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2016.06.07 掲載 2023.08.18 更新

ことなかれ主義の組織が責任と権限を集中させて仕事を前に進めるには | 日本の生産性はなぜ低いのか3

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責任と権限
 

■責任範囲が不明確で責任をあいまいにする日本の企業組織

日本には「責任をあいまいにする文化」があるといわれます。たとえば複数の意味で取れる政治的な表現、遠回しな言い方、議論を避けたい気持ちなどがあげられるでしょう。
ここで私の経験を紹介しましょう。ある企業の全社IT導入プロジェクトに招聘されたときのことです。行って驚いたのが、このプロジェクトにはリーダーが4人いることです。それぞれ営業部、生産部、経理部、IT部出身で部門を代表していました。
全社IT導入を目指したため、各部門の代表者が集まって合議制でプロジェクトを進めようとしていました。しかし結果は惨憺たるもの。各人が部門利益を優先し、一向に協力しません。揉めごとが起きると、「それはあっちが解決すべきことだから」となって、状況が改善しませんでした。
揉めるたびに部下たちは部門リーダーの指示を受け、部門を守るまたは他責を証明しようとする文書作りや作業ばかりで、何も生み出しません。まして、企業の利益に貢献するはずなどありませんでした。
さて、このプロジェクトは一体何を目指していたのでしょう。前回のコラムで書いたように、日本の組織は成果の定義があいまいです。ご多分に漏れず、このプロジェクトの成果の定義もあいまいでした。
一応の目的は「古くなった基幹システムの刷新」です。しかし、このような成果設定では、具体性に欠けています。何を目指して入れ替えるのかが定義されないので、入れ替えの目的がわかりません。組織利害が対立した場合、誰が調整し、最終的に意思決定するのかも決まっていないので、4部門は対立したままです。
結局協調は生まれず、しかもだれも責任を取らないままプロジェクトはとん挫しました。これでは、失敗から学ぶことすらできません。みなさんも、このような場面を見たことがあるのでないでしょうか。
 

■リーダーを1人にしぼり、権限と責任を持つ体制にする

上記の例では、解決策は単純です。リーダーを1人に絞り、プロジェクトを遂行する権限と責任を集中するのです。実際、上記プロジェクトは後にリーダーを1人にし、権限と責任を持たせることでうまくいきました。
権限とは、きちんとものごとを決める「決定権」です。
周りが何を言おうが最後は「俺が決める」という強権と、ダメなら「俺をクビにしてくれ」という覚悟でプロジェクトを推進したのです。これでうまくいき、無駄もなくなりました。
つまり、責任を明確化してその責任者に権限を与えたのです。本来責任と権限はセットで、はっきりと1人のリーダーに与えるべきなのです。日本企業はこれがなかなかできません。
 

■責任とは成果達成が確実な方法の「説明」と成果を「達成」すること

とはいえ、日本語では「責任」という言葉さえあいまいです。責任は辞任や首になれば果たしたかのような誤解がありますが、そうではありません。
ここで責任とは何かを定義しましょう。責任とは、成果を達成する確実な方法の「構築と説明」、そして実際に成果を「(問題が起きれば解決したうえで)達成」することです。
「説明」は英語でAccountability:アカウンタビリティ(説明責任)、「達成」はResponsibility:レスポンシビリティ(達成責任)です。
「説明責任」は成果達成の筋道がきちんとしているかを論理的に構築し、説明する責任です。すなわち、「本当に達成できるのか?」と聞かれたときに、きちんと筋道立てて成果達成までの手順を説明することです。リーダーにはこの説明責任が求められます。
「達成責任」はまさに成果達成するまで努力し、必ず達成することです。こうした説明責任と達成責任を満たすからこそ、予算上・人事上、また意思決定上の「権限」が持たされるのです。
「説明責任」と「達成責任」をセットにしたうえで権限を持たせることが組織設計上でも、プロジェクト上でも必要です。こうした一種の割り切りができない限り、日本の組織はいつまでたっても組織利害の対立で疲弊し、生産性の低さが放置されるのです。
 

■悪者捜し・責任逃れが「仕事」を「お役所化」してしまう

もう一つの問題は、「責任を持つ人」が定義されておらず、問題が起きると「悪者捜し」に陥ることです。「誰がやった」、「誰が決めた」、などはそもそも組織内で指示命令系統と報告系統が不明確だから起こるのです。だから、問題が起きるまで組織で問題状況が共有されないのです。
本来指示系統の確立やプロジェクト管理などは上司の責任です。しかし上司がその責任を果たさないためまともな仕事はできず、失敗すれば責められるため責任逃れをはじめます。その結果成果を追わず、そこそこの仕事をし、問題を起こさないようにするのです。部下は指示待ちになり、生産性は一気に落ちていきます。
一方、経営者を筆頭にマネジメント層は、現場が失敗しても自らが責任を取らないようにするために、「仕組みづくり」に逃げます。ある意味仕組み化は正しいのですが、その目的が仕事の標準化、効率化、品質向上を含んだリスクチェックではなく、単なるリスク回避と責任回避になることが多いです。
たとえば、私の知る多くのIT企業では、提案や見積もりをする際に、多くの時間をかけてリスクチェックを行います。課長、部長、本部長の順でチェックを行い、見積もりを作成します。
しかし、何重にチェックしてもほとんどのプロジェクトで問題が起こり、失敗してしまいます。なぜか。それは、現場を知らない「役人気質の社員」がチェックしているからです。顧客のことも、現場の仕事の進め方も、新しい技術のこともよくわからない人たちがチェックしてうまくいくはずないのです。
 

■権限と責任を任せられるエキスパートを育てる

本記事で指摘した日本企業の問題点をまとめると以下です。
・責任が定義されていない
・責任者があいまい
・現場を知らない人たちが意思決定している
これらの結果、日本企業は無責任な体制を生産し、形式だけお役所的にチェックして、「形式にしたがったので問題はありません=誰にも責任はありません」というビジネス上無意味な仕組みを作ってしまいました。この再建には長くかかります。
問題を解決する魔法の杖はありません。もう一度、仕事がきちんとわかるエキスパートを育てるしかないのです。そして、そのエキスパートに権限と責任を与え、プロジェクトを推進する必要があります。
現場のエキスパートは、管理職たちと比較すると年齢が若いことが一般的です。その若い人材に責任と権限を与える度量と勇気が組織文化としてあるか、これが生産性に大きくかかわってくるのです。

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ライタープロフィール

石川 和幸

経営コンサルタント
早稲田大学政治経済学部政治学科卒、筑波大学大学院経営学修士。能率協会コンサルティング、アンダーセン・コンサルティング(現、アクセンチュア)、日本総合研究所などを経て、サステナビリティ・コンサルティングを設立。専門は、ビジネスモデル構想、SCM構築・導入、ERP構築・導入、アウトソーシング導入、管理指標導入、プロジェクトマネジメントなど。 著書に『図解 SCMのすべてがわかる本』『図解 生産管理のすべてがわかる本』『在庫マネジメントの基本』(以上、日本実業出版社)、『思考のボトルネックを解除しよう!』、『見える化仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『なぜ日本の製造業はもうからないのか』(東洋経済新報社)、『図解 よくわかるこれからのSCM』(同文舘出版)、『アウトソーシングの正しい導入マニュアル』『図解 工場のしくみが面白いほどわかる本』(中経出版)など多数。

石川 和幸

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