坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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「『井の中の蛙大海を知らず』とは、まさに自分のことだったんだなと…。自身の能力を客観的に確認できる、いい機会となりました」──大手企業で部長を務める知人は、副業を始めて、自身の能力不足を痛感したという。
知人は、30代で部長に抜擢された。本人は否定するが、社内では将来の役員も期待される逸材なのであろう。
ある経緯から、知人は、私人の立場として、地域創生を担うプロジェクトに参加することになった。そのプロジェクトには、フリーランスや主婦、知人のように大手企業に属する会社員など、複数の人が参加していた。プロジェクトの初回会合において、知人は何も発言することができなかったという。他メンバーたちが矢継ぎ早に繰り広げる議論を理解するだけで精一杯で、発言する余裕などまるでなかったと言うのだ。
「勉強になりました。副業のつもりで参加したプロジェクトでしたが、自分自身が成長し、本業にも活かせると感じています」と、めげないあたりはさすがである。
「最近、従業員の副業を認める会社が増えています」と語るのは、リクルート系の代理店で、就職情報サイトの営業を務める某氏である。
少子高齢化が進み、労働人口の減少が進む日本国内において、働き手にとって魅力のある企業へとデザインすることは、これまで行われてきた対外向け企業ブランディングと同等に大切なことになりつつある。副業を認めることは、その企業で働く人たちにとって、その企業で働くメリットやモチベーション、もしくは愛社精神へとつながると言うのだ。
もっと直接的なメリットを目指し、副業を認める会社もあるそうだ。
「『経営状態が芳しくない』『業界として、事業の拡大が望みにくい』といった事情により、給与アップが難しい会社の場合、副業を認めることで従業員のモチベーションアップを図ろうとするケースもあります。言ってみれば、『これ以上の給料アップはできないから、お金が欲しければ副業で稼いでね』ということですね」
いずれにせよ、副業という、いうなれば他力を頼って自社の魅力を増そうという試みである。企業の姿勢としては、少々無責任だし、何より安直な気もしないではない。
だが、そもそも副業とは、会社が従業員に許可するものなのだろうか?
原則として、会社は従業員が副業を行うことを禁止することはできない。
「私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的な定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて1日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く」
(小川建設事件 東京地裁判決 昭和57年11月19日より)
厚生労働省による「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(令和4年7月8日改訂版)では、「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当」という考え方を、副業・兼業に対する企業の基本スタンスとして挙げている。
では、副業が制限される「特別な場合」とは、どういうケースなのだろうか?
副業ガイドラインでは、以下が挙げられている。
1.労務提供上の支障がある場合
2.業務上の秘密が漏洩する場合
3.競業により自社の利益が害される 場合
4.自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
先の小川建設事件において、原告側、すなわち元従業員は、会社での業務終了後、18時から0時までキャバレーで会計係のアルバイトをしていた。これが会社にバレて、会社側から就業規則上の兼業禁止に違反したとして解雇されたのだ。この解雇を不服として、元従業員は裁判を起こした。だが結果として、裁判所は解雇を有効と判断している。
実はこの元従業員、キャバレーでアルバイトしていたために、建設会社での就業中に居眠りをしたり、残業を嫌がるといった問題行動を起こしていたらしい。
裁判所が解雇を有効としたのは、キャバレーでのアルバイトを「軽労働とはいえ毎日の勤務時間は6時間にわたりかつ深夜に及ぶものであって、単なる余暇利用のアルバイトの域を超えるもの」と指摘し、建設会社の正社員として求められる労務を提供する上で支障があると判断したからである。
したがって、副業・兼業を禁じるという就業規則を適法としてわけではないことに留意してほしい。
繰り返すが、副業は労働者の権利であり、本来会社側が許可する性質のものではないのだ。
「(少子高齢化が進む日本では)社会課題はたくさんあるのに、それを解決していくマンパワーが、日本は減っていくと。
企業はいろんな意味で人を抱えていますが、よく考えたら企業の一部門一担当で見ると、その人の能力の1/3も使っていないのではないかと。(中略)それがボランティアでも、新しい事業への取り組みでも複線で仕事をやった方が社会課題の解決につながると思います」
このように語るのは、ロート製薬会長である山田邦雄氏である。
ロート製薬は、2016年2月から副業を解禁し、「社外チャレンジワーク制度」「社内ダブルジョブ制度」を制定、これまで延べ81名の社員が副業に取り組んできたそうだ。
副業を「解禁」するという表現は、前項で述べたとおり、会社として正しい姿勢ではない。正しくはないが、このように表現してしまうのが日本社会の実情であると理解していただき、本稿を進めていきたい。
ロート製薬 山田会長の発言における肝は、ロート製薬という日本を代表する製薬会社のリーダーが、自社の従業員を評して、自社の仕事の範疇では、能力を使い切れていないと考えている点である。では、従業員のポテンシャルを引き出すためには何をしたら良いのだろうか?
キリンホールディングスでは、より積極的に副業に取り組んでいる。
2022年2月1日から約3ヶ月の期間を設け、ヤフー、パーソルキャリアとともに人材の相互活用に対する実証実験を開始したのだ。
人材交流ではなく、それぞれの従業員個人と業務委託契約を締結し、副業を推進するのである。
● キリンホールディングスでは、人事総務部の「多様性推進施策」、
経営企画部の「サービス開発」および「システム設計」。
● ヤフーでは、採用部の「組織課題解決支援」。
● パーソルキャリアでは、UXデザイン部の「デザインリサーチ」、
人事労働部の「健康推進施策」、人事企画部の「ミレニアム世代調査」。
ここに挙げた各社の抱えるプロジェクトに対し、他2社から人材募集をかけたという。副業の収入は、月5万円~10万円だというが、各社ともこれを単なる収入アップの機会ではなく、越境学習の機会として人材育成に役立てようと目論んでいるところが興味深い。
キリンホールディングスでは、従業員の副業を認めるだけでなく、副業人材を受け入れることも積極的に行っている。
「副業や副業人材の受け入れは、社員と組織の成長において非常に有意義かつ可能性のある施策だと思います。(中略)他社と情報交換をし、多くの会社で取り組みが広がっていくことで、結果的に副業先が増えることに寄与するのではないでしょうか。
このような取り組みが広がり、挑戦する人財が増えることで、結果として人財の『多様化』や『自律』が加速し、人的資本が高まっていくと思います」
(キリンホールディングス 人事総務部 人事担当 土屋洋平氏)
副業によって従業員の能力を高めていきたいと考える企業の思惑は、方向としては正しい。だが当の従業員の中には、自ら求めて副業を行い自己研鑽の糧とすることを、ハードルが高いと感じる人もいるだろう。そもそも、そういった意識の高い従業員は、副業に頼らなくとも自己研鑽を行える可能性も高い。
キリンホールディングスのように、副業を会社側から紹介したり、また自社内でも副業人材を積極的に活用することは、自己研鑽意欲がそれほど高くない従業員にも、副業に取り組んでみようという意識を芽生えさせる可能性がある。
とても興味深く、かつ実践的な取り組みである。
30歳頃、筆者は猛烈な働き方をしていた。
なにせ、月の残業時間が400時間を超えるのも普通だったのだ。当然、休みもない。週のうち何日かは会社に泊まり込み、事務所の片隅にダンボールやプチプチを敷き、仮眠を取りながら働いていた。
筆者のように、学歴も能力もない人間でも、これだけ働いていればスキルアップすることができる。かくして現在の筆者は、このKnockをはじめ、複数の企業オウンドメディア、Webメディアなどで執筆できる能力を身に付けたのである。
誤解しないで欲しいのだが、筆者は長時間労働を良しとしているわけではない。あのときの辛さは骨身にしみているし、あの狂気のような長時間労働が原因で、筆者は今も身体の不調を抱えている。
「8時間という限られた労働時間において、秀でた能力を身に付けるためにはどうしたらよいのか?」──残業や長時間労働が絶対悪とされる現在だからこそ、この問いは悩ましい。長時間労働でスキルアップした筆者にとっては、長時間労働以外でスキルアップを果たす方法を、実感として得にくいというのも本音だ。
副業は、この悩ましい問いに対する光明の一つであり、筆者も「これならば!」と思える方法の一つである。
もちろん、単なる収入アップのための手段として考えるのであれば、スキルアップの効果は低いだろう。だが、収入も得つつ、自己研鑽を図りスキルアップも果たせると考えるのであれば、副業はとても魅力的である。
副業は、単なる収入アップの手段ではない。
会社も、従業員も、それぞれが副業についてもっと真剣に考え始めても良いのではないだろうか?
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ライタープロフィール
坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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