残業時間の削減という戦果だけを求める経営者は、あまりに無責任である。
業務改善を行うことは難しい。
そもそも、「残業を削減せよ!」と号令をかけるだけで、生産性向上や省力化が実現できるのであれば、世の中のコンサルティングファームはあっという間に全滅するだろう。
厚生労働省が掲げる働き方改革が分かりにくいことは、とても大きな課題だとは思う。
だが、面倒でもきちんと厚生労働省Webサイトや働き方改革特設サイトを読み解けば、働き方改革=残業規制ではないことは理解できるはずだ。
それなのに、「残業を削減せよ!」と号令だけをかけて、後は従業員に丸投げする経営者は、あまりにも無策かつ無責任である。
働き方改革が掲げる「年次有給休暇の時季指定」「時間外労働の上限規制」「同一賃金同一労働」には、それぞれ罰則がある。
ならば、生産性向上や省力化を実現するための業務改善に取り組まない経営者に対し、職務怠慢の罰則をかけるべきだと思うのは、言い過ぎだろうか。
「なぜ、残業時間の削減が実現できないのか!?」
──詰め寄られた中間管理職の皆さまは、勇気を持って上長に進言することを勧める。
「私一人のチカラでは限界です。経営の責任として、一緒に業務改善に取り組んでもらえませんか?」
働き方改革とは、本来、すべての働く人々を幸せに導くための施策であるはずだ。
そのためには痛みも伴う。だが、痛みには、正当な痛みと、理不尽な痛みがある。
経営が責任を果たさないために生じる、理不尽な痛みはあってはならないのだ。
庶務業務は、オフィスにおけるあらゆる業務が該当し、備品の管理、郵送物の受け取り、受付対応など、その仕事内容は多岐にわたっています。それゆえに属人的になりやすく効率化する事が難しい業務とも言えます。FOCがそういった煩雑な業務を整理し、一括でサービスをご提供します。
サービスの特徴
FOCは、30年/1,000社以上のノウハウを活かし、御社のコア業務の生産性向上、バックオフィス部門のコスト削減に貢献します。
ライタープロフィール
坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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