くもと編集
マーケター兼編集者
NOC 当コンテンツの編集者。
宝飾業界と広告会社を経て2008年 NOC入社。営業や制作ディレクターを経験し、現在はWebマーケティング担当兼当コンテンツの編集を担当。
「NOCのサービスに直接関係のない記事であっても、読んでくれた方の役に立つ情報をお伝えしていきます。」
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早ければ2015年10月に労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)が改正、施行される可能性があります。
労働者派遣法とは、派遣労働者(以下、派遣社員)の保護と雇用安定を目的として1986年に施行されました。この法律が注目されたのは、2008年のリーマンショック後の“派遣切り”“派遣村”が社会問題になったタイミングです。今回改正されるのであれば、2012年に続き、2回目ということなります。
そもそも政府は人材派遣を“臨時的”な雇用形態と捉えており、“長期的”な雇用を行いたいのであれば直接雇用を行うべきと考えています。今回の改正も、派遣社員の処遇改善と直接雇用の促進を目的とすると謳っていますが、各方面への影響は実際にどうなるか予測してみます。
今回の主な改正内容は以下になります。
弊社、人材サービス 人材派遣 担当コンサルタントOは、改正の目的は3つあると指摘します。
「1つ目が、わかりやすい制度にすることです。自由化業務と26業務で分けていた枠組み自体をなくし、全ての業務に対して、個人ごとに3年の期間制限を設けます。これにより、自由化業務に従事させつつ26業務と偽って派遣期間を長期化させるような曖昧な派遣、つまり“グレーゾーン”がなくなります。」
「2つ目が、派遣社員の雇用安定と処遇改善のため、キャリアアップ教育や直接雇用の推進を図ることです。
キャリアアップ教育については未確定なところも多いため、その有効性は未知数ですが、派遣元企業が派遣社員にキャリアアップに関する研修等を実施することが義務化されます。
キャリアアップをすれば、すぐに直接雇用の促進につながるということではなく、将来的に派遣社員の就業先(=直接雇用)の幅を広げるための方策と言えます。
また、廃止される26業務に現在従事している派遣社員は、派遣先が就業継続を希望すれば直接雇用される可能性が出てくるため、一時的に直接雇用化となるケースが増加すると予測しています。
逆に、人材派遣として依頼される業務は、3年ごとにスタッフが変更しても対応が可能な軽作業や事務サポートといったものが増えるのではないでしょうか。」
「3つ目が、悪質な事業者を排除することです。今回は派遣元企業への規制がかなり厳しく、違法派遣やマージン率を偽るような悪質な事業者を排除する狙いがみえます。
派遣元企業への永続雇用推奨は、キャリアアップ教育の義務化とともに、優良な中小の事業者の大きな負担となることが懸念され、大手企業がより勢力を拡大する可能性もあります。」
また、Oは、派遣先企業、派遣社員、派遣元企業への影響は以下のようになると予測しています。
-自由化業務-
抵触日後のクーリングオフ期間(派遣空白期間として3ヶ月)がなくなり派遣社員を交代すれば継続して仕事を依頼できるためメリットが大きい
-旧26業務-
同一人物・同業務に3年を超えて就業を依頼できないためメリットは小さい
派遣で3年以上就業させたい場合、派遣社員を「永続雇用」している派遣元に限定するか、派遣先が直接雇用する必要がある
-自由化業務-
現状と変わらない可能性が高い
-旧26業務-
3年を超えて就業できなくなり、むしろデメリットがある(直接雇用化がない事を前提とした場合)
※厚労省として、就業長期化による、キャリアアップ機会の損失を防ぐという意味合いもあるようですが、現実問題として目論見通りになるか疑問が残ります。
「永続雇用」化についての検討、キャリアアップ措置の対応等など負荷が増えるためデメリットが多い
一方、「永続雇用」が可能でキャリアアップ教育も充実させることができれば、他社と差別化を図ることができ、優秀な人材を囲い込むことが可能
「派遣元企業への規制を厳しくすることで優良な企業のみを残し、それにより派遣社員の雇用安定やキャリアアップの機会を増やすのが狙いです。しかし、トータルでみると派遣先企業に、よりメリットがある内容となるかもしれません。」
派遣社員についての認識が高まったことや施行直後は派遣社員減少など、一定の効果がありました。しかし、派遣社員が直接雇用され、“雇用が安定した”とも、はっきりはいえません。
総務省が出している「労働力調査(詳細集計) 平成24年平均(速報)結果の要約」および「労働力調査(詳細集計)平成25年(2013年)平均(速報)結果の要約」データを見てみます。
派遣社員実数は、リーマンショックがあった2008年の140万人から減少が続き、2012年には90万人と減少しましたが、2013年は116万人と増加しています。
では、正規の職員・従業員(正社員)は、派遣社員が減少した分、増加しているかというと、2008年3,399万人、2010年3,355万人、2012年3,340万人、2013年3,294万人と、同様に減少してしまっています。
パート・アルバイト実数は、2008年1,152万人、2010年1,192万人、2012年1,241万人、2013年1,320万人と増加し続けており、契約社員・嘱託も2008年320万人、2010年330万人、2012年354万人、2013年388万人と増加しています。
(定年退職後の非正規での再雇用増と、今まで職に就けなかった人々が、人出不足を背景に新たに就業する事ができたためと推測されます)
以上より、労働者派遣法の改正により、派遣社員減少への一定の効果は2012年まではありました。しかし、2013年からのアベノミクスによる経済回復によって、パート・アルバイトや契約社員・嘱託といった“直接雇用”は増加しつつも、派遣社員自体も同様に増加してしまっています。
正社員有効求人倍率を見ると、2009年の0.26倍を底に、2011年0.41倍、2013年0.58倍と上昇しています。企業としては正社員採用を拡大していることが見てとれ、法律改正の効果が出ていると推測できます。
しかし、正社員実数自体は2008年以来、継続して減少しています。丁度、団塊世代の退職の時期と重なっており、その減少を中途採用及び新卒採用で充当できていない結果といえます。現時点でいえば、派遣社員やパート・アルバイトを正社員化して充当するということまでには至っていないといえます。
一般社団法人 日本人材派遣協会の2013年度の「派遣社員WEBアンケート調査」によりますと、派遣社員のうち、正社員になりたいと考えている人は約46%います。約半数の派遣社員が正社員を希望してことからも、過去の改正は派遣社員の雇用安定化の実現(政府が考える目論見としては正社員化)は道半ばということです。
上述のとおり、派遣社員やパート・アルバイト、契約を含めた非正規社員は、依然増加傾向です。
「派遣は不安定」というイメージが世間一般にあり、政府も世論に動かされるかたちで、派遣に関わる法律を優先的に整備していますが、数字上、派遣社員実数は労働者全体における2%しかいません。2%の雇用改善を優先的に進めるだけではなく、30%を占めるパート・アルバイトの雇用条件や働きやすさを改善することも同様に進める必要があります。そのため、労働契約法も、より実態に合った内容に整備をしていくことが重要です。
しかし、法律の整備だけが進んでも、実際は企業側も変われないと雇用安定という解決はありません。
Oは、企業が正社員化を進められない主な理由を挙げます。
「企業は、好景気傾向なのだから、積極的に正社員雇用をすればいい、と“正社員雇用しない企業=悪”のような世の中の声は、正社員化が進まない本来の原因を見逃してしまいます。過去15年のデフレや円高といった日本経済、そして世界経済の不況など、直近までの状況から将来的な不安や発生リスクを考えてしまうと、たとえアベノミクス効果があっても、企業の“雇用への意識”はすぐには変わることはありません。
大きな視点では、労働者人口の減少への対策と有能な人材確保という課題があり、小さな視点では、スタグフレーションの恐れや石油価格の予想以上の下落による世界不況の可能性がある中で、2015年は、ある意味、国や自治体、企業、雇用者それぞれが、これからに向けた“雇用の在り方”を考える過渡期ともいえます。」
【後追い記事】
2016年2月26日記事 「派遣法改正の影響予測は当たったのか?」を徹底検証
で本記事の後追いをしています。こちらも是非お読みください!
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