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2017.05.18 掲載 2023.11.02 更新

民法(債権関係)改正の実務への影響vol.2「経営者・営業のための債権法改正の重要ポイント」

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■21世紀における企業の契約観と債権法改正

債権法(債権関係の民法)の改正では、パブリックコメントが2回行われるなど、幅広い議論がなされました。特に、民事法の研究者(大学教授)と経済界の対話がなされ、多様な業界から意見が出ました。そのなかで、「企業の契約観」も明らかとなってきました。
大手商社の法務部で、債権法に関する著作もある方は、企業の契約観を次のように抽出しました(※1)。
1. 当事者間の中心的な合意内容は、個別に柔軟に認定すべき。
2. 契約内容の全体については、表示主義的である。営業担当者と相手方の共通理解の範囲や、個別の担当者に特有な運用よりも、契約書に表示されている内容で拘束力が生じている。
3. 契約ごとの個別の特約が多く、柔軟に認定される合意内容に従った判断が優先するから、民法の任意規定の役割は大きくない。
4. 情報格差を考慮した新しい義務などは、局所的・例外的であり、民法に明文化すると悪用(濫用)されかねない。
企業法務としては、問題が生じた際に、取引の相手方に対して「話が違う」ことを追求することが重要であり、民法の典型的な規範の遵守を求めるのではない、という理解があるようです(上記3より)。
 

■商品・サービスの品質に関するルール

1の「当事者間の中心的な合意内容は、個別に柔軟に認定すべき」、という企業の契約観は、今回の債権法改正で実現したといえます。これは、近時の民法学の通説(契約責任説)でもあったのです。
マーケティングが発達した現在、経営者・営業担当は、顧客満足を求めて、「買主の利用目的」に応じた商品・サービスを提供しています。
そして、ビジネスに関する契約では、代金との関係で、商品・サービスの品質(水準)を特定します。その料金で守るべき最低品質と、可能なアフターフォローの範囲はここまでというものです。
このとき、“個別の顧客満足”と“個別の買主の利用目的”が重要となります。一律の商品を大量生産するという高度成長期のビジネスは、はるかな過去となっています。今回の債権法改正は、一律の品質から、個別の契約による品質に転換している部分があるのです。
ところで、アメリカ統一商法典(UCC)2-315条は、売主が買主に商品を販売する局面で、買主にとっての商品の利用目的を、「売主が知っていた場合には、売主は、商品が買主の利用目的に適合することを黙示的に保証しなければならない」と定めています。
クリスマスプレゼントなのか、自分で使うものなのかなど、買主の利用目的に応じて、売主が保証すべき範囲が異なってくる、というルールです。諸外国の取引に関するルールでは、このような商品の品質に関する規定があります。
企業実務家は、今回の日本の債権法改正では、諸外国にあるような商品の品質に関するルールについて、具体的な提案がなかった、と指摘しています(※2)。
たしかに商品の品質保証に関する具体的なルールはありませんが、今回の債権法改正で、売主には、「物の種類・品質・数量に関して契約の内容に適合した物を引き渡すべき義務」または「契約の内容に適合した権利を供与すべき義務」があることとなりました(改正後の民法562条、564条、565条の前提)。「契約適合性」という観点による共通ルールの採用です(※3)。
一般的・客観的に商品・サービスに瑕疵(問題点)があるかどうかではなく、個別の契約の内容を基準として、個別に、商品・サービスの品質が満たされているか否かが判断されます。
つまり、民法が直接的に想定する瑕疵担保責任という一律の規範ではなく、当事者間の合意内容を基準とするのです。しかしこの当事者間の合意の重視も、契約自由の原則という民法の大原則に従った、極めて民法典らしさの強い方針となっています。
さらに、改正後の日本の債権法では、一部ではありますが、「契約をした目的」がより重要な判断要素となりました。
 

■契約の目的を明記することで、納品されるべき商品・サービスの品質の範囲を論理的に位置づける

「契約をした目的」が、改正後の民法上、どのような役割を果たすかは、特に、経営者や、営業担当者に知っておいてもらいたいポイントです。
当初の指示からの変更や、納品後のアフターフォローをどこまでお願いできるか、または、品質保証を受け入れなければならないかは、見積をする際の前提となり、ビジネス上極めて重要です。
改正後の民法では、商品・サービスの納品物が、品質を満たしているか否か問題になる際に、「契約をした目的」が検討されました。したがって、契約を締結するときに、納品物の品質自体を明記するとともに、その納品物をどう利用するかなど、契約の目的を記載しておくことで紛争を予防できます。
契約の目的は、例えば、納品物の利用方法、使う日時、使う人、他の物との組み合わせなどです。自社のビジネスは、その納品物を、どう使って、売上や顧客満足につなげるのか、という点です。納品をする側であれば、お客さまにその納品物をどう使ってもらい、お客さまの「顧客満足」に結びつけるかです。
例えば、クリスマスプレゼントにするという目的での購入であれば、その納品が12/26になってしまっては無意味です。民法のデフォルトルールでは、プレゼント品として内容面で瑕疵(キズや不適合)がなくても、12/26の納品は、「契約をした目的」に合致しないと解釈し、買主にいくつかの手段を与えます。
それは、契約の解除(改正後の民法542条1項3号から5号)、代金減額請求(改正後の民法563条2項3号)などです(※4)。
解除になると、売主側は仕事をしたのに代金を請求できず、また、裁判となった場合は裁判官の判断(判決)によって代金の減額がなされます。
また、クリスマス用のラッピングがされていない場合、納品物として完璧な品質であっても、契約への経緯や内容によっては、軽微な問題ではなく、「契約をした目的」に合致しないと判断される可能性もあります。あくまで、個別の契約内容に基づいた吟味がなされます。
このように、高品質で問題のない(瑕疵のない)ものを納品していれば良いのではなく、お客さまの契約の目的に合致し、契約に適合する取引を提供していく必要が高まりました。逆に、当社の商品・サービスではご満足いただけない目的を持っている買主には、契約合意段階で、その利用目的には不適であることを、納得しておいてもらう必要があります。
売主が、安価に商品・サービスを提供しようとする際には、品質保証できる範囲が限られるので、売主が商品の利用目的を明記し、買主の個別の利用目的は保証しない旨の合意を得ることも考えられます。
売主が商品・サービスの品質に関するリスクを負いきれない場合、代金に応じて、商品・サービスの品質を保証する契約である請負的契約から、一定の作業を提供する契約である委任的契約にシフトしていくことも考えられます。
この場合、買い手としては、最低限の品質については請負的に、付随的な品質については委任的になるよう、交渉すべきでしょう。
契約目的を話し合い、文章にしておくことで、納品の前後となって「話が違う」となるような法的リスクを、避けていきたいものです。
vol.3では、定型約款の概要をご紹介します。そして、企業の契約観の「2.契約内容の全体」については、表示主義的である、という点に関する注意点を整理します。
 


 
※1 下記参考文献(8)小林pp.26-29 契約観に関する本稿での表記は、小林先生の表記通りではない。
※2 下記参考文献(8)小林p.29
※3 下記参考文献(5)潮見pp.231-232、下記参考文献(6)契約編pp.64-
※4 なお、改正後の民法第542条1項3号は、改正前の民法第542条です。解除は542条1項5号に受け皿規定型の一般条項があり、日本民法における「重大な契約違反」の一類型とも考えられます。
逆に、代金減額請求の一般条項(563条2項4号)は慎重で、契約内容(種類・品質・数量)での判断基準となっており、追完によって「契約をした目的」が充足することとなるかどうかといった規定はありません。しかし、代金減額請求の対象を拡げた立法趣旨は、契約不適合の際の買主の救済手段とされておりますので、契約内容の品質の内容を把握するために、契約をした目的を参酌するのは、十分に合理的と思われます。
参考文献
民法と、改正に至る方針・試案や法案との関係がわかる書籍を紹介します。
(1)債権法改正の基本方針 内田貴『債権法の新時代』(2009.9,商事法務)
基本方針の概要、諸外国の民法改正の動向に対する危機感などがわかりやすく説明されています。
(2)債権法改正の基本方針 潮見佳男『基本講義 債権各論〈1〉契約法・事務管理・不当利得』(2009.12,第2版,新世社)。
通説の代表的教科書で、本文中で適宜「債権法改正の基本方針」(民法(債権法)改正検討委員会の試案)の方向性について言及されています。
(3)中間試案 道垣内弘人『リーガルベイシス民法入門』(2014.1,初版,日本経済新聞社)
民法の入門書ですが、改正前民法の論点や通説を紹介したうえで、中間試案の方向性がコラム的に紹介されています。
(4)中間試案 中田裕康『債権総論』(2013.8,第3版,岩波書店)
債権総論の教科書で、中間試案の内容が紹介されています。
(5)民法(債権関係)改正法案 潮見佳男『民法(債権関係)改正法案の概要』
逐条的に改正法案の条文と解説が紹介されています。立法担当者よりも一段深い法解釈が示され、条文の書きぶりについて、立証責任との関係での意味なども紹介されています。
(6)民法(債権関係)改正法案 大村敦志『新基本民法 債権編・契約編』(2016.7,初版,有斐閣)
4債権編と、5契約編は別の書籍です。文献紹介も詳しい民法の入門書で、通説と論点が紹介されたあと、改正法案が紹介されています。改正法の条文番号は案○条なっています。
(7)改正法への批判 加藤雅信『民法(債権法)改正―民法典はどこにいくのか』(2011.5,日本評論社)
法学部教授で政府の審議会委員も歴任し、弁護士でもある加藤教授による批判書です。加藤教授は、衆議院法務委員会の参考人として招かれ、改正法の問題点を指摘しています。
(8)小林一郎「民法改正が映し出す企業の契約観」(特集 民法改正の評価・影響・対応),Business law journal 8(7) (通号 88) 2015-07 p.26-29

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ライタープロフィール

鈴木 健治

弁理士・経営コンサルタント
特許事務所ケイバリュエーション 所長 ・経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員、日本弁理士会中央知財研究所 知財信託部会の研究員などを歴任。 ・平成18年信託法改正時に法制審議会信託法部会を傍聴し、日本弁理士会での信託法改正に関するバックアップとなる委員会の委員長を務める。 ・著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。 ・お取引先の要望に応じて、市場調査、ブランディング、従業員意識調査の統計分析などのコンサルティング業務も手掛けている。中小企業診断士が主体の「知的資産経営(IAbM)経営研究会」会員。 公式サイト:http://kval.jp/

鈴木 健治

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