民法(債権関係)改正の実務への影響vol.7「業務委託をする発注企業のための「報酬」に関連する民法改正ポイント。」

■アウトソーシングなどの業務委託契約と民法改正について

民法の改正が、アウトソーシングなどの業務委託契約の実務にどのように影響を及ぼすのかは、発注する側の担当者には非常に気になるところかと思います。

この連載は、業務委託への民法改正の影響について紹介することを1つの目標として進めてきました。

そのため、第1回は民法改正の経緯、第2回では近年の企業実務家の契約観、第3回では定型約款という新制度、第4回では任意規定という仕組み、第5回では民法改正として実現しなかった隠れたルール、第6回では合意が重視されることについて説明してきました。

今回は、改正ポイントを見通す視点の1つとして、業務委託の「報酬」に着目します。

ビジネスで一番身近なテーマでもあり、値決めこそが経営判断ともいえます。何を考慮して値決めをすべきか、民法の任意規定にもヒントがあるのです。

とはいえ、納期に遅れたり、契約に適合しなかったり、契約をなかったことにしたり、取引の目的物や完成品が消滅したりと、起きて欲しくないようなことが現実には発生します。

このような例外的な局面で、民法はどのような結末を「合理的」としているのか、一緒に確認しましょう。

 

■業務委託と契約の拘束力

契約によって支払いをすることは、私的自治の原則に基づいており、京都大学の潮見教授は「近代民法のもとでは、個人は他者からの干渉を受けることなく、みずからの意思に基づき、みずからの生活関係を形成することができます。そして、国家はこれを尊重し、保護しなければなりません。(※1)」と述べています。

この私的自治の原則が、契約の局面で具体化されたものが、契約自由の原則です(改正後の民法521条)。

①契約するかどうか、②だれと契約するか、③どのような内容とするか、④どのような方式とするか、これらはすべて契約自由の原則により自由です。

この自由の限界は、公序良俗違反(民90条)など法律で定められており、当事者にとって想定外で不合理な理由で、契約の自由が奪われることはありません。

そして、人や企業が契約に拘束されるのは、契約自由の原則が保証されている状況のもとで、契約内容に合意をしたからです。自己決定による自己責任です(※2)。

この契約に拘束力があるのは、合意という自分自身の決定に基づきます。国家や相手方が持つ力によって拘束されるのではありません。

このため、自らをこの約束に拘束して良いと判断した場合のみ、契約を締結すべきです。逆に、契約したのであれば「自ら契約に拘束されることに同意した」と判断されるのです。

業務委託契約では、アウトソーサー(受託企業)が作業をする内容、委託企業からの指図、受託企業から委託企業への納品物、報告すべき項目、報告時期、作業や納品物の納期、様々なリスクの負担割合、そして報酬とその決済時期が重要な要素となります。

民法の規定は、契約後に不都合が発生した際の救済手段としてではなく、契約内容を自らの意思で判断するために、契約前にこそ知っておきたい内容なのです。

 

■アウトソースの委託企業の報酬支払い義務

業務委託契約の関連で、委託企業(請負等の注文者)の義務として民法に規定されているのは、受託企業への報酬の支払い義務です。

[1] 報酬の支払い時期
業務委託のうち、仕事を完成させて完成品を納品する合意については、請負の規定が対応します。請負で報酬支払い時期のデフォルトルールは、仕事の目的物の引渡しを要する場合には引き渡しと同時に、引き渡しを要しない場合には後払いです(民法633条[改正なし])。

一定の作業を提供する委任の場合も、後払いが原則です(民法648条2項[改正なし])。ただし、委任となる業務について、その事務を処理するのに費用(実費)を要するときには、受託企業は委託企業に対して、実費の前払いを請求することができます(民法649条[改正なし])。

委託企業はこれら民法のデフォルトルールを参考に、報酬の支払い時期について受託企業と交渉し、合意を目指すこととなります。例えば、建築工事の請負などでは、特約として、「前払い」「出来高払い」「完成引き渡し払い」など分割した支払いが行われています。業務委託は、継続的な取引であるため、月締めでの毎月払いなどとする特約が一般的です。

民法のデフォルトルールでは、業務委託のうち、民法の委任に対応するものは、委託企業から受託企業への実費の前払いを許容しています。しかし、受託企業としては、突然の現金請求に対応できない運用の場合、デフォルトルールとは異なる特約を目指すこととなります。具体的には、「月締めの請求に含める」とか、「先払いが必要な実費相当の見積を契約締結前に提出しておいてもらう」などです。個別に合意が成立すると、当事者は民法のデフォルトルールではなく、その合意内容に拘束されます。

 

[2] 割合的な報酬
受託企業の仕事に何か不都合があった場合、報酬全額ではなく、割合的な報酬に減額することで決着させる仕組みがあります。

請負について、民法634条柱書は、請負の仕事の完成が部分的に止まってしまう場合、報酬も部分的として、委託企業が受ける利益の割合に応じた支払い額となることを想定しています。

売買について、民法563条は「契約に適合しない部分の完成(履行の追完)を求めた後、追完されない場合に、不具合の程度に応じて代金の減額を請求することができる」と規定しています(請負契約にも準用されています)。

このように、契約時に合意する報酬額は、将来発生する不具合に応じて減額する可能性があります。

このため、業務委託契約に際しては、業務内容毎に数量の掛け算で報酬を表現しておけると、業務が始まってから個別に不具合が発生した場合の減額に関する判断を、素早くすることができます。

その一方で、業務委託をする内容の一体性が高く、仕事が分割される可能性を望まない場合、契約時にこれら民法563条や634条に対する特約をしておくことも考えられます。

この契約不適合の代金減額請求については、民法563条3項の規定により、その原因が委託企業による場合、受託者は代金減額請求を拒絶して、全額請求をすることができます。

委託企業に原因がある場合については、請負の民法634条でも、「民法536条2項の法意に照らして、請負人(受託企業)は、注文者(委託企業)に対して、報酬全額の請求をすることができます。」(※3)とされています。

具体例で考えてみましょう。経理業務のアウトソースで、委託企業から伝票類や領収証類が提供されないため、受託企業が経理業務を完成させられなかったとします。

この場合、委託企業から伝票類が提供されない、すなわち委託企業が原因で契約した業務を遂行できないことになります。つまり、受託企業は、業務が完了していなくても、報酬を全額請求することができます。

一方、受託企業側の原因(都合)によって、業務が完了しなかった場合、委託企業は報酬の全額をではなく、一部の支払いとすることができます。

より条文に近い文章表現では、次の図のようになります。

[3] 委託企業の都合による契約解除(任意解除)
業務委託の契約をした後、委託企業の都合で業務委託契約を任意に解除したい場合、理由を明示せず損害を賠償することで、契約を解除することができます(民法641条[改正なし])。民法は「損害が賠償されるのであれば、受託企業側に不利益はないはずである」と想定しています。

この賠償額は、業務委託がなされた際の報酬に止まらず、業務委託がなされた後に受託企業が得られたであろう利益を含む場合があります。つまり、契約した報酬の金額では足りない可能性があるのです。

委託企業には厳しいようですが、民法は合意による拘束を重視し、合意から離脱するには、相手が被るであろう損害(拡大損害)まで賠償することを、デフォルトルールとしています(※4)。

ただ、この点は特約による上書きがされやすい項目で、ホテルの宿泊費やパッケージツアーのキャンセル規定でよく目にするように、時期に応じた段階的な取り決めをしておくことも考えられます。業務委託の場合には、委託による業務の開始後は、受託企業側は設備・人員を揃えているため、解除による損失が大きくなる傾向が想定されます。

請負ではなく、作業の提供が仕事の完成となる委任の場合、判例は「解除が不利益な時期であったことから生じる損害に限定される」としています(※5)。

委託企業が委任をした契約を一方的に解除する場合、「受託者が得るはずだった報酬は含まれない」という最高裁判例があります。ただし、「請負の場合の損害額と同水準とすべきだ」という学説による批判も有力で、今後、裁判で争われる論点の一つになると思われます。

請負と委任が混在する業務委託契約の場合、委託者側の都合で契約を解除する際の賠償額の目安や考え方について、契約締結時に特約を定めておくことが、紛争の防止に有用です。

 

[4] 契約の解除と危険負担
契約の解除と危険負担については、ボリュームがあるので次回ご紹介します。

契約が解除されると支払い義務もなくなります。請負の完成品について、完成から受領までの間に、天災や事故などで完成品が無くなったり故障したりした場合、支払い義務があるのか、ないのか、改正民法はデフォルトルールを定めています。

 

[5] 報酬に関するまとめ
定型的な契約書を使用している業界や大手企業との交渉において、契約の文言の変更は、担当者レベルではなく、法務部マターとなり交渉負荷が一気に高まることが多々あります。また外資系企業の日本法人が相手の場合、定型的な契約書の文言変更がほぼ不可能な場合もあります。

しかし、契約書とは別に報酬についての合意は、契約書の文言でなくとも、見積書や提案書に明記してもらいやすいものです。報酬の内訳を記載することも、契約不適合があった場合の減額請求の算出をスムーズにするでしょう。

契約交渉時のちょっとした工夫で、業務委託契約への相互の納得感を高め、将来発生するであろう紛争リスクを回避し、より生産性の高いアウトソーシングを実現して、コア業務の強みを伸ばしてください。

なお、本稿では、ずいぶんと省略をした部分もありますので、引用した文献の原典を参照していただく他、個別の法律関係につきましては、顧問弁護士などへのご相談をお勧めします。

 

※1 下記参考文献(7)潮見[2017]p.1

※2 下記参考文献(7)潮見[2017] p.3には、「私的自治の原則は、自己決定に基づく自己責任の原則、すなわち、みずからの生活関係を自らの意思により形成した個人は、みずからの意思により決定した結果に拘束され、責任を負担しなければならないとの原則を派生的に生み出します」と説明されています。

※3 下記参考文献(7)潮見[2017] p.245

※4 下記参考文献(7)潮見[2017] p.246には、このような拡大損害の例として「仕事を続けることにより獲得することができたであろう技術・経験を活用して、請負人が将来得ることができた営業利益の損失」の賠償を含む(416条の制約内)、と説明されています。この民法641条の規定自体は、今回改正されていません。

※5下記参考文献(7)潮見[2017] p.269-270,最判昭58・9・20

 

(1)債権法改正の基本方針 内田貴『債権法の新時代』(2009.9,商事法務)

基本方針の概要、諸外国の民法改正の動向に対する危機感などがわかりやすく説明されています。

(2)債権法改正の基本方針 潮見佳男『基本講義 債権各論<1>契約法・事務管理・不当利得』(2009.12,第2版,新世社)。

通説の代表的教科書で、本文中で適宜「債権法改正の基本方針」(民法(債権法)改正検討委員会の試案)の方向性について言及されています。

(3)中間試案 道垣内弘人『リーガルベイシス民法入門』(2014.1,初版,日本経済新聞社)

民法の入門書ですが、改正前民法の論点や通説を紹介したうえで、中間試案の方向性がコラム的に紹介されています。
民法への明文化が断念された中間試案についても、条文に近い形で記載されているため「隠れたルール」を把握する際にも有用です。

(4)中間試案 中田裕康『債権総論』(2013.8,第3版,岩波書店)

債権総論の教科書で、中間試案の内容が紹介されています。

(5)民法(債権関係)改正法案 潮見佳男『民法(債権関係)改正法案の概要』

逐条的に改正法案の条文と解説が紹介されています。立法担当者よりも一段深い法解釈が示され、条文の書きぶりについて、立証責任との関係での意味なども紹介されています。

(6)民法(債権関係)改正法案 大村敦志『新基本民法 債権編・契約編』(2016.7,初版,有斐閣)

4債権編と、5契約編は別の書籍です。文献紹介も詳しい民法の入門書で、通説と論点が紹介されたあと、改正法案が紹介されています。改正法の条文番号は案○条なっています。

(7)改正法成立後 潮見佳男『基本講義 債権各論<1>契約法・事務管理・不当利得』(2017.6,第3版,新世社)。

文献(2)の改正法対応版です。

(8)改正法成立後 道垣内弘人『リーガルベイシス民法入門』(2017.6,第2版,日本経済新聞社)

文献(3)の改正法対応版です。
その他、2017年5月の改正法成立を受けて、続々と新刊が刊行されています。

 

ライタープロフィール

鈴木 健治

鈴木 健治

弁理士・経営コンサルタント

特許事務所ケイバリュエーション 所長 ・経済産業省産構審小委員会の臨時委員、(財)知財研 知的財産の適切な活用のあり方に関する委員会委員、日本弁理士会中央知財研究所 知財信託部会の研究員などを歴任。 ・平成18年信託法改正時に法制審議会信託法部会を傍聴し、日本弁理士会での信託法改正に関するバックアップとなる委員会の委員長を務める。 ・著書に「知的財産権と信託」『信託法コンメンタール』(ぎょうせい)、論文に「知材重視経営を支えるツール群に関する一考察(月刊パテント)」などがある。 ・お取引先の要望に応じて、市場調査、ブランディング、従業員意識調査の統計分析などのコンサルティング業務も手掛けている。中小企業診断士が主体の「知的資産経営(IAbM)経営研究会」会員。 公式サイト:http://kval.jp/