
■マネジメント層の思い付きや単なる疑問に振り回される現場
前回の「責任と権限の付与があいまいな組織は仕事を前に進められない」では責任と権限が不明確で、形式主義に陥ってしまう危機状況と、対策として現場のエキスパートを育て、責任と権限を集中しなければならないと論じました。
これはかなりハードルが高い要求です。組織運営に関わる問題で、実行に移せるのはマネジメント層しかありません。
今回説明することも、マネジメント層の課題です。日本の会議では「あれはどうなっている」と質問を始めて、「データをもってこい」という人が多いと感じます。
そのたびに資料作成に時間がとられます。しかも、上司ごとに見たいデータが変わるので、微妙にフォーマットが違うけれども似たデータシートがつくられるのです。
ここで1つ、機械の部品を作っているメーカーS社の例を見てみましょう。このプロジェクトでは、基幹システムを入れ替える際に数千以上の周辺帳票を整理することになりました。
この会社の社員が4000人であるのに、帳票が数千。つまり過去から累積した微妙に違う帳票があり、誰も改廃できなくなっていたのです。
担当者や上司が変われば、フォーマットや並び方、項目の変更によって新しい帳票が作成され、増えていきます。これでは、現場は本来の業務に集中できません。
■属人的な業務をなくし、業務・資料・フローの標準化を進める
一般的に受注・出荷や購買発注といった繰り返し性の高い業務は標準化され、システム化されています。一方で資料やレポートのテンプレート、データ転記のプロセスといった業務は標準化されず、それぞれの人に任せられているのが現状です。
変化の速い時代に大事なことは、“すべての結果が出る前の状況”に施策の当たりをつけてアクションをして改善を繰り返すことです。そのために必要なことは、マネジメント層が計画を立て実行し結果を測定して改善するプロセス(いわゆるPDCAサイクル)を標準化することです。
ある計画に対して、その見込みがどうなるのか、見込みに対して結果がどうだったのかをトラッキングします。見込みの達成度合いはどうか、対策は何を行うべきかなども管理し、意思決定すべきです。すなわち、計画見込みの管理を標準化しなければなりません。
では、どうすればいいのでしょうか。まず一歩目は、個別組織または個人でやっていた業務を標準化し、どの部署に行っても、どの拠点に行っても同じフォーマット、同じ分析ができて、意思決定に役立つようにします。もちろん、これには大きな労力がともないます。
私が外資系のコンサルティング会社にいたときは、フォーマットは世界共通でした。管理プロセスは統一されていて、世界中どの拠点に行っても、即日同じ視点で分析できる体制だったのです。日本企業によくある、引継ぎに何か月もかかる、前任者のやり方を変えるといった属人的なプロセスにはなっていませんでした。
■ビジネスをよく知るマネジメント層の参画が必要
書類作成のフォーマット決めといったマネジメント層が関わる業務の標準化は難題です。自社のビジネス環境、顧客との関係、売上を達成し、拡大して利益を出し続けるためにどこを管理ポイントにすべきか、といったことを熟知していないとできません。
そのために必須なのが、前回もご説明した自社ビジネスを熟知したマネジメント人材の育成です。長い時間がかかりますが、そうしないと改善しないでしょう。
私は、自社ビジネスとマネジメント業務の専門家の育成が結局は必要であると思っています。時間がかかっても育てるしかないのです。あるいは、内部から育つしかないのです。
今、どれほどの日本企業がマネジメント層を育てようとしているでしょうか。時間がかかっても、世界に冠たるグローバル企業を引っ張るマネジメントを育て、業務を標準化し、世代が変わっても次々と企業マネジメントを引き継いで行ける体制を築くことが望まれます。
このためにはあたりまえですが時間がかかります。しかしそこで短期の視点に陥らず、永続性のある組織運営を実現するために長期的な視野を養う必要があるでしょう。