
IoTによるデータトランザクションテクノロジーがビジネスモデルを変える
前のコラム「IoTとインダストリー4.0は生活と産業を変える。大事なことはIoTで取得するデータを見極めること」でもIoTに触れましたが、今回はより実際のリアル・ビジネスへのインパクトに関して触れてみたいと思います。
IoTが単なるバズワードで終わらないのは、ビジネスモデルを変える可能性を秘めているからです。
かつて、インターネットによるウェブサイト取引を通じて、デル(DELL)はパソコンやサーバーの業界にダイレクトモデルというビジネスモデルをもたらして、一躍トップメーカーに躍り出ました。
今はアマゾンがウェブサイト取引小売りのトップセラーに上り詰めています。
IoTは、こうしたウェブサイト取引をもっと進めてしまい、よりデータドリブンの取引を可能にしていきます。IoTによるデータトランザクションのテクノロジーがビジネスモデルを変える基盤を提供するのです。
今後IoTにより、ビジネスモデルやビジネスプロセスを変革した企業が、市場を大きく握っていく可能性を持っています。
IoTを、単なるセンサーやアプリケーションといった個別要素技術の話に矮小化せず、ビジネスモデルやビジネスプロセスの変革基盤として語るべきなのです。
IoTの定義とSCMの定義、IoTとSCMは今後融合する
IoTは、モノのインターネット化といわれます。なんともすわりの悪い言葉です。私は、このように定義します。
IoT:Internet of Things=あらゆるものがインターネットにつながり、データ化されてコミュニケーションされる
では、SCMも定義してみましょう。
SCM : Supply Chain Management=「必要なモノを、必要な時に、必要な場所に、必要な量だけ」届けるための構想・デザイン、計画、統制、実行の仕組み
IoTとSCMは融合します。今後、あらゆるものがインターネットにつながり、その情報を活用することで、「必要なモノを、必要な時に、必要な場所に、必要な量だけ」届けるためのビジネスモデルを設計したり、その情報を活用して計画したり、実行したりすることが可能になるのです。
IoTで売り方が変わることでSCMがより競争力になっていく
具体的に考えてみましょう。
IoTによって収集された実売情報に基づいて、セールス推奨ができるようになります。実際にアマゾンでは行われていますが、ある品目を買った顧客が、別な品目を買ったデータが蓄積されれば、同じような傾向の顧客に対し、購入を促す販促を行うことができます。また、自販機やPOSからの実売情報で、同じようにセールス推奨が可能になります。
ひょっとするとカーナビやスマトフォンで来店誘導が可能になったり、近くを走る車に臨時クーポンを配ったりできるかもしれません。来店誘導やクーポンを配っても店に商品がないと大事ですから、こうしたキャンペーンを打った際の過去販売実績からどれほどの商品を準備しておけば良いか、どの商品を用意すべきか予測し、事前に準備しておくこともしなければならなくなるかもしれません。
また、品薄になったら即補充指示が飛ぶような仕組みもあわせて作れる必要もあるでしょう。
このように、IoTの情報によって、セールスの仕方が変わり、売り逃しなく確実に売り上げるための需要予測をしたり、生産計画指示や補充指示ができるようになったりしていくでしょう。
もちろん、生産や補充には制約があるので、こんなに簡単にはいきません。しかし、仕組みと業務は作ればいいのです。明らかなことは、IoTが売り方からSCMにおける生産・供給の方法を変えていく可能性を秘めているのです。
IoTプロセスは分析型とクイックレスポンス型になる
IoTにおけるプロセスは、よく以下のように定義されます。
- ①データの収集(センサー、他)
- ②データの蓄積
- ③分析(ビッグデータ解析、AIの活用、他)
- ④(現実への)フィードバック
このプロセスは比較的長めのPDCAサイクルにあたります。それなりのデータ蓄積と分析が入っているからです。
しかし、IoTにはもっとクイックなプロセスも考えられます。分析などせずに、いきなりアクションを起動させるプロセスです。
以下のようなシンプルで短サイクル、高速のアクション・フィードバックが行えます。
現実へのフィードバックに関して、既にロジック化されたクイックレスポンスで即時対応を起動するのです。
どちらのプロセスもIoTが可能にしますが、より顧客囲い込み型に行けるのはIoT起動クイックレスポンスです。
ビッグデータよりも大規模ビジネスを囲い込むIoT起動クイックレスポンス
IoT起動のクイックレスポンスとは、IoTセンサーや機器が供給指示を出すことです。すでにそうした機器はできています。
例えば、コピー機。
トナーの残りが少なくなった時に出るメーカーサービス部門へのトナー補充指示や不具合時の診断・修理指示などです。あるいは、アマゾンと複合機メーカーや洗濯機メーカーが行っている機器の補充ボタンを押すと補充指示がアマゾンに飛び、配送が行われるという仕組みです。これは、アマゾンが推進していて、DRS(Dash Replenishment Service)と呼ばれるものです。
こうした仕組みはIoT化された機器から指示が飛び、即供給される、SCM上のクイックレスポンスを実現する仕組みです。しかし、この仕組みは単なる補充・供給の仕組みに留まっていません。
この仕組みは、よく考えると消耗品や補修部品の購入を一か所に制限しているのです。メンテナンスサービスの発注も一か所に制限しています。つまり、IoTの仕組みで、顧客を囲い込んでいるのです。
顧客にとっては、勝手に補充指示を出してくれたり、ボタン一つで購入できたりと利便性、サービスレベルが上がるのです。IoTが高いサービスを提供し、満足度を上げ、併せて顧客を囲い込むという恐るべき道具になっていくのです。
IoTがアフターサービスを収益源に変える
IoTは、売って終わりの「売り切り商売」をしている企業を苦境に陥れていくかもしれません。
逆に、「うち『売り切り商売』ではない」と規定し、製品を売った後も顧客を囲い込む仕組みを作った企業があれば、顧客は「売り切り商売」の企業からものを買わなくなるかもしれません。
それだけでなく、IoTでつながった機器の稼働状況の監視やリモートメンテナンスまで可能になれば、保守契約も囲い込まれます、顧客としては、稼働が維持されることで収益にも好影響が出るでしょうし、予防保全で保守費用も下がるでしょう。故障で動かないといったマイナスの事態が回避できます。
アフターサービスというと、今までは不具合後処理部門のように扱われ、問題処理部門のように考えられることもありましたが、これからは、アフターサービス部門こそ、IoTによって収益源になっていくことが可能になるのです。
そして、このアフターサービスがきちんとしている企業から、製品をリピート購入し続ける事態になるでしょう。顧客の、買う、使う、買い替えるというライフサイクルすべてが囲い込まれる可能性があるのです。
Product as a Serviceの世界の到来とシェアリングエコノミー
このように機器がIoTに繋がり、顧客が購入した製品を使い続けることが価値になり収益になる世界が展開されると、製品を買うよりも、シェアした方が合理的な世界になっていきます。
わざわざ買わずとも、稼働が空いている機器や設備をシェアすることが可能になるからです。アイドル時間の売買、空いている時間の可視化(アベイラビリティの可視化)がビジネスを生んでいくことでしょう。製品販売ではなく、製品をサービスとして提供する世界の到来です。
IoTはSCM上のモノの供給を変えるだけでなく、その製品を使うことでビジネスを成り立たせるサービスビジネス化へのドライバーになりかねないのです。IoTは、まさにシェアリングエコノミーを促進するビジネスモデルインフラになり、恐るべきインパクトを世界にもたらすことでしょう。