
ヒトの五感を財務に活かす提案
財務パーソンは、言わずもがな自身が持ち合わせている、財務の専門知識を活用するばかりではなく、社会情勢や経済の動向も敏速に察知しながら職務に当たっているでしょう。
その中でルーティン化されている職務の一つにデータ分析が代表格として挙げられるでしょうが、一般的に重要視されるのは、そのデータが物語る定量的な部分ではないでしょうか。
しかしながら、私達は普段の生活の中で、五感(視・聴・味・触・嗅)を使っています。
よって、財務パーソンが職務に当たっている間でも、何かしらの五感を使って予測したり、判断したりしているはずです。
勿論、意識している人は僅少でしょうが、ヒトならではの五感を研ぎ澄ませた仕事スタイルを意識することで、これまでは、どちらかと言えば、定量的な見方・判断をしていたシーンにも、人々の感情・行動を読み解くといった定性的なところが加わる期待が出来、日頃の職務も一段と付加価値が高まるかもしれません。
今回は五感をテーマに、財務の現場を振り返り、効果的な職務の当たり方を考えていきます。
ここまで読まれた多くの方は、まだピンとこないかもしれませんが、明日から取り入れられるものがあるでしょう。どうぞ、読み進めてください。
自社&投資家の両面を視野に入れる。
まずは、根本的なところから、見つめ直してみましょう。上場企業は、投資家から選んで頂くことによる資金供給が原動力となり、経営活動が円滑に進みます。
又、当然のことながら、投資家も法人・個人を問わずヒトにより形成されているので、ヒトが投資する際に行う定量・定性分析といったプロセスの中で、何かしらの五感を使って思考し、判断することは自明の事実でしょう。
こうして改めて考えてみると、投資家目線も意識し、自社を客観視しながらの職務は必然的です。
つまりは、自社&投資家の両面を視野に入れ、これまでの財務パーソンの職務の中に、五感を効かせることで、より多くの投資家から選んで頂けるような企業づくりへと発展することが、十分にあり得るのではないでしょうか。
では、どんな方法があるのか?以下に筆者からの具体的な提案を三点記述してまいります。
◆Suggest 1:財務パーソンの得意な五感を掬い上げる。
五感と一口に言っても、人のタイプにより得意な五感は異なります。
そこで、まず提案したいのが、財務部スタッフ一人一人の得意な五感を掬い上げてみることです。
そうは言っても、どうすれば・・・となるでしょうが、まずは、部内会議での発言や何気ない普段の会話の中からも、掬い上げることが出来るかもしれません。
たとえば、月次の財務データの推移分析をして、何らかの意見を述べる際、あなたを含めた財務スタッフの方々は、どのような表現を用いているでしょう?
ここで、想像したり、過去を思い返したりしてみてください。
人により様々でしょうが、『〇〇の項目が上昇している。□□の影響が視えますね』。という言い方であれば、視覚からによる判断かもしれませんし、
『□□の影響を感じます』。は、その人自身の感触によるものかもしれません。
又、『□□を支持する声が影響している』。という言い方は、聴覚によるものかもしれないでしょう。
つまりは、同様の意見でも表現の仕方に違いにより、その人毎に得意な五感性が表出することがあり得るのです。
自身の得意な五感が解ると、そこの感性を研ぎ澄ませながらの判断・分析も可能になるかもしれず、ひいては、定型業務に当たる際にでも、注意深く情報源を視たり、何が影響するか周囲の声を聴いたり、感じたり、といったこれまでとは異なる取り組みが出来るのではないでしょうか。
ひょっとしたら、個々の担当業務を刷新する契機にも繋がるでしょう。
◆Suggest 2:五感の効いた役割分担を刷新する。
次に“Suggest1”を踏まえ、財務部の体制について考えてみましょう。
規模や業種を問わず、財務部はその人の適性に応じた役割分担で業務を進めているでしょうが、人それぞれの得意な五感性も取り入れた役割分担を検討することで、これまで以上に体制が強化された財務部隊が構築されるかもしれません。
たとえば、五感の内、“視”が得意な人であれば、幅広い視点でのデータ分析に従事してもらう。
或いは、“触”が得意な人であれば、感受性が強いことが考えられるので、今後の社会情勢や自社の取り組みといった外部・内部環境が、今後の自社の企業価値にどのように影響するか、感じたことをレポートしてもらう。
そして、“聴”が得意な人については、他部署へ赴いてもらい、今後、予定されている企画などの動向についてヒアリングし、財務部全体に情報共有して、各々の業務に取り込んでもらうといったような担当割を実現化することで、財務スタッフそれぞれの感性が効いた、職務遂行が可能ではないでしょうか。
勿論、一概には言えないケースもあるでしょうが、ヒントとして取り入れる価値はあるはずです。係替えといった小規模な改編から始めるだけでも、大きな進展へと繋がるかもしれません。
◆Suggest 3 投資家からの評価を客観視する。
最後に投資家からの評価を客観視するところを考えてみましょう。
常日頃から自己研鑽を怠ることのなく、職務遂行に当たっている財務パーソンの割合は高いでしょうが、五感を意識することで、冷静なスタンスで自社に対する評価を客観視出来るかもしれません。
この度のコロナ禍といった未曽有の事態を通し、自社の経営体制に何らかの影響を受けた企業は多いはずです。よって、財務パーソンであれば、上長の指示或いは自身の裁量で、コロナ前とは異なる側面での、自社の財務数値の分析や情報発信に邁進したのではないでしょうか。
ここで更に自己の使命にあたる仕事をブラッシュアップするイメージで五感を取り入れた職務を思案・実行してみることをお勧めしたいのです。
たとえば、一般的な財務指標についてはある程度のマニュアルが整備されていて、自社の商品開発の状況や販売数、或いは、マーケット層の変動などによる、データ推移の精査にあたり、報告や情報配信に当たっていたでしょう。
しかしながら、昨今の長引くコロナ禍においては、財務パーソンの個々の五感を使い、データを“視る”に留まらず、我が国の政策や自社にとって影響度の高い各国の動向にオンライン上でも“触”れ、声を“聴”く、といった規模の広い活動をすることで、自社が広い世界の一部分だと改めて気づかされることもあるかもしれません。
ひいては、一つ一つのデータの推移は、投資家がどのような思いで“感じ”、判断したのか俯瞰できるようになるのではないでしょうか。
勿論、容易いことではないでしょうが、五感活用は広い世界観での財務の遂行が可能になる一つの方法なのです。
業績ばかりで選ばれない時代だからこそ必要!
長引くコロナ禍においての財務パーソンの使命とは何か?と問うと、かなり重い課題なのですが、筆者は情勢がどうあれ、企業の心臓部と言っても過言ではない財務部の職務について、定期的に見直したり、有効的な方法を検討したりといったスタンスは、欠かせないことだと考えます。
又、昨今の株価の上昇は、企業の業績の良し悪しのみならず、投資家による今後の予測、期待といった、言わばヒトの心理変動とも相関性があるとも、考えられるのではないでしょうか。
このような傾向が続き、後にスタンダード化されるのであれば、担当業務の抜本的な改革も必要になってくるはずなのです。こうした事態に備えるため、高度な知識習得やAIを使った分析・判断業務も重要なのでしょうが、ヒトの心の変動に左右される上場企業の財務パーソンであれば、ヒトならではの五感を活用した財務遂行力は必須ではないでしょうか。
たとえば、自社の企業価値を投資家にアピールする際も、これまで代々受け継がれてきた前年同月や同業他社といった定量的でスタンダードな比較要素が主体の見せ方ばかりではなく、実際に見聞きし、肌で感じた現場スタッフによる貢献度を盛り込むなど、定性的な見せ方を採用すれば、他社との差別化を図ることが出来るかもしれません。
早速、IR担当者ともタッグを組むなどして、具体的なところを模索してはいかがでしょう。
これまでの記述を振り返りながら、決して他人事(ヒトごと)とは思わず、取り入れる箇所を是非、検討してみてください。
未曽有な事態が続く上に、業績だけでは選ばれない時代であるからこそ、ステークホルダーの心理変動に密着した職務を模索する上で、“五感”は奏功するのかもしれません。