坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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最近注目を集めるワーケーション。
非日常の空間で仕事をするワーケーションには、仕事の生産性をブーストするというポジティブな効果が認められる反面、企業が制度化する上では、さまざまな課題があることを、前編では述べた。
後編では、企業における管理部門にフォーカスを当てて、「管理部門がワーケーションを実施する上での課題」について考えていこう。
この記事の目次
まず、ワーケーションを考える前に、テレワーク全般について考えたい。
大前提として、テレワークができない職種が存在することを確認しておきたい。
医療従事者、介護関係、ドライバー、製造関係、フィールドエンジニア(※システムや製造機器などのサポートのため、客先に訪問する職種)、美容師、料理人、実験施設を必要とする研究職など、ある場所に滞在し、そこで職務に従事することが前提になる職種は、基本的にテレワークを行うことは難しい。
逆に言えば、一般的な事務職(管理部門も含まれる)、営業職などに関して言えば、このような場所の縛りは、上記に挙げた職種に比べて、はるかに低いと考えられる。
一方、テレワークを導入していない、もしくは実施していない企業は、なぜ行わないのだろうか?
2020年8月から9月にかけて実施された、厚生労働省のアンケート調査から考えよう。
1. できる業務が限られているから (68.1%)
2. 情報セキュリティの確保が難しいから (20.5%)
3. 紙の書類・資料が電子化されていないから (16.6%)
4. テレワークができない従業員との不公平感が懸念されるから (15.7%)
これらの理由について考えていこう。
私は、ある運送会社において、テレワーク(在宅勤務)の実証実験を行ったことがある。
実証実験対象となったのは、輸配送計画を立案する配車担当者と、入出庫の手配を行う事務処理担当者である。
実証実験を行った運送会社では、結局テレワーク制度の導入を見送っている。
その理由は、「紙書類の存在」でも「外線電話の転送方法」でもない。
テレワーク実証実験を行ったことによって、業務の属人化が深刻な状態にあり、まずは業務の標準化から取り掛かる必要があることが判明したからである。
同社において、「できる業務が限られているから」というのは、たしかにそのとおりであった。
だが、その理由として、「紙の書類・資料が電子化されていないから」というのは、表面的な理由でしかないことが判明したのだ。
「外線電話の転送」について言えば、現在はスマートフォン型のビジネスフォンシステムが登場しており、インフラ投資さえ惜しまなければ実現できる。
インフラ投資という観点で言えば、コロナ禍によるテレワーク需要の高まりにより、ペーパーレス化を実現するソリューションは、多数登場している。
そもそも、同社では完全在宅勤務を目指し、実証実験を行ったわけではない。
複数在籍している配車担当者、事務処理担当者が、交代で在宅勤務を行うことで、働き方の多様化を模索し、いかなるアクシデントがあっても業務継続の可能性を高めることが、真の目的であった。
「伝票などの紙書類を完全にペーパーレス化することは難しい。
だったら、紙書類関係の事務処理は出勤者に任せ、在宅勤務者はできる仕事だけをやれば良い。」
── このように考えたのだが、現場では業務の属人化が深刻な状態にあることが判明した。
Aさんの仕事を、臨時にBさんが引き継ぐといった、ごくあたりまえのことができないくらい、業務の属人化が進んでいたのだ。
まず業務の標準化をしなければテレワークを実施できない、という同社の判断は、残念ではあるが、たしかにそのとおりであろう。
管理部門における事情を考えてみよう。
担当業務によって多少の違いはあるものの、管理部門の仕事というのは、ルーティンワークと対応業務の二つに大別される。
対応業務とは、顧客などの社外だけでなく、製造、品質、営業、もしくは役員など、社内他の部門から、突然対応することを迫られる、発生予測が困難な業務を指す。
ルーティンワークについては、大原則として業務の形式知化と標準化が可能なはずだ。
先の運送会社において、「業務の属人化と暗黙知状態が深刻な状態にあった」と延べたが、これは長年に渡る問題意識の欠如が、事態を悪化させた結果である。
だが、対応業務は違う。
また、対応業務は発生予測が難しいとは言え、「○○については、Aさんに任せよう。△△については、Bさんが得意だよね」と、ある程度系統的にカテゴライズされ、またそれぞれに対し、自然発生的に対応者が決まっているケースも多い。
「在宅勤務?、いいよやりたければ。でもA役員から、依頼が来たら、あなた自宅で対応できるの?」
── ましてや、ワーケーションに行きたいと言ったら、やっかみ半分、嫌味のスパイスまで加わることもあるかもしれない。
こういった状況を考えると、在宅勤務やワーケーションを諦めてしまう管理部門の在籍者が出てしまうのも、致し方ないと同情する。
まとめよう。
これは管理部門に限ったことでないのだが、テレワークができない理由として、必ず上位に登場する、「できる業務が限られているから」、「紙の書類・資料が電子化されていないから」といった理由は、表面的に言えば、ITインフラへの投資で解決できるケースが多いと、私は経験的に感じている。
だが、その背後には、業務の属人化や、暗黙知状態の放置、さらに従業員同士の心理的課題といった、深刻なハードルが潜んでいることに留意せねばならない。
同じ企業内でも、営業職や企画職、もしくはクリエイティブ職に比べ、総務、経理、法務、人事などの管理部門は、よりセキュリティレベルの高い情報を取り扱うことも多い。
極論だが、前編でご紹介した私のワーケーション体験のように、誰がどこからPCを覗いているかも分からないオープンな遊園地のプールサイドという環境において、現地で用意されているセキュリティレベルが不明なWi-Fiを使い、人事査定を確認している人事部員がいたら、怒りを通り越して噴飯ものであろう。
(※ちなみに私は、プライバシーフィルターとスマホのテザリング機能を使うことで、セキュリティレベルを自己コントロール下においている)
だが逆に、セキュリティを確保できるのであれば、人事部や法務部といった、よりセキュリティレベルの高い情報を取り扱う部門であっても、テレワーク、ワーケーションを行うことも可能ではないかと、私は思う。
「実際のところ、管理部門って、テレワークを行うことが難しいと感じています。まして、ワーケーションなんて…」
──、本稿を執筆する際の事前打ち合わせにおいて、NOC担当者から言われたことだ。
管理部門の方にとっては、ごく一般的な感覚らしいが、実はこれ、私にとっては、ちょっと意外であった。
というのも、かつて私が勤めていた企業では、営業職やクリエイティブ職よりも、管理部門の方が、在宅勤務の実施率が高かったからである。
また、企業文化によるものだとは思うが、在宅勤務を行う管理部門に対し、不自由を感じたり、やっかみ等、負の心理を感じている社員は皆無だったと思う。
私が勤めていた企業は、2000年初頭からテレワークを推進していた。
当時はMDM(※)もなく、シンクライアントも、実用レベルとは言い難かった。
だが、VPNをはじめとするインフラを整備し、在宅勤務をする従業員の自宅環境を訪問、セキュリティがきちんと保たれているかどうか、労働環境として適切な状態が保たれているかどうかなどを確認したうえで、在宅勤務を許可、実施していた。
当時に比べ、現在ではハード・ソフトの両面でセキュリティ関連テクノロジーが進化し、安価になりつつあることもあり、セキュリティ対策の選択肢は増えている。
最強の盾、すなわち絶対的なセキュリティなどありえない。
在宅勤務というメリットと、セキュリティコストの費用対効果を鑑み、あなたの企業における最適なセキュリティのあり方を探るのが、在宅業務におけるセキュリティ対策の基本的な考え方のはずだ。
ただし、いくらセキュリティ関連ソリューションを導入したところで、テレワークをする当人たちが、基本的なルールを守らなければ意味がない。
これは、自宅以外でのテレワークを許可している企業における運用ルールの例である。
余談だが、私の知る業界メディアの記者は、「カフェでのオンライン取材ですか?普通にやってますけど」と平然と語っていた。
ZoomやTeamsなど、オンラインチャットツールでは、バーチャル背景を利用できる。
つまり、相手がどこからオンラインミーティングに参加しているのか、分からないことも多い。
「もしかして、私とオンラインで打ち合わせをしているときも、この人はスターバックスとかにいた可能性があるのか??」、そう思うと、二度とこの人とはオンラインミーティングは行わないと決めた。
もしかすると、同様の経験をした読者の方もいるのではないだろうか。
(※)MDM
Mobile Device Management。スマートフォン、タブレット、ノートPCなどのデバイスにインストールすることで、利用状況を管理・監視し、情報漏えいを防ぐアプリケーションの総称。
最近では、セキュリティ対策にも配慮された執務スペース提供を前提とした、企業向けワーケーションパッケージツアーが増えてきていることも付記しておこう。
また、例えば和歌山県白浜町のように、企業向けのサテライトオフィスを用意することで、大手企業のワーケーションを誘致しているケースもある。
ちなみに、白浜町には、セールスフォース・ドットコム、NECソリューションイノベータ、三菱地所など、そうそうたる企業がサテライトオフィスを構えている。
「情報セキュリティの確保が難しいから」という理由に関して言えば、仕組み(ITインフラ)と運用ルールで、クリアできるハードルではないだろうか。
特に、運用ルールについては、十分に配慮したい。
繰り返すが、最強の盾、すなわち絶対的なセキュリティなどありえないからだ。
盾を守るのも壊すのも、人の心次第である。
ギリシア神話において、難攻不落のトロイアを陥落させたのは、人の心の隙間をついたトロイの木馬であった。
油断や怠慢を許さず、セキュリティを守るための運用ルールが大切であることは、ワーケーションやテレワークに限らず、すべてのセキュリティにおいて共通の課題なのだ。
もしかすると、これが、ワーケーションを企業が導入・制度化する上で、管理部門が直面する一番の課題かもしれない。
観光庁が、2020年12月から翌1月に実施したワーケーションに関する企業調査では、なんと42.1%が、「ワーケーションの導入課題に適用部署や従業員が限定的で不公平感が生じる」ことを課題として挙げている。
管理部門は、コストセンターと呼ばれる。
対して、売上を生み出す製造部門やサービス部門、営業部門(※会社によってコストセンターに分類されるケースもある)などは、プロフィットセンターと呼ばれる。
「私たちプロフィットセンターのおかげで給料がもらえているコストセンターの皆さんは、慎ましく会社生活を過ごしなさい」
── こういった考え方をする社員、もしくは企業は、未だに存在する。
かつて、私はカスタマーサービスセンターに、短期間だが在籍していたことがあった。
ある時、顧客からのクレームに対し、いくら催促をしても対応してくれない営業がいた。
業を煮やした私は、その営業の元に出向き、直接クレーム対応を催促したのだが、当人はのらりくらりとその場しのぎの言い訳をならべるばかりだった。
さすがに私も頭に血が上りかけた時、その場に居合わせた、問題の営業の上司が、私を突然怒鳴りつけてきた。
「だったらお前がクレーム対応をすればいいだろ! 俺たち営業に食わせてもらっている管理部門が、偉そうに説教をたれるんじゃない!!」
これは極端な例かもしれないが。
コストセンターである管理部門の方々からすると、ご褒美のような働き方に見えるワーケーションを行うことに、心理的な抵抗感を感じることもあることは理解できる。
私がかつて勤めていた会社は、典型的なブラック企業であった。
なにせ、終礼が21時に行われるのだ。もちろん、サービス残業である。
そんなブラック企業でも、管理部門は19時~20時くらいには退社していた。
これでも十分に遅いのだが、そんな管理部門にやっかみを感じていた人たちがいたのだろう(それも多分、営業部を中心に)。
ある時、管理部門も終礼を21時に行う旨の社内通達があった。
その通達を見た、私の上司がつぶやいたひとことを、私は今でも覚えている。
「そうか、この地獄が続くのか…」
当時、私は平の営業部員だったが、まったく同じ思いを抱いた。
管理部門が、会社の不合理を認めてしまったら、他部門の従業員には救いがなくなってしまう。
私の知人に、チョコレートメーカーのマーケティング担当者がいる。
彼女は日々何十種類ものチョコレートを食べ続けており、会社内でも羨ましがられているそうだ。
だが、彼女はプライベートでも、競合他社のチョコレートを食べ続けている。
たまにしょっぱいせんべいなどが食べたくなることもあるそうだが、我慢している。お腹が一杯になってしまい、チョコレートを食べられなくなってしまうからだ。
営業であれば、出張に赴き、見知らぬ街で、接待と称し土地の名産を味わうこともあろう。
出張の少ない、管理部門の方々からすれば、羨ましいと感じることもあるだろう。
さらに言ってしまえば、産休に対しても不公平だという方もいる。
「子供がいない人に、産休のような特別休暇がないのは不公平だ」という考え方だ。
同じ企業に勤める仲間といえど、担当する職務、所属する部門、もしくは立場によって不平等が生じるのは致し方ない。
だが、考えて欲しい。
本当の公平など、実現できるのだろうか?
もう一歩、踏み込んで考えれば、それは本当の意味での不公平なのだろうか?
「テレワークができない従業員との不公平感が懸念されるから」としてせっかくの可能性、働き方の多様性実現につながる道を諦めてしまうのは、考え方としてあまりに稚拙である。
企業に変革をもたらすのは、経営者の役目である。
だが、それは原則であって、実際には管理部門が、経営者に気づきをあたえ、そして制度化への原動力を担う場合も多い。
前編において、私はこのように申し上げた。
「ワーケーションは、働き方の多様化におけるメニューの一つでしかない」
働き方の多様化を認めることとは、すなわち異なる価値観を認めることではないだろうか。
明らかな不公平は是正されるべきだとは思う。
だが、公平と不公平の境界は、多くの場合立場によって異なる。
あいまいな境界に目くじらを立てるよりも、価値観の多様性を認め、公平・不公平の議論から解放されるほうが、人のあり方としてはるかに美しい。
ましてや、不公平感を理由に、働き方の多様化という新たなチャレンジに臆することは、企業とその従業員にとって大きな損失ではないだろうか。
少々話がずれてしまった。
結論を言えば、管理部門だからワーケーションを実施しにくい、ということに、私は合理的な理由を見いだせない。
たしかに本稿で挙げた、管理部門がワーケーションを行うことに対するハードルは、クリアするために労力を要するとは思う。
だからこそ、臆せずチャレンジして欲しいと願う。
ワーケーションのような変革を伴うチャレンジに挑むことも、管理部門の方々が担う重責の一つでないかと、私は思うのだ。
管理部門の方々には、その重責から逃げず、ワーケーションを含めた働き方の多様化実現に向けて、ぜひチャレンジしてくれることを期待したい。
▼参考および出典
● 「新しい旅のスタイル」に関する検討委員会 実態調査(国土交通省観光庁)
● テレワークにおける労務管理等に関する実態調査(速報版)(厚生労働省委託事業「令和2年度テレワークの労務管理に関する総合実態研究事業」)
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ライタープロフィール
坂田 良平
Pavism代表。 一般社団法人グッド・チャリズム宣言プロジェクト理事、JAPIC国土・未来プロジェクト幹事。 「主戦場は物流業界。生業はIT御用聞き」をキャッチコピーに、ライティングや、ITを活用した営業支援などを行っている。 筋トレ、自転車、オリンピックから、人材活用、物流、ITまで、幅広いテーマで執筆活動を行っている。
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