
事業承継は他人事ではない課題。
長引くコロナ禍を背景に自社の経営活動の持続化に向け、これまでの組織体制や人材活用策を問いながら、変化を取り入れた企業の数は多いはずです。
よって、こうした情勢を契機に経営者の中には、自社の将来と共に自身の引退も視野に入れながら、事業承継にも焦点を当て、準備を始めた方もおられるでしょう。
ただ、本項をお読みの財務パーソンの中には、自社の“事業承継”など、ピンとこない方もおられるかもしれませんが、いつか自社の経営権を誰かにバトンタッチをする際、必ずや相手方が財務データを重要視するので担当者としても、決して他人事ではないはずです。
勿論、立場や権限により、容易くない事柄もあるかもしれませんが、自社にとってより良い事業承継が実現するばかりではなく、あなたの将来のキャリアアップにも繋がるような職務の当たり方は、数多くあるはずです。
さて、どのように取り組むのが相応しいのか?財務パーソンだからこそ、発揮できる、お勧め点をお送りしてまいります。最後まで読み進めてみてください。
財務パーソンの強みを活かした取り組み
冒頭でも触れたように、実際に事業承継を迎えるまで、経営者のみならず、自社の企業価値を高める担い手と言っても過言ではない、財務パーソンの役割は重要です。
たとえ、スタッフクラスの立場であっても、経営陣らが気づかないコアな部分に注視し、取り組むことで有利でより良い事業承継を迎えることが出来るかもしれません。以下に具体的なヒントを示します。
是非、あなたの強みを全面に表して、取り組んでみてはいかがでしょうか。
以下に三点のヒントを示します。あなたならではの方策を導き出してみてはいかがでしょう。
◆HINT 1:財務データの精査⇒不明箇所のピックアップ
まずは、財務パーソンとして最も得意分野とされる、財務データに焦点を当てた取り組みの紹介です。
筆者がお勧めしたいのは、改めて自社のバランスシート上の資産・負債・資本科目内の詳細を精査し、あなたから見て不明確だと思われるところがあれば、ピックアップしてみることなのです。
たとえば、固定資産に計上されていても、実態や稼働状況がいかがなものなのか不明であったり、流動資産・負債に計上されているにも関わらず、残高が動いていなかったり、何かしら、疑義を感じるものは潜んでいないでしょうか?
スタッフクラスであれば、日次・月次業務の中で、勘定科目ごとの残高推移をチェックしているでしょうが、ひょっとしたら、前任者から引き継がれた方法のままで当たっている、或いは、マニュアル通りにこなしているといった方もおられるかもしれません。
是非、これまでとは異なる、あなたならではの視点で見直し、先輩や上司に対し、あなたがピックアップした項目を提示しながら、質問してみてください。案外、全てにおいて回答出来ない、管理できていない箇所があるものです。
勿論、財務スタッフの中には、日々の業務で多忙を極め、とてもここまで当たることなど困難だと思われる方がおられるかもしれませんが、僅かでも時間を割き、出来るところから着手してみることをお勧めします。
こうしたスタッフによる基本的な取り組みが、財務部門のマネージャの背中を押し、財務データの更なる透明化を図るきっかけに繋がるでしょう。ひいては、引き継ぐ相手方に対し、透明性のある財務明細を提示しながらの説明が出来るため、スムースな事業承継が可能になるのです。
◆HINT 2:変化後の“現場”を振り返る⇒刷新する!
次に昨今の長引くコロナ禍の影響により、業務にどのような変革が起きたのかを俯瞰し、事業承継を鑑みた上での、財務パーソンとしての相応しい方法を考えていきましょう。
勿論、業種や企業文化にもよりますが、この度の未曽有な情勢が続く中で、テレワークやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を導入して、事業活動を持続させるような仕組みを整えたところは少なくないのではないでしょうか。
こうした経緯の中で、財務の現場にいるあなたが関わっている業務について、変化した箇所があれば、整理し、将来の引継ぎ先にスムースにバトンタッチ出来るように準備するのも、一つの方法でしょう。
そして、大切なのは、当事者のあなたから見て、何かしらの課題・問題点が生じていれば改善を進め、より良い方法に刷新することです。
たとえば、テレワーク導入により、月次処理のプロセスが変わったため、生産性にムラが生じているのだとしたら、具体的にどの箇所がやりづらいのかに焦点を当て、改善案を発信する。
或いは、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)導入により、ルーティンワークがアウトソーシングされたため、財務スタッフとしての職務内容が変革したのであれば、その職務を当たる際の重要箇所を盛り込んだマニュアルを作成するなど、やるべきことは多々あるはずです。
継承先の現場担当者に力点を置いた取り組みは、スタッフクラスだから出来ることです。是非、準備に当たってみてください。
◆HINT 3:候補されている相手方の情報収集
最終は事業承継をする上で、自社がどのようなスタンスで臨もうとしているのか、アンテナを張り巡らせましょう・・・!との提言は、かなりハードルが高いことと思う人は多いかもしれませんが、案外、そうではないものです。
本項をお読みの読者であれば、上場企業に勤務する方が多いと思われますので、未上場企業とは異なり、どちらかと言えば、情報がクローズ化されていないのではないでしょうか。
よって、事業承継の候補先など、僅かでも情報を掴めるかもしれません。
勿論、あなたを取り巻く環境が、それに当てはまらない場合でも、財務部門内での動向を察知すれば、何となくでも、予測可能でしょう。
その中で得た情報を参考にして、財務部門内のスタッフとも連携を執りながら、出来ることを模索してはいかがでしょうか。
たとえば、継承先との噂がある法人或いは、個人が担う本業の業績や評判をインターネットの情報や報道等から掬い上げてプレゼンテーション資料を作り、財務部内で情報発信する。
或いは、継承先の候補と同業同規模の継承方法や実態を探り、その情報について上司を通じて経営陣に発信して参考にしてもらうなど、何かしらあるでしょう。
N.Gなのは『きっと、私ではない誰かが既にやっている』。と思いこむこと。もし、そのとおりだとしても、形骸化されていて、機能性が不十分なために、あなたの耳に入ってこないかもしれません。
現場視点を持ちあわせている、あなたならでは能力が貴重だと自負し、取り組んでみてください。
自社の進む道を冷静に見つめる!
事業承継は、かなりの時間と準備が必要です。又、どちらかと言えば、企業組織内の上層部に当たる役員クラスが全面に出るような取り組みでしょう。
しかしながら、たとえそうだとしても、将来的にあなたが身を置く職場の経営者が交替し、経営方針が大きく変わる可能性もあるのですから、他人事と捉える方がかなりのリスクがあるはずなのです。
よって、あなたの知見で持って自社がどのような方向性で事業承継をしようとしているのか見つめ、このまま、自社の名が刻まれている船の乗組員を続けることがあなたの将来にとって相応しいことなのか、冷静に判断してください。
是非、あなたが身を置く自社の事業承継について、当事者意識を持って、少しでも出来るところから当たってみてはいかがでしょうか。
こうした経験が他のビジネスシーンで活かされるのです。ひいては、あなた未来への歩き方にも、更に展望が見えてくるのではないでしょうか。