坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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「NFTの認知度は3割程度」──これは、「Mediverse」(株式会社フォーイット)が実施した調査結果 である。
一方で、「子どもが書いたドット絵が100万円で売買された」とか、「子猫の育成ゲームで育成されたレアキャラの子猫が、2,000万円で取引された」といった情報は耳にしたことがあるかもしれない。
また最近では、フジテレビが女子アナの「癒しメッセージ」、「方言ボイス」といった音声データや、人気芸人のネタ動画をNFTで販売したことも話題となった。
NFTは、その詳細が知られる前に、極端な事例だけが断片的に流布されている気がしてならない。
メタバースとともに、Web3.0を牽引する技術として注目されるNFTについて考えてみよう。
NFTに対する技術的解説を行う前に、まずNFTがどういうシーンで使われているのかをご紹介しよう。
2017年にサービスが開始された「CryptoKitties」は、NFTゲームの元祖と言われている。子猫を育成するだけ…と言えばそれまでだが、この「CryptoKitties」には生まれた子猫をプレイヤー同士で売買する機能がある。そこで、レアキャラの子猫が、約2,000万円でトレードされたというわけだ。
「子どもの絵に100万円」というのは、アーティスト・起業家として活動する草野絵美氏のご子息(当時小学3年生)の話である。ご子息は、「Zombie Zoo Keeper」の名義でデジタルアートを発売している。
とは言え、約100万円というのは2次流通でついた価格であって、作品を発表した当初は、1点2,000円程度で販売していたという。
「たまたま購入してくれたコレクターが、ブロックチェーン上で運営される分散型自律組織のDAOで発信してくれて広まったので、『ラッキーだったよね』と息子とは話しています」と草野氏はインタビュー で答えている。
他にも、2020年10月に開催されたSKE48のコンサートにおける写真のデジタルデータを販売したところ、6500点の写真がわずか30分で完売した事例もある。
「でもそれって、今までも存在したビジネスだよね?」と思う人もいるかもしれない。
確かに、写真データの販売は、何ら特別なビジネスではない。身近な例では、マラソン大会やサイクリングイベント、もしくは保育園や学校などによる子どもたちの写真販売など、さまざまなシーンで日常的に行われている。
フジテレビにおける女子アナの音声データにしても、特に珍しい試みではない。
今までのデジタルデータ販売と、NFTが大きく異なるのは、ここに挙げたようなデジタルデータに対し、すべてホンモノである旨の証明書が付帯している点だ。
デジタルデータは、それが画像であっても音声であって、デジタルであるがゆえに「コピーが容易である」という特徴を持つ。
だからこそ、これまでのデジタルデータ販売ビジネスの中には、「コピーされても致し方ない」というリスクを覚悟したうえで行われてきたものもある。
NFTは、音楽、動画、イラストなどを生み出すデジタルアーティストにとって、「これはホンモノですよ」という証明書を付帯させることで、真贋を明らかにし、より安心して創作活動に勤しむ環境を用意できる可能性を持つ。
また草野絵美氏は、「創作活動を淡々と続けるかぎり、ある日突然誰かに見つけてもらえるような可能性がある世界です」と、NFTの普及がデジタルアーティストの活動を後押しすることに期待をかけている。
「いや、Kindleストア(Amazon)のような電子書籍の場合、コピーできないよね?」と指摘する人もいるかもしれない。電子書籍の場合は、電子書籍の提供ベンダーごとに専用のビューワーが用意されている。自らのテリトリー内でしか閲覧できないよう、デジタルデータに制限を設けることで、コピーなどの不正利用を防いでいるわけだ。
その代償として、電子書籍においては、中古本マーケットが存在しない。電子書籍の顧客は、紙の本のように、読み終わった本を中古本として売却することができない。
本の中古販売(流通)については、一部の小説家やマンガ家から、そのあり方に対する反対意見が表明されてきた。これは、中古本販売では印税が著作者に還元される仕組みがないことに所以する。だが、NFTを使えば、中古デジタル書籍販売においても、印税を徴収する仕組みが構築できる可能性がある。
転売や2次流通マーケットは、さまざまな可能性を持つ。
デジタルアーティストからすれば、自身の作品が転売されて高値がつけば、当然評価も上がる。健全な転売マーケットは、広告効果も生むからである。
NFTは、デジタルデータのマーケットを拡大する基本技術として、期待されている。
NFTは、「Non-Fungible Token」の頭文字を取った言葉であり、「非代替性トークン」と日本語訳される。NFTは、ブロックチェーン上で「代替性がない」、つまり唯一無二のユニークなものとして記録される。この記録を証明書や鑑定証として利用することで、デジタルデータにおける真贋性の証となる。
NFTは、画像データ、動画データ、音声データなど、デジタルデータに紐づけることができる。例えば、ソーシャルゲームにおけるアイテムに紐づけることも可能だ。
このことによって、今までは難しかったデジタルデータに対する資産価値が裏付けされ、同時に流通マーケットが形成されつつある。
NFTには、他にも大きな特徴がある。
1. プログラマビリティ(プログラム可能性)
2. 取引可能性
3. 相互運用性
一方で、誤解されやすいのもNFTの現状である。いや、これはデメリットと言うべきか。
誤解の最たるものは、「NFTは複製できない」というものである。
NFCは複製されないのではなく、複製されたデジタルデータには、NFCによる証明書が付帯しないから偽物とすぐ分かってしまうというのが正しい。
「本物のデジタルアートには1億円出すけど、偽物(複製)にはびた一文払うものか!!」、そういう投資家の意識は、複製物の流通を防ぐ効果を発揮するだろう。だが、これがすべてのNFCで有効なのか、筆者には疑問である。
先に挙げたSKE48のコンサート写真の場合、「NFCなんていらないよ。複製写真でいいから欲しい」というファンは、残念ながらいるだろう。
また、「NFCには著作権は付帯しない」という議論がある。
これはデジタルデータに対する議論としては必要だが、アート作品に対する議論としてはまるでナンセンスだ。
アンディ・ウォーホルの有名な作品に、マリリン・モンローのポートレイトを色とりどりに並べたものがある。あの作品を購入した人が、「アンディ・ウォーホルの著作権も手に入れた!」とばかりに、同じことをレディ・ガガで再現し、世に売り出そうとしたら、笑いものになるだけだろう。
著作権に限った話ではないが、NFCには法律的な議論であったり要件整理が、圧倒的に不足している。
良くも悪くも、NFTには、Web3.0を象徴するデジタル技術としての期待、投資対象としての期待、デジタルアート普及の期待など、さまざまな思惑が混在している。そのためなのか、多方面での議論が交錯し、NFTをより分かりにくくしている。
NFTは、技術的にもビジネス的にも発展途上にある。それゆえに、他にもさまざまな課題が指摘されている。
賭博性を例に挙げよう。
ソーシャルゲームのガチャで得られるアイテムに対して、NFTが導入されたとする。
ソーシャルゲームのガチャについては、欲しいアイテムを得るために、何万円、ときには100万円単位の課金をしてしまうような射幸性が問題となり、規制が設けられた。だがそのガチャに対して、NFT が導入され取引ができるようになったら、射幸性がさらに上がる危惧が指摘されている。
「レアものの○○というアイテムをゲットするために300万も費やしたんだけどさ、結果的に1.000万円で売れたから、収支としては700万円のプラスだぜ」──もしこういった錬金術的な成功事例が広まれば、ソーシャルゲームにおけるガチャは、公共ギャンブルである競馬や競輪、もしくはパチンコ以上の中毒性をもった賭博になりかねない。
一方で、NFTによって地方再生を狙うような好ましい事例も生まれている。
山古志村(現在は長岡市に編入)は、2004年に発生した中越地震によって壊滅的な被害を受け、村民全員が3年半村を離れ避難生活を送ることを強いられた。
現在、山古志地区の住民数は、約800人にまで減ってしまい、高齢化率は55%を超えている。
2021年12月、山古志地区では、Nishikigoi NFTなるデジタルアートを発行した。これは山古志地区の名産である錦鯉を形取ったデジタルデータであると同時に、デジタル住民票(※実際の住民票との関連はない)も兼ねている。このNFT販売によって得られた利益の一部は、山古志地区の地域振興に用いられている。
これだけではない。
Nishikigoi NFTの購入によって生まれたデジタル村民たちは、山古志村の地域再生についてアイディアを出す出し合うプロジェクトに参画しはじめた。NFTというきっかけから、山古志地区の再興に貢献をしたいという人々が集うコミュニティが生み出されたのだ。
ちなみに、第1弾のNishikigoi NFTの販売によって約350名のデジタル村民が生まれた。2022年3月に行われた第二弾の販売では、約870名のデジタル村民が生まれたそうだ。
道具というのは、使い方によって毒にも薬にもなりうる。これはデジタルアイテムに限った話ではなく、歴史が証明している。例えばアインシュタインにとって、原子力は自信と後悔が相反する道具だったのではないか。
2020年に400億円弱だったNFTの市場規模は、2021年に4兆7,000億円以上と、爆発的な拡大を続けている。
NFTは、毒となるのか、それとも薬となるのか…?
こればかりは、今後の趨勢を見守るしかない。
この可能性に満ちた新技術が、より良い方向に進化発展して欲しいと願うのは、きっと筆者だけではないはずである。
● NFTとは何かをマンガでもわかりやすく解説、なぜデジタルデータに数億円の価値が付くのか? https://www.sbbit.jp/article/fj/60992 ● 知らないのはあなただけ、パチンコ業界でも動き出しているNFT (特集 パチンコ的NFTリスク : NFTがパチンコ業界のファンを喰う未来) Pidea 2022.7 ● NFT市場規模は4.7兆円を突破 Web3.0と新規事業のチャンス 事業構想 2022.7 ● Interview 『エンターテイメント』×『ブロックチェーン』の新たなマーケット・サービスを切り拓く coinbook 株式会社coinbook代表取締役 奥秋淳 : 盛り上がるNFTビジネスの先駆者 奥秋 淳 暗号資産 2022.7 ● 山古志地域におけるNFTを活用した地域活性化 (特集 次世代デジタル技術による課題解決) 竹内 春華 行政&情報システム 2022.8 ● NFTアートを通して深い学びを 次世代アーティストのあるべき姿 (WORLD OF NFT ART : SPECIAL PROMOTION Adam by GMO) 草野 絵美, 田尾 圭一郎 美術手帖 2022.10 ● ゼロからわかるNFT : ツーリズムにじわり波及 (特集 ゼロからわかるNFT : ツーリズムにじわり波及) 丸山 智浩 Travel journal 2022.6.13 |
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ライタープロフィール
坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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