改善と生産革新の行き詰まり、狭い視野の“ものづくり”だけでは衰退する

製造工場で働く人

 

■日本の製造業の競争力はまだあるとはいえ、マネジメントが心配

前回の「IoTで起動するSCM(サプライチェーンマネジメント)による顧客囲い込みの衝撃」というコラムでは、IoTによって企業のビジネスモデルが大きく変わり、顧客の囲い込みを行いつつ大発展していく可能性に触れました。

IoTのおかげで、製品販売だけでなく、製品購入後の“サービスビジネス”が製造業の永続性を高めるビジネスに変貌を遂げるのです。売り切り商売ではなく、製品使用を継続するためビジネスが、利益の源泉になっていくことでしょう。

IoTという新しいコンセプトとプラットフォームの登場は、製造業にとって新たな福音です。IoTという仕組みを生かすには、ビジネスモデルを変えるという視点や、個別組織に閉じこもらずに組織間、企業間をつなぐ視点が必要なのです。

しかし、このコラムで書き続けてきたように、製造業を含む日本企業のマネジメントや社員は、個別組織に閉じこもり、目の前の作業しかしていないというのが実態です。改善、改善と言いながら、個別組織の部門改善しか視野に入れず、全体にとっては無意味、または害となる改善をして、成果を上げたと勘違いしているというのは言い過ぎでしょうか。

改革と言いながら改善レベルの話がほとんどです。改革などされたためしはありません。BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)と言いながら、本当に仕事のやりかたが変わった企業は稀なのです。なぜなら、仕事のやり方や制約条件のわかっていないマネジメントの指示では、現実的ではないので、仕事のやり方など変えられないのです。

日本の工場では、多品種大量生産がなくなり、多品種少量生産になりました。生産数によって工数が稼げないため、改善による工場の生産性向上余地は小さくなりました。こうした中で、昔ながらの改善活動や生産革新活動が繰り返されています。結果、工場のほとんどは、「改善疲れ」に陥っています。

掛け声ばかりで何も変わらない。大方の製造業の方々は、変えられない、変わらないことに閉塞感を感じているのではないでしょうか?

 

■大企業の人々から仕事に対する熱意を感じられなくなってしまった

私は、いろいろな企業に行っていますが、ここ数年、大企業の人々と会ってもしっくりこないことが多くなりました。話をしていても、仕事に熱意を持っているとは思えないのです。

「自分の会社を良くしたい」、「もっといい仕事がしたい」という言葉、今の仕事のやり方を変えて、もっと楽で、もっと付加価値が高い仕事がしたいという高い志の発露を聞いたのも遠い昔になりました。
ここ数年、仕事を自己実現の場所と考えて、明日は今日よりも良い仕事をしようという熱意を感じることが少なくなってきているのです。

 

■マネジメントのやる気の喪失とステレオタイプな反応も心配

マネジメント層に会うことも多くなりましたが、大企業のマネジメント層は下から上がってきたプロパー、親会社からの天下り、銀行からの天下りといった人たちが大勢です。

改革意識が強いのはプロパーの方々です。しかし、プロパーの方々も最近はやる気を失いつつあるように見えます。仮に課題を感じていても、プロパーの役員の方々は自分が育った所属組織の利害代表になってしまい、全社的な視野がなかったり、顧客の視点がなかったりしています。

これは大きな弊害です。その上、組織内で勝ち残ることが主眼になり過ぎて、社内政治で生き残った人が上に立つと、組織は悲惨です。顧客そっちのけですから、会社は衰退します。

製造業でいえば、“ものづくり”ばかり強調するのもこの類例です。顧客への提供価値をトップに置かず、モノを作ることに重きを置くというのは、まさに内向きの議論です。狭い視野で“ものづくり”に閉じこもり、自己満足な活動をしているのは楽ですが、それでは生き残れません。顧客視点を持って、組織横断、企業横断で価値提供を考えないと、厳しい評価をされてしまいます。

親会社からの天下りの役員も残念な意思決定をします。最初から地位が高いため、謙虚にあたらしい会社のビジネスが眺められないからかもしれません。

本来は、違う会社からの違う視点があるのですから、うまくすれば改革の主導ができるかもしれないのです。自身が持つ新鮮な視点と、既存ビジネスの要諦をミックスすれば、素晴らしい発想が生まれてくるのです。

しかし、結局、自分の体験による視点でしかモノが眺められず、今いる企業の守るべきことと変えるべきことを見誤り、間違った改革や管理を蔓延させてしまうのです。

銀行からの天下り、出向の方は、改革を主導するのは難しいでしょう。外様の地位のせいか、いかんせん受け身になり、判断ができず、他の社員の改革推進の邪魔になったりします。あるいは、助けが欲しい時に、助け舟が出せず、改革を自滅させてしまう恐れがあります。

 

■閉塞する企業を救うには、社員に広い経験と視野を持たせ、見返りを与える

プロパーでマネジメントになった社員のタコツボ化は、土台から直すしかありません。時間がかかりますが、組織横断で人を育てていくしかありません。結局、長くかかりますがこれが王道です。

そして、頑張ったら、きちんと成果がある企業にしなければなりません。社員が頑張れば役員になれるということ、改革をすれば見返りがあるということは、社員にとってインセンティブになります。

改革して良くなれば、会社が良くなり、みんなの給料が増え、頑張った人が昇進できる人事制度が必要です。今は、懲罰的な評価、減算評価、マイナス評価ばかりです。これでは、チャレンジして失敗するよりも、なにもしない方を選択してしまいます。加点方式に切り替えて、頑張って結果を出した人を昇進させる組織にしなければなりません。

親会社からの天下りはどうしようもないかもしれません。しかし、親会社の政治に負けた結果、ポジションとして負け組を天下りさせているような企業に未来はありません。寝ていても儲かったような高度経済成長ではないのですから、これからは、どんな大企業でも厳しい選別にあいます。いつまでも大企業で大船に乗ったつもりで政治による人事を行っていては、その船は沈没していくでしょう。

銀行の天下りは仕方ないかもしれません。その会社は既に資金繰りで銀行の世話になっているのでしょう。しかし、銀行出身の天下りがすべて悪いわけではありません。上手に連携して、改革が進むように組織化することで、銀行出身者の方でもある一定役割を演じることができるはずです。

要は、十年一日のような仕事に安住せず、広い視野で、顧客の視点も持って、組織横断でビジネスそのものを改革し、運営していくという企業家としての視点を皆もって、仕事を良くすれば、自分も良くなるという意気込みで仕事ができるようにするのです

生産性向上も重要ですが、世はビジネスモデル改革の時代に入っています。IoTはそのプラットフォームになります。
過去何度も繰り返してきた、既視感のあるような改善と生産革新は行き詰まりつつあります。狭い視野の“ものづくり”だけでは衰退します。広い視野で、企業を変えていかなければならないのです。

ライタープロフィール

石川 和幸

石川 和幸

経営コンサルタント

早稲田大学政治経済学部政治学科卒、筑波大学大学院経営学修士。能率協会コンサルティング、アンダーセン・コンサルティング(現、アクセンチュア)、日本総合研究所などを経て、サステナビリティ・コンサルティングを設立。専門は、ビジネスモデル構想、SCM構築・導入、ERP構築・導入、アウトソーシング導入、管理指標導入、プロジェクトマネジメントなど。 著書に『図解 SCMのすべてがわかる本』『図解 生産管理のすべてがわかる本』『在庫マネジメントの基本』(以上、日本実業出版社)、『思考のボトルネックを解除しよう!』、『見える化仕事術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『なぜ日本の製造業はもうからないのか』(東洋経済新報社)、『図解 よくわかるこれからのSCM』(同文舘出版)、『アウトソーシングの正しい導入マニュアル』『図解 工場のしくみが面白いほどわかる本』(中経出版)など多数。