【注目されるワーケーション 前編】ワーケーションの効果と課題

ワーケーションについて、皆さまは、どのような印象をお持ちだろうか?

「遊びながら仕事ができるなんて素晴らしい!」「いや、旅行先にまで仕事を持ち込むなんて、無粋ではないか?」、私の周囲でも、さまざまな意見が飛び交っている。

企業にとって、ワーケーションを導入し、そして社内制度化するメリットとはなんだろうか?

本稿では、筆者の体験もご紹介しつつ、前後編に分けて、ワーケーションについて考えていきたい。

 

「非日常」が仕事の生産性をブーストする

フリーランスである私は、仕事に対する集中力やモチベーション管理は、自分自身で行わなければならない。

お恥ずかしながら、飽きっぽいうえに意思も弱い私にとって、同僚も上司もいない一人っきりの環境で、マンガやゲーム、もしくは昼寝といった数々の誘惑を振り払い、仕事に対する集中力を維持することには、大きな課題だ。

ここ数年、私が煮詰まった時や、仕事に集中できない時に、頼りにしている方法がある。
カフェのはしごである。

スタバやらタリーズ、もしくはコメダ珈琲などをはしごし、仕事を続ける。
一軒の店で仕事をする時間は、最大2時間までと決めている。最近では、カフェでこれみよがしに仕事をする人のことを「ドヤラー」と呼ぶらしい。小心者の私は、周囲の目を気にして、極端な長居はなるべく避けるようにしている。

次のカフェは、できれば徒歩30分程度離れた場所にある方がいい。
気分転換にもなるし、歩いている間に、新たなアイデアが浮かぶことも多い。そして、次のコーヒーを飲むためには、胃の中をすっきりとさせておかなくてはならない。

私に限らず、煮詰まるとカフェで仕事をするという人は、少なからずいらっしゃることと思う。
では、なぜカフェで仕事をすると捗るのか?

● コーヒーに含まれるカフェインが、覚醒効果をもたらす。
● 時間に制限があるため、仕事に集中ができる。
● 余計なものを持ち込めないため、仕事をするしかない。
● 適度な雑音が、集中力を高める効果を発揮する。
● 店員や他の客の存在が、社会的促進効果※をもたらす。

私は、これらの説に加えて、普段の仕事場とは違う、カフェで仕事をすることには、仕事の生産性を高めるブースト効果があると感じている。

慣れ親しんだ事務所、慣れ親しんだ机に対峙することは、たしかに仕事に没入するためのルーティーンのような効果がある。だが、特に煮詰まったときには、慣れ親しんだ環境から飛び出し、普段と異なる非日常の場に身を置くことで、脳に刺激を与えることができるのだろう。

このような働き方を、最近ではデジタル・ノマドと呼ぶらしい。
そして、非日常に身を委ねるデジタル・ノマドが行き着いた最終型の一つが、ワーケーションである。

※社会的促進 (デジタル大辞林
集団で作業をすると、同じ作業をする他者の存在が刺激となって、一人でやるよりも達成効果が増大する現象。

 

よみうりランドでのワーケーション体験

よみうりランドのプールサイドで、ワーケーション体験をする筆者

実は私も、別媒体での記事執筆のため、ワーケーションを体験したことがある。よみうりランドで行われた、アミューズメント・ワーケーション(※現在は休止中)である。

仕事のために用意されたのは、閑散期のプールサイド。仕事用に供されるのは、ビーチチェアである。

私が体験したのは平日だったが、それでも子供や女子高生(なぜか、朝から制服姿の女子高生がたくさんいた)の嬌声が響く園内。ジェットコースターやフリーフォールなどのアトラクションが発するメカニカルノイズも、耳に届く。

だが、なぜだろうか。
それらは、集中力を妨げる不快要素ではなく、むしろ集中力を高め、仕事の生産性をブーストする効果をもたらす。

究極は観覧車である。
アミューズメント・ワーケーションでは、一時間、観覧車内で仕事をすることができる。実はたまたまドイツ国営TVの取材を受けたため、観覧車内で仕事をしたのは、実質20分ほどだった。だが、いつもは執筆が遅く、各方面に迷惑をかけている私が、限られた20分間で、記事一本のプロットを完成させることができたのだ。

後にも先にも、観覧車内で仕事をしたのはこの時だけだが、あれほど仕事が進むのであれば、ぜひまた乗ってみたい。

旅先で仕事をする一般的なワーケーションとは、少し趣が異なるかもしれないが、非日常が仕事の生産性をブーストする効果を実感したひとときであった。

「最近、仕事の生産性が下がってきたな」──、そう思うあなたは、試しにワーケーションを体験することで、現状を打開できるかもしれない。

だが一方で…、いや、だからこそ思うのだ。
企業の立場から考えたとき、ワーケーションとは、社内制度として整備する価値のあるものなのか?
世間では、必要以上にワーケーションがもてはやされている感が、私には否めない。
ワーケーションとは、すべての企業が目指すべき就業制度なのだろうか?

 

私が、企業におけるワーケーションの制度化に懐疑的な理由

1. ワーケーション中、家族はどうすればいい?

ワーケーションについて、ネット上のブログやSNS、Youtubeなどを検索すると、ワーケーションに対し、おおむね好意的な記事が多い。感想の多くは、「生産性が向上した」「新たな発想・着想を得られた」というものだ。

だが、多くは、一人でワーケーションを行った感想である。
パートナーとともにワーケーションを行ったという記事もあるが、これも多くは、「パートナーとともに」、つまり二人ともワーケーションを行ったケースであり、一人が仕事、他方は休暇というケースは少ない。

子供連れでワーケーションを行ったという記事は散見されるが、仕事がはかどったという感想は多くない。
ワーケーションを観光資源として考え、積極的に呼び込もうという自治体の中には、ワーケーションを行う宿泊施設や団体に助成金を用意し、また子供を預かることができる施設、もしくは体験カリキュラムなどを用意するケースも登場し始めているものの、絶対数としては少ない。

仕事をする当人の満足度が上ったとしても、家族が楽しめないワーケーションはNGだ。
企業とすれば、家族に負担をかけるワーケーションを制度化するよりも、仕事とプライベートをきちんと切り分けることができるメリハリのついた働き方を、社内文化として定着させることを優先すべきだろう。

2. ワーケーション先で、満足な仕事ができる環境を整えられるのか?

ここで言う環境とは、道具、空間、制度の三つである。

● 道具
ノートPCやモバイルディスプレイ、通信するためのモバイルWi-Fiなどの、仕事をするための道具。
また、社内システムにアクセスするためのリモート環境は欠かせない。

● 空間
ワーケーションを行う部屋、机、椅子など。

● 制度
ワーケーションを実施するための就業規則や就業制度など。

まず前提として、ワーケーションを制度化するのであれば、企業側はリモートワークができる環境を構築すべきだ。社内システムにリモートアクセスできなければ、できる仕事、もしくはワーケーションを行うことができる職種は大幅に限定されてしまう。

就業規則や就業制度などの、社内制度を整備することも必須である。
余談だが、知人の勤める会社では、在宅勤務を行う際に、Zoomを常につないでおかなくてはならないという謎ルールがあるらしい。「そんなに従業員が信じられないんですかね…」と知人は嘆いていたが、ワーケーションを制度化するのであれば、時として社風や社内文化を見直すことも、必要となってくるだろう。

「空間」として挙げた、ワーケーション先の机や椅子などは、現地に行ってみなければ分からないだけに厄介だ。実は先日、ワーケーション可能とうたったビジネスホテルを利用したのだが、Wi-Fiが通っているだけのごく普通の部屋で、特に仕事用の机や椅子が用意されていることもなく、がっかりしたことがあった。

不自由な環境で仕事を強いられれば、いくら気持ちが高揚しても、仕事がはかどらないこともある。

3. 目的が明確でない

企業にとって、ワーケーションを制度化するメリットとは何か?

まさか、福利厚生の一環として、「仕事名目で旅行に行っても良いよ!」などと大盤振る舞いをする企業はあるまい。(そもそも、それはワーケーションではない)
逆に、「休暇中でも仕事をしてね!」と強制する企業があったら、それは間違いなくブラック企業である。

現在、ワーケーションに関する情報は、迎える側、すなわちワーケーション名目で観光客を誘致したい地方自治体や宿泊施設、観光施設や旅行業者などの思惑が先行している感が否めない。

「なんとなく良さそうだから」「話題になっているし」といった曖昧な理由だったら、ワーケーションを制度化しても大やけどするだけだと、私は思う。

 

ワーケーションを企業制度化するヒント JALの成功事例から

JALのワークスタイル変革(各種資料より筆者が作成)

否定するばかりでは能がない。
ワーケーションを制度化した企業の事例を取り上げ、企業に価値のあるワーケーションの姿を探っていこう。

JALでは、2017年からワーケーションを開始した。上図では、JALがワーケーションを制度化していった取り組みのポイントをまとめている。

「『ワーケーション』という名前をつけてはいますが、特別な制度ではなく、ただのテレワークです。制度利用の条件等は何も変えておらず、単に『こういう使い方もできますよ』と社員に示しただけです」──、2017年に行われたインタビューで、当時のJAL人事担当者は、このように答えている。

なお現在ではJALも、「ただのテレワーク」ではなく、出張先で休暇を取得、旅行などを楽しむことができるブリージャー※制度を導入するなど、より積極的にワーケーションを活用すべく取り組んでいることは補足しておく。

JALにとって、ワーケーションとはゴールではない。
働き方改革を進める一環として、テレワークを導入し、さらにワーケーションをメニューとして取り込んでいったのだ。
これは、企業が制度としてワーケーションと向き合う上で、もっとも正統な進め方ではないだろうか。
ワーケーションありきで、もし制度化を検討している企業があれば、ぜひこのJAL方式に切り替えることをおすすめする。

※ブリージャー(Bleisure)
business(仕事)と leisure(余暇・休息)を組み合わせた造語。「ブレジャー」とも読まれることもある。

 

テレワークの究極形、「WAA」(ワー)とは?

もう一つ、テレワークやワーケーション、もしくは働き方改革の文脈において、ぜひ知って欲しいキーワードがある。

それが、「WAA」(ワー)である。
WAA は、「Work from Anywhere and Anytime」の略であり、言葉どおり、働く場所、働く時間を、基本的に従業員が自由に選択することを可能とした就業制度である。

WAAを導入したユニリーバでは、それまであったフレックスタイムや在宅勤務制度を一新し、コアタイム、自宅勤務といった条件を撤廃した。
WAAは、事前申請の上、上司の承認を得ることで利用できる。上司は、本人から申告された勤務時間と休憩時間を管理する。

これまでの日本企業は、8時間勤務という枷を従業員に課したうえで、年功序列、成果報酬などの企業制度を作り上げてきた。
この仕組みは、たしかに昭和時代における日本の経済成長を支えてきたのかもしれない。だが、社会が成熟し、複雑化するにつれて、ほころびが見えるようになってきた。

育児はもちろんだが、介護や病気の治療のために、フルタイムワークができない人がいる。
仕事だけではない、自身の人生における充実を求めようとすれば、時間と場所が制約される働き方に苦しみを感じる人もいるだろう。

もちろん、もっとシンプルな理由で、WAAを求めても良いと、私は思う。
「通勤に1時間以上かけるのが嫌だ」「家賃の高い都内ではなく、より広い家を求めることができる郊外に住みたい」──、これらも多様な働き方を求める上で、正統な理由だと思う。

WAA導入後、ユニリーバでは以下のような効果を確認している。

● 導入後11ヶ月で、従業員の9割がWAAを利用。
● 「仕事の生産性が上った」と感じる利用者が7割を超えている。
● WAA導入後、労働時間は全体で15%削減できた。
● 残業時間が月45時間以上だった人が、3割以上減った。

WAAを制度導入すれば、原則として、どこで仕事をしようが、従業員の自由である。ワーケーションだけを制度として用意するよりも、より大きな視野でWAAのような就業スタイルを提示した上で、「ほら、後は皆さんの創意工夫で、自分なりのワークスタイルを実現しなさい」という方が、これからの企業のあり方としては健全であり、望まれていると私は考える。

 

企業と従業員の関係性に変化が訪れている

「働き方の多様化」を実現するために必要な考え方、制度などをマッピングした

少子高齢化は、日本社会が向き合わざるを得ない課題である。
2020年現在、生産年齢人口(※15歳以上65歳未満の人口のことを指し、生産活動の中核をなす人口層)は、7,449万人。だが、2040年には5,978万人、2060年には4,793万人まで減少すると予測されている。

昭和時代の企業は、「従業員を雇ってやっている」、そして従業員の側も「会社に雇ってもらっている」という意識があったように思う。
だが、生産年齢人口が減っていく今後の日本においては、企業と従業員の関係は平等、もしくは従業員の方が強い立場になっていく可能性もある。
従業員に対し、働く価値を提供できない会社は、人材不足で立ち行かなくなっていくだろう。

私は、ワーク・ライフ・バランスという考え方が嫌いだ。仕事とプライベートを二元論化する考え方が嫌だし、プライベートの充実に無関心な会社も嫌だった。
人生とは、その人が背負っているすべてが反映されるものである。仕事の充実なくしてプラベートの充実はありえないし、逆もしかりだと、私は考えている。
だから、仕事とプライベートの間に境界を設けることなく、相乗的に発展させることで人生の充実を目指そうとする、ワーク・ライフ・インテグレーションの思想には大賛成である。

ワーク・ライフ・インテグレーションを尊重しようとする企業は、従業員に「この会社で働く価値」を提供することができる企業であろう。
そして、ワーク・ライフ・インテグレーションを実践するためには、働き方の多様化を実現することが必要となってくる。

ワーケーションそのものは、大きな可能性を秘めた働き方だと、私も思う。

だが、ワーケーションは、働き方の多様化におけるメニューの一つでしかない。
企業が制度化を考えるのであれば、ワーケーション単体ではなく、働き方多様化の実現という、働き方改革の本質を目指すべきではないだろうか。

本稿では、企業とワーケーションの関係性を軸に、ワーケーションを考えてきた。
後編では、管理部門が、テレワーク、ワーケーションを実施する上での課題を考えていこう。

 

参考および出典
● 「Work+Vacation=『ワーケーション』を提案し、全社のワークスタイル変革を加速」(人事マネジメント 2017年12月号)
● 「ワークスタイル変革」
https://www.jal.com/ja/sustainability/human/work_style/
● 「ユニリーバやカルビー、働く場所や時間は社員が決める」
https://www.sustainablebrands.jp/article/story/detail/1189122_1534.html
● ワーケーション&ブレジャーの導入・推進企業のご紹介「ユニリーバ・ジャパン」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/workation-bleisure/corporate/case/unilever/

 

 

ライタープロフィール

坂田 良平

坂田 良平

Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。