財務パーソンが活きる!ヒト・モノ・カネが躍動する企業とは?【第二十回】不正を防ぐ財務部の体制

 

財務部から発信する社内不正防止策とは?

“不正防止”と聞くと、現預金やインターネットバンキングのパスワード管理といった実務の方に目が行きやすく、どちらかと言えば、経理部の方に委ねているといった意見もあろうかと思います。勿論、金庫番のイメージが強い経理部が大きな責任を担うのは当然視されるでしょうが、BS上に堂々と載っている資産運用に携わり、且つ、ステークホルダーの判断基準の一つでもある、自社のコンプライアンス体制に注視すべき財務パーソンであれば、不正防止も役割の一つではないでしょうか。

今回は財務部がどのようなスタンスで、不正防止策に当たるのが相応しいのかを考え、実践の道を提案していきます。既に講じている方も多いでしょうが、財務部ならではの不正防止策といった視点で取り組めば、早急に着手しなければならない、改善箇所が浮き彫りになるかもしれません。どうぞ読み進めてください。

 

クレッシーの『不正のトライアングル』に沿った防止策のススメ

不正と言えば、米国の犯罪学者ドナルド・R・クレッシーが体系化した『不正のトライアングル』を思い浮かべる方もおられるでしょう。クレッシーは、動機・機会・正当化といった三つの要素が揃った時に不正が生じやすくなると論じました。(以下参照)

1、 動機・・・不正を実行する背景にある主観的な事情
Ex
(1) ノルマに対するプレッシャー。
(2) 個人的な金銭的問題。
(3) 成功者であることに対するこだわり。

2、 機会・・・不正を容易に実行できる環境
Ex
(1) 現金や商品が紛失しても、誰も問題視しない。
(2) 現預金などの資産管理を一人の担当者で当たっている。
(3) 経費の申請等の承認体制が整っていない。

3、正当化・・・不正行為を正当化する主観的な事情
Ex
(1) 待遇・処遇に大きな不公平感がある。
(自分より能力が劣るあの人が評価されているから、私はもっと貰ってよいと考える・・・等)
(2) 自社のために仕方なくやる、といった誤った正義感。
(利益を過少申告すれば、納税額が抑えられる・・・等)
(3) 『後で返せばよい・・・』と安直な発想から実行する資金の流用。

以上、ざっくりとした記述ですが、いかがでしたでしょう。ここまで読まれた方の中には、自社の実情を思い返し、懸念する箇所が脳裏に浮かんだかもしれません。恐らく、何ら問題がないと感じた方は少ないのではないでしょうか。

それでは、これら三点の要素を鑑みた、財務パーソンのあなたが取り組むべきポイントをお送りします。特に“何ら問題がない!”と思われた方も、じっくりと読み進めてみてはいかがでしょうか。

◆POINT1:経理部からヒアリングし、財務部の体制にメスを入れる。

まずは、あなたが所属している財務部について、改善箇所があるか否か自問自答することからスタートを切りましょう。三つの要素のいずれにも例として挙げられた中に、現預金管理の体制や、経費が承認されるまでのプロセスが問われていることがお解り頂けたと思います。これらは冒頭でも述べたように、経理実務と関連性が強いですが、筆者がお勧めしたいのは、経理部の体制をヒアリングし、財務部側でメスを入れるべきところがあるか否か再考することなのです。

たとえば、経理部では発生した経費に妥当性があるか、一人の担当者にチェックを委ねるのではなく、別の人が確認するといったダブルチェック体制を取り入れているところが多いものです。財務部内でも一人で完結している業務があれば、チェックが行き届かないためにミスが生じやすく、且つ、こうした環境が等閑になれば、正に“トライアングル”の中の『機会』に該当し、財務データ入力や集計作業をする際も、ミスに対しても鈍感になり、不正に繋がりやすくなる危険性があるでしょう。もし、思い当たるところがあれば、財務部内の会議にて、業務フローの見直しやマニュアルの改訂といった具体的な改善策を提起してみてください。

他にも財務部内で採用できる箇所が潜んでいるかもしれません。一度、不正防止をテーマに財務、経理部の担当者双方が集まり、情報交換をしながら改善策を探ることで、両部門の不正防止が強化されるでしょう。

◆POINT2 BS・PL上の数値と現場事情を突き合わせる。

続いてお勧めしたいのは、財務パーソンであれば、誰しもが馴染んでいるBSとPLを活用した取り組みです。BSとPL上の数値は財務パーソンが作っているわけではなく、現場スタッフが、それぞれの担当に係る活動を通した実績が表されていると言っても過言ではありません。財務パーソンは、ルーティンワークとして、勘定科目ごとのデータ推移をチェックしているでしょうが、現場事情にも視野を広げることで、財務パーソンならではの不正回避策を講ずることが可能ではないでしょうか。

たとえば、営業部は売上を発生させる起点部署であり、流動資産である売掛金が現金化されることで、自社全体における仕入・人件費、諸々の経費を賄うことが出来ます。

しかしながら、前述した“トライアングル”の『動機』の中の例に挙げたように営業部内でのノルマがキツイといった実態が潜んでいれば、営業社員が疲弊して、売上金額を改ざんするといった、不正発生リスクが懸念されるかもしれません。

或いは、資材部が材料を調達し、製造部が製造をすることで、自社の商品・サービスが創造されるといった業種であれば、BS上には材料・製品といった棚卸資産が計上されているでしょう。もし、作業現場が乱雑になっていて、材料等の管理体制がしっかりと築かれていなければ、前述した“トライアングル”の『機会』に該当し、材料・商品が紛失しても誰も何とも思わないといった環境とも言えるので、放置してはならないはずです。

勿論、これらの例は極端なケースですが、小さな綻びが自社内にも潜在しているかもしれません。財務上のデータが真実であるか否か、確かめる意味でも財務パーソンは腰を上げる必要があるでしょう。ただ、こうした取り組みを財務スタッフクラスが講ずるのは無理があるでしょうが、自社内に監査機能があれば、財務部と連携して状況確認把握をするなど、既存の組織体制で出来得ることもあるはずです。先輩・上司に対し、ある程度の具体的な策を提案して、実践に繋げてはいかがでしょうか。

◆POINT3:社員らの貢献度をオープンにする。

最終段階は、財務パーソンのルーティンワークに焦点を当て、自社内の社員に向けた不正防止策を考えていきます。財務パーソンであれば、金融機関や投資家など、ステークホルダーに対し、四半期毎に自社の財務情報を提示するといった職務に何らかの形で携わっているでしょう。こうした役割は自社の経営活動の中でも、かなり要な位置であるはずなので、今回のテーマである『不正』に目を向ければ、更に財務パーソンとしての新しい役割が見えてくるはずです。

たとえば、とある部署が新システムを導入したことにより、生産性が上がり、コスト抑制にも貢献したのであれば、財務情報の原価・利益、もしくは棚卸回転数などの指標にも何かしらの影響が及ぶところがあるでしょう。こうした経緯をストーリータッチで、解りやすく伝えるなど、工夫を施すことで、社員らは自身らの貢献度を実感できるのではないでしょうか。

これまでの定型的な財務データ発信のみならず、社員らの貢献度に焦点を絞った情報発信により、自社全体の風通しが良くなり、ひいては、不正のトライアングル『動機』『機会』『正当化』の危険因子が減少する効果も大いに期待できるかもしれません。

認められて不快になる人など、ほとんどいないでしょう。こうした取り組みは、他部署で活躍している現場社員らと交流のある財務スタッフならではの活躍どころとも言えるのではないでしょうか。

財務スタッフのあなたの一歩が、人の心にある疲弊を解き崩し、“不正”の文字すら消え失せていくのです。

 

見えない“信頼関係”に頼らない!

『不正防止を強化する』。といった取り組みは、どこかしら、社内で殺伐とした空気感が生まれてしまうような懸念を持つ人も少なくはないでしょう。しかしながら、自社の企業価値に大きく関わる財務パーソンであれば、優先順位を上げて、自社の経営リソースの中で最も要な位置にある、社員らに焦点を絞り、混沌とした環境を払拭するような策を模索・実践することに邁進する必要があるはずです。

特に筆者が警鐘を鳴らしたいのが、“信頼関係”といった言葉で片付ける神話です。勿論、適材適所で信頼できる人をしかるべきポジションに置いて、企業活動を行っているのでしょうが、そもそもの不正防止は、感情論ではなく、冷静な視点で対処しなければならないはずなのです。本項をお読みの方であれば、容易に理解出来ても、そうでない方が腰を上げて不正防止に取り組むのは、難しいかもしれません。もし、あなたが所属している企業体制の中で、不正についてあまり取り上げられていないのであれば、今、気づいたあなたから、何かしらの一歩を踏む必要があるでしょう。

企業価値を左右する人材。どんなに信頼がおける人であろうとも、三点の要素が揃えば不正に繋がりやすい、といった論点で進めてみてください。

参考:人が不正をするのはなぜか?要素をモデル化した「不正のトライアングル」の紹介(株式会社ディークエストホールディングス)

 

 

ライタープロフィール

田村 夕美子

田村 夕美子

経理環境改善コンサルタント・ビジネス系作家。経理関連のセミナーや「日経ウーマン」「ダイヤモンドオンライン」など各種メディアへの執筆を中心に活動中。「できる経理の仕事のコツ」(日本実業出版社)など著書多数。 最新刊「税理士のためのコミュニケーション術」(第一法規)が好評発売中。インスタグラムにて『前向きビジネスパーソンに贈るYumiko録×夕美子録』配信中。https://www.instagram.com/yumiko.tamura.giftwind/

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