企業型DCも対応が必要!?―従業員が退職するときの手続き―(後編)

前回、従業員が退職するときの手続きについて、社会保険や税金に関する処理・企業型DCを導入している場合の留意点について解説しました。

後編にあたる今回は、60歳以上で退職した(定年を迎えた)方について、人事総務の担当者が留意しておく点について、解説していきます。
年金に関わる部分については、原則としてご自身で対応いただく部分ではありますが、長年勤務した方にはできるだけ丁寧に説明してあげたいのではないかと思いますので、ご確認いただければと思います。

 

60歳以上で定年退職する方の場合

老齢基礎年金については、昭和24年(女性は昭和29年)4月2日以降生まれの方は65歳以上の支給※となっていますが、老齢厚生年金については生年月日に応じて「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる場合があります。

ですが、退職後再就職を希望されてハローワークで求職する方については、特別支給の老齢厚生年金の支給が停止されますので、あわせて説明しておくとよいでしょう。

※老齢基礎年金と老齢厚生年金は、要件を満たせばいずれも「繰り上げ受給」「繰り下げ受給」を希望することができます。

◆特別支給の老齢厚生年金

特別支給の老齢厚生年金を受け取るためには、以下のすべての条件を満たしている必要があります。

なお、年金を受けられるようになってから5年を過ぎると、「5年を過ぎた分」については時効により受け取れなくなるため、忘れずに請求手続きをする必要があります。
(参考:年金の請求手続きのご案内(未請求者用)パンフレット

1.老齢基礎年金を受け取るために必要な資格期間を満たしていること
2.厚生年金保険の加入期間(共済組合加入分も含む)が1年以上あること
3.受給開始年齢に達していること
(昭和28年(女性は昭和33年)4月2日以降に生まれた方は、請求することで老齢厚生年金の繰り上げ受給ができます。)

<受給開始年齢>

 

◆失業給付と老齢厚生年金の関係

特別支給の老齢厚生年金と雇用保険の失業給付は、同時に受け取れません。

65歳になるまでの老齢厚生年金等は、ハローワークで求職の申込みを行ったときは、一定のあいだ特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止されます。

(求職の申し込みをした後、基本手当を受けていない月がある場合、その月分の年金は約3か月程度経ってから支給されます。)

<支給停止の基本的な仕組み>

(参考:日本年金機構「年金と雇用保険の失業給付との調整」)

 

60歳以上で退職して再雇用(継続雇用)する場合

定年の引上げではなく、継続雇用制度(定年後再雇用)を導入している場合、60歳以降も厚生年金保険に加入しながら働くことになります。

このような場合、「特別支給の老齢厚生年金」の受給対象の方は、「在職老齢年金制度」により年金額が支給停止となる場合があることに留意する必要があります。

また、雇用契約の変更に伴い賃金が大幅に低下する場合には、「高年齢雇用継続給付」が支給される場合があります。

◆在職老齢年金制度

厚生年金保険に加入している方の中で、賃金と年金の合計額が一定以上になる60歳以上の老齢厚生年金受給者を対象として、全部または一部の年金支給を停止する仕組みです

支給停止となる額の計算方法等については、「60歳以上65歳未満」と「65歳以上」でそれぞれ異なります。

<イメージ>

(参考:日本年金機構「在職中の年金(在職老齢年金制度)」)

◆高年齢雇用継続給付

原則、雇用保険の加入期間が5年以上ある60歳から65歳になるまでの加入者に対して、賃金額が60歳到達時の75%未満になった方を対象に、最高で賃金額の15%に当たる額※が支払われる仕組みです。

<イメージ>

※雇用保険法の改正により、2025(令和7)年4月からは給付率等が縮小される予定です。
(参考:日本年金機構「年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整」)

◆高年齢雇用継続給付と在職老齢年金(60歳以上65歳未満)

年金を受けながら厚生年金保険に加入している方が、高年齢雇用継続給付を受けるときは、在職による年金の支給停止だけでなくさらに年金の一部が支給停止されます。

支給停止される年金額は、最高で標準報酬月額の6%にあたる額です。
(参考:日本年金機構「失業給付・高年齢雇用継続給付を受けるとき」)

 

定年退職時の企業型DCの手続きについて

確定拠出年金の加入者資格喪失年齢は、DCの関係法令上定年と紐づいている必要はないので、「定年年齢=資格喪失年齢」ではない可能性もあります。

このため、まずは自社の企業型DC制度で「資格喪失年齢」が何歳と定められているかを確認しておきましょう。

◆資格喪失年齢と担当者が行う手続き

1.資格喪失年齢が60歳の場合
一般的には、システムで自動的に資格喪失が手続きされ、受給権を取得した方には記録関連運営管理機関(以下、「RK」)から老齢給付金の受給に関してのお知らせが送付されるようになっています。
このため、原則として担当者が行う手続きで必須のものはありませんが、「RKからの指示があれば資格喪失者の情報をデータ登録する」と覚えておきましょう。
(定年時にパンフレット等を配付する場合もあります。)

2.資格喪失年齢が61歳以上で、定年の時期と同じ(当該年齢に到達したとき)の場合
1の場合と同様です。

3.資格喪失年齢が61歳以上で、定年以外の理由(自己都合退職等)で退職した場合
60歳前の退職と同じように、毎月(定例)の事務〆切日までに「資格喪失」の手続きを行いましょう。

なお、就業規則で定められた定年の時期が「当該年齢に達した月の末日」等の場合もあるかと思いますが、この場合は資格喪失年齢とは異なる年齢で資格喪失する(2のケースとは異なる)ため、3のケースに当てはまるとお考えください。

◆60歳以降の資格喪失者が行う手続き

60歳以降に退職した場合、企業型DCのある企業への転職が決まっていたとしても、2021年時点では転職先の企業型DCには移換することができません。
そのため、以下いずれかのお立場によってご本人にお手続きいただくことになります。

1.資格喪失時点で受給権を取得していて企業型DCで「運用指図者」になっている
他の制度への資産移換は必要ありません。
70歳到達までの任意の時期に老齢給付金を請求することができます。

2.資格喪失時点で受給権を取得していない「移換待機者」
資格喪失後6か月以内に、iDeCoに「運用指図者」として資産を移換する必要があります。
iDeCoに資産を移換してから受給権を取得すれば、1と同様に老齢給付金を請求できます。

2のケースでは、例外的に資格喪失後6か月以内に受給権を取得する場合、企業型DCのまま老齢一時金を受給できることもあります。
ただし、「自動移換される前に老齢一時金を受給できる」場合のみとなりますので、対象はそれほど多くないかと思います。
該当される方(60歳直前で退職される方等)がいらっしゃる場合は、一度運営管理機関の担当者に確認してみると良いでしょう。

◆DC制度改正に伴う影響

1.受給開始時期の選択肢の拡大

2022年4月以降は、60歳(加入者資格喪失後)から75歳に達するまでの間で受給開始時期を選択することができるようになります。
このため、現在60歳を超えて運用指図者になっている方も、今後10年以上長期運用できる可能性を踏まえて、運用継続するか受け取るかを判断する必要があります。

なお、対象となるのは昭和27(1952)年4月1日以降に生まれた方です。
(昭和27(1952)年4月1日以前に生まれた方は、施行日(2022年4月1日)の前に受給開始の上限年齢に達しているため。)

 

2.加入可能年齢の拡大(企業型DC)

2022年5月からは厚生年金被保険者(70歳未満)であれば加入者とすることができるようになります。
ただし、規約の定めにより、企業によって加入できる年齢などが異なります。
担当者は、現在の資格喪失年齢を踏まえて加入を可能とする年齢について協議し、必要があれば規約を変更する必要があります。

 

3.加入可能年齢の拡大(iDeCo)

2022年5月以降は、国民年金の任意加入被保険者であれば、60歳以降もiDeCoに加入(掛金を拠出)できるようになります。
60歳以上の方は、国民年金の第2号被保険者又は国民年金の任意加入被保険者であればiDeCoに加入可能となります。

また、これまで海外居住者はiDeCoに加入できませんでしたが、国民年金に任意加入していればiDeCoに加入できるようになります。
(DC制度改正出典:厚生労働省ホームページ「2020年の制度改正」)

 

まとめ

今回は、退職時の手続きにスポットを当てて2回に分けてご説明してきましたが、いかがだったでしょうか?

公的年金については、あまり馴染みがない方も多いかと思いますが、公的年金が受給できるようになったときに、働いているのかそうでないかで手続きも変わってきますので、この機会に少し勉強してみるのも良いかもしれませんね。

確定拠出年金については、60歳以降も掛金の拠出が続けられたり、10年以上運用継続できたりと、更に長期的な運用ができるように変わっていきますので、変更される内容についても把握しておくと定年退職する方にしっかりお伝えできるかと思います。

ちなみに、年金については日本年金機構のホームページに各種パンフレットも充実していますので、ぜひご確認ください。
(参考:日本年金機構「年金の給付に関するもの」)

 

 

 

ライタープロフィール

湯瀬 良子

湯瀬 良子

DC運用・ブログ担当

金融機関での経験を活かし、2018年にNOCのDC部門に立上げメンバーとして入社。現在は、DCの制度設計・保全運用・投資教育までの一連の流れを担当するとともに、ブログ記事の執筆にも取り組む。「NOCでは少し異色なサービスですが、DC制度についてわかりやすくお伝えします!」