前回のコラム(セクショナリズム・縦割り組織の弊害と原因|企業が抱える構造的な経営課題)で「縦割り組織の弊害」は本来マネジメントが解決すべき問題だと書きました。部門組織間での解決は、組織間の利害対立が前面に立ってしまい、難しいのです。そうした個別組織の利害を超えたところで全社的な視野で、さらに言えば顧客の視点で個別組織利害を超えた判断をしてほしいところです。
しかし、残念ながら現在のマネジメントの多くは、「縦割り組織の弊害」を解決するのが難しくなっています。もちろんすべてのケースでというわけではありませんので、あくまで私が経験した多くの例から共通的に言えることだけを述べてみます。
「縦割り組織の弊害」の主要な3つの原因
マネジメントにとって「縦割り組織の弊害」を解決するのが難しくなっている原因は多様です。そのなかでも、私が主要な原因だと思う3つを挙げてみましょう。
- 専門分化・特化による「タコつぼ」化
- 個別最適化を推し進める評価制度
- 専門特化した昇進・教育体制
では、それぞれどういうことか見ていきましょう。
01.専門分化・特化による「タコつぼ」化
現代のような変化が激しく、顧客からの要求が高度化してくると、仕事においても高度な知識と経験、最新の知識とスキルが求められます。必然的に、社員は専門化になることを要求されます。その道のスペシャリストとなることが重視され、出世するためにも社内ではある分野の専門家、ある分野での高い知識と業績を求められます。
必然的に自分の属した仕事の専門家になり、その部門での成果を上げることに集中し、かつ、成果をあげるためにも、自分の所属組織を守る癖がついていきます。話すのは、いつも同じ部の人になり、いつも自部門のことを考えているようになります。
以前は、経営陣やマネジメントに上がるために、営業、製造、総務、といった複数の機能部署を巡って出世していくパターンが普通にありましたが、いまではそんなことをしていては「役に立たないなんでも屋」ができるということで、同じ部門、同じ機能の組織、たとえば営業ならずっと営業畑、経理はずっと経理畑、で年齢を重ねるようになりました。
長年、自部門の業績を上げ、自部門の評価を上げることが染みついてきますし、同じ仕事を何年もやっていると、他部門が何をしているか分からなくなります。
私がコンサルタントとして企業に入り込むと、今から15年から20年くらい前は、「この人に聞けば仕事の流れがすべてわかる」と言う人がいたものですが、今は、ほぼ見かけることがなくなってしまいました。どの企業に行っても、自分の狭い範囲の仕事を深く知っているだけで、自分の仕事の前工程や後工程の人たちがどんな仕事をしているのか知らないのです。
たいていの問題は個別組織の内部で起きているというよりは、組織横断、組織間の連携のなかで起きているのですが、もはやそのような視点で解決することは不可能になってきています。問題があると自部門はまるで被害者のように振る舞い、他部門を非難しあうのです。
「タコつぼ」化による仕事のバケツリレー化と責任の押し付け合い
この状況のように、自部門のことしかわからず、自部門の利益だけを守り、「自部門はいつも他部門からいつも迷惑を被っている」といった認識で仕事に臨む姿勢が「タコつぼ」化です。
「タコつぼ」化した仕事のやり方は、もはやバケツリレーです。前の人がバケツを運んできて、自分はそれを受け取って次に流す。コミュニケーションもなく、ただ流すのです。仕事が処理の集積になっているため、自分の決められた仕事だけきちんとこなし、前後がどうであれ無関心。
自分がバケツを運ぶ時に、問題が起きると「周りの組織が起こした問題だ」と騒ぐ。もはや会社の視点はなく、仕事が部門間の連携・協力によって成り立っているという感覚がなくなり、ある主視野の狭い、狭量な人材が蔓延してしまうのです。
実際にこんなことがありました。ある化学メーカーでのことです。大口商談があったので、購買が原料を手配しました。
ところが、その商談はなくなってしまい、その商談向けの原料が大量に余りました。この原料は別な製品に使えないのです。そこで起きたのは、なぜ、「なぜ営業はいい加減な商談をしたんだ」、「なぜ購買は原料を買ったんだ」、「なぜ開発はこんな特殊原料を設計に入れたんだ」の罵り合い。
それぞれの言い訳は「いえいえ、私はやるべきことをやっています。悪いのは他部門です」です。
こうなってしまうと、もはや、会社の利益など視野に入らず、顧客も視野に入ってきません。弊害が著しいのです。
実は、私の仕事は、このように「タコつぼ」化した仕事のやり方を変えさせることなのです。では、次回は、この「タコつぼ」化をどうやって解消していくのか、その方法と事例を書いていきましょう。