【新シリーズ】日本人らしい新たな働き方を考えませんか?

新型コロナウイルス感染症の影響で、リモートワークを取り入れ始めた企業が増えています。リモートワーク導入企業からは「通勤時間や通勤ラッシュの身体的ストレスが軽減された」「格段に生産性が上がったように感じる」などの声が一段と大きく聞こえてくるようになりました。

しかしながら、他社からの噂や欧米企業の取り組みに憧れ、本質的な働き方を考えず、情報を鵜呑みにした状態で「リモートワークを導入しよう」という動きだけが先行しています。

完全なリモートワークは、日本人にぴったりな働き方なのでしょうか?本当に生産性は上がっているのでしょうか?働くことにやりがいを持てるのでしょうか。

一方で、出勤しなければ仕事ができない業種・職種の人がいます。その人たちへのケアやリモートへの移行は遅れているのが現状です。リモートワークができない職業に人たちを「エッセンシャルワーカー」などと呼び、リモートワーカーがエッセンシャルワーカーを区分けするような言葉もうまれています。

リモートワークで「生産性が上がった」との確証を得られていない上に、出社しなければ仕事ができない人たちへの対応がなされていない状態。こうした中でも「リモートワークがよい」という言葉は声高に叫ばれ続けているのです。

今回からスタートする新シリーズでは、日本人だからこその「アフターコロナの働き方」を考えていきます。まずは「リモートワーク推奨」と言われていることが本当によいことなのか、リモートワークは素晴らしいことなのか、いろんな視点でみていきましょう。

 

データで見る日本のリモートワークの実態

新型コロナウイルス感染症対策として導入が一気に進んだリモートワーク。これまではリモートワークに対する否定的な意見が大半を占めていたようですが、今やリモートワークを支持する意見が目立ってきているように感じられます。

しかし声の大きさに惑わされることなく、リモートワーク導入の実態を確認することは大切です。実際にどのくらいの企業がリモートワークを導入し、どのようなメリットや変化、デメリットを感じているのでしょうか?

 

リモートワークの習熟度によっては悪影響も

リモートワーク環境下では、ワーク・ライフ・バランスはどう変化しているのか。株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 組織行動研究所は、リモートワークによる「ワークの質」「ライフの質」「業務ストレス」への影響と改善要因を調査しています。

その結果によれば、リモートワークによりワーク・ライフ・バランスがどう変化したかという問いに対し、一番多かったのは「変化しない」タイプで40.3%、次いで「ライフの質のみ向上」するタイプで21.0%でした。
ここから読み取れることとしては、「ライフの質」が向上・改善したとしても「ワークの質」「業務ストレス」が改善しないことがある、ということです。

また、テレワーク歴が長く現在の実施頻度も高い群では、「ワークの質・ライフの質が共に向上、業務ストレス減少」タイプが増えている一方で、テレワーク歴が浅く現在の実施頻度が高い群では、「ワークの質・ライフの質が共に低下」タイプが多くなっています。
つまり、新型コロナウイルス感染症対策として、経験も準備もない中、急遽リモートワークを余儀なくされている人たちは「ワーク・ライフ・バランスを崩している」と読み取れるのです。

出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所「テレワーク緊急実態調査」

 

リモートワークにポジティブな意見は「通勤時間の削減・自由な時間の増加」

次に、リモートワークに対するポジティブな意見、ネガティブな意見を見ていきましょう。国土交通省の「テレワーク人口実態調査」によれば、以下のような意見が出ています。

出典:国土交通省「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査」

 

■ポジティブな意見

・通勤時間・移動時間が減った
・自由に使える時間が増えた
・業務の効率が上がった
・家族と過ごす時間が増えた
・突発的な事態へ対応できた

■ネガティブな意見

・仕事時間(残業時間)が増えた
・業務の効率が下がった
・職場に出勤している人に迷惑をかけた
・出勤している人とコミュニケーションが取りづらかった
・職場に出勤している人に気兼ねした
・職場にいないため、疎外感・孤独感を感じた

ポジティブな意見中でも特徴的なのが「通勤時間・移動時間が減った」と回答した人の割合が53.4%と最も高く、次いで「自由に使える時間が増えた」という回答が50.6%ということです。
このことからも、リモートワークによって単に自由な時間が増えただけであり、生産性が向上したり業務の成績が伸びたりといった、直接的な業務へのプラス効果は少なかったのではないか、と考えられます。

では、ネガティブな意見のうち、業務の効率が下がったと回答している要因は何でしょうか。

■業務効率が下がった要因

・ハンコや書類提出が必要
・紙の資料が手元にない
・社内サーバーへのアクセス権限がない
・回線スピードが遅い
・個人情報を持ち出せない
・顧客とのコミュニケーションに苦労する
・机、椅子、モニターなどの設備面で支障がある

上記のような生産性向上を妨げる要因が残っている中で、リモートワークを実施したところでプラスの効果はないということは分かります。感染症対策の一環で半強制的にリモートワークを導入した企業では、より業務効率が下がっているのではないでしょうか。

リモートワークを実施する企業側のメリットとして、オフィスの維持費や従業員の交通費の削減といったコスト面も上げられますが、そのコストを削ってまでリモートワークを導入すべきものなのか、考えておく必要があります。

 

全面リモートワーク化推奨に待った!日本人らしい働き方とは

出社するよりもリモートワークの方が良い、というプラスの効果が得られにくい中で、「オフィスは不要!リモートワークで仕事はできる!」との声が目立っているように感じられるのはなぜなのでしょうか。

そのような声が大きく聞こえるのは、実は欧米の考え方に憧れているだけ、鵜呑みにしているだけなのかもしれません。欧米の企業がリモートワークを推奨しているのか、どのように活用しているのかをみていきましょう。

 

リモートワークとオフィスワークに揺れる最先端企業

リモートワークの先駆者ともいえるIBMですが、2017年5月にリモートワークの廃止を発表し、従業員に「オフィス勤務か退職か」という二択を突きつけています。IBMがリモートワークを廃止した理由は、社員間のコミュニケーション不足でした。リモートワークは個人で完結する仕事を行う上では効率が良いですが、チーム一丸となって業務を推進させる働き方には向いていません。社員間の密なコミュニケーションや信頼関係により、新たなビジネスやイノベーションが生まれると考えられています。そのためにはオフィスで顔を合わせて仕事をすることが必要だとIBMは判断したのです。

一方、GoogleやAppleは、リモートワークを推奨していません。むしろオフィス環境を快適にすることで、従業員にオフィスで働くことのメリットをアピールしています。ただ、Googleは新型コロナウイルス感染症の流行を受けて、リモートワークを継続しつつも、オフィスに戻るかどうかは任意、出社する必要がある人は出社可能だ、というスタンスを表明。Appleは感染症が収束してきたことを受けて、オフィスに従業員を呼び戻し始めています。

このような判断が最先端の企業から生まれているということは、業務やコミュニケーションの全てをリモートワークで賄えるわけではないという証明でもあります。
リモートワークの是非を白黒はっきりさせるのではなく、職種や職域によって働く場所を選べる環境を会社が提供しているスタンスは、日本の企業にも合うのではないでしょうか。

 

「日本人らしい」働き方はリモートワークなのか?

仕事において「協調性」が大事だとされている中で、社員間で良好な関係が築けているかは重要です。直接顔を合わせることで、脳は一連の非言語的な表現を解析します。相手の口調や表情、動きから、言葉の裏にあるあらゆる感情的なニュアンスを理解しているのです。

日本人は特に、相手が自分の考えをどう思ったかを読み取るとき、相手からの瞬発的な非言語の反応に頼っています。このような日本人の性格も踏まえて考えると、欧米の先進企業以上にリモートワークだけで仕事を完結させるのは難しいのではないでしょうか。

先ほど見たデータによると、感染症対策の影響でリモートワークを導入し、メリットを感じている人たちもいます。ただ、現時点では導入して期間が短いこともあり効果を感じられているだけで、IBMやヤフーの事例を見るといずれは上手くいかなくなる可能性も高いです。

また、完全にリモートワークになれば成果主義で評価されます。同僚からの評価や数字に表せられない活動や努力などは評価されなくなります。完全に目標を達成したかどうか、売上利益に貢献したかどうか、そういったあまり日本人に馴染みがなく、受け入れ難い評価の仕方で評価されることになっていくことでしょう。

他にもオフィスや現場で他の社員と話をしたりランチを共にしたりといった、会話が生まれる時間もなくなります。そういった普段の会話から情報が拡張されたり、新しいアイディア・工夫が生まれるケースも少なくないはずですが、そういった時間が削られていきます。

コミュニケーションがシンプルになる分、時間的な余裕が生まれることは間違いありませんが、その結果、生産性が上がり、給料も上がり、おまけに精神的にも身体的にも健康で、家族も幸せである状態になるのでしょうか。これまでリモートワークが積極的に導入されてこなかった理由がまだ他にありそうです。

 

リモートワークの「落とし穴」を解決できるか

冒頭で「エッセンシャルワーカー」について触れました。先ほどまで見てきた日本人の性格だけでなく、業種・職種の観点からもリモートワークが難しい状況にあるのも事実です。

 

リモートワークしたくても出来ない業種・職種がある

リモートワークができないからやむを得ず出社している人たちがいます。IT系である情報通信業は問題なくリモートワークが実施できる環境にありますが、対面でサービスを提供する業務においてはリモートワークが難しいです。

出典:国土交通省「平成31年度(令和元年度)テレワーク人口実態調査」

上記の調査結果からも、特に医療・福祉、宿泊業・飲食業で特にリモートワーク導入が進んでいないことが分かります。対面や現場でサービス提供が必要な人たちは、リモートワークが不可能に近いのです。

安倍首相が「職場に出勤する場合でも、時差出勤、自転車通勤など、人との交わりを低減するように」と述べていましたが、そもそも「対面でないと仕事ができない」という人たちが大勢います。リモートワークが良い、との声を鵜呑みにする前に、接客業や医療、事務を仕事にしている人たちはどうすればよいのか、考える必要があります。

 

デジタル化によって解決できる一面もある

こうした「リモートワークしたくても出来ない」職種の人たちは、今後リモートワークが不可能なままなのか、と言われるとそうでもありません。

デジタルトランスフォーメーションで解決できる可能性もあります。デジタルトランスフォーメーションとは、ITの浸透によって生活があらゆる面で良い方向に変化させるという概念のこと。つまりは、対面で行っていたサービスや業務の一部をデジタル化することで、よりよい働き方に変化させる取り組みを指します。

医療現場においてはオンライン診療サービスが生まれ、今後浸透していけば医者も患者も外出することなく診療ができる可能性があります。宿泊業でもAIやロボットが代わりに受付や清掃を行うホテルも出てきており、人員を減らして運営でき始めています。

また事務作業の領域では、電子署名のサービスにより印鑑や書類提出を不要としたり、勤怠管理・給与計算システムによりオンライン上で集計・計算を完結させたりすることが出来ています。これらが浸透していけば、バックオフィス担当の社員が出社をせずともリモートワークで作業を進めることが可能になります。

必ずしもデジタルトランスフォーメーションをしていかなければならない、というわけではなく、こうした考え方があることを踏まえながら、どうすれば働きやすくできるのかを考えてみることが大切です。

 

改めて、オフィスで働くことの重要性とは

新型コロナウイルス感染症対策やデジタルトランスフォーメーションによって「オフィス不要論」が強まりますが、オフィスで働くことでどんなメリットがあるのかを押さえた上で考えを深めておきたいものです。

 

顔を合わせることに意味があるのでは?

リモートワークでは実現しにくい、オフィスだからこそできることは何でしょうか。出社すれば社員同士が顔を合わせて仕事を進めることができます。その結果、以下のような効用があると考えられています。

・信頼関係の構築
・コミュニケーション量の増加
・モチベーションの向上
・企業理念・企業文化の醸成

オフィスに集まって仕事をすることで生まれる一体感は、リモートワークでは醸成しにくいもの。同じ場所にいることで自然に生まれるコミュニケーションもありますし、何気ない会話からビジネスが一気に進む可能性もあります。

また、一人で仕事をしていると気が緩んでしまったり、存在が認められていない感覚に陥ったりしてしまいます。集団の中でこそ力を発揮できる場合もあるのです。

顔を合わせるためだけに出社するのは意味がない、との声も聞こえてきそうですが、顔を合わせるだけで生まれる仲間意識や信頼関係の先に生まれる成果を考えれば、大きなメリットと言えるのではないでしょうか。

 

出社せずに仕事をするのが難しい新卒社員・専門職

新型コロナウイルス感染症の影響で、リモートワークでの仕事始めを余儀なくされた2020年4月入社の新卒社員も多いです。しかし採用して間もない社員にリモートワークをさせることは無理があるように感じられます。

信頼関係が構築されていない状態のまま、リモートワークで仕事が始まってしまえば、仕事への取り組みが上司と部下の双方が見えづらかったり、コミュニケーションを取りづらかったりして、生産性が上がりにくくなります。

また、専門的な仕事をしている人がリモートワークを始めても、結局業務に必要なものがオフィスにあることも多く、そう簡単には切り替えにくいものです。こうした一面があることも念頭に置きながら、オフィスで働くことの意味を考えてみることが大切です。

 

良し悪しではない、日本人らしい働き方を模索していきましょう!

どのような働き方が日本人にとって良いのか悪いのか、を考えて最適な働き方を決めて統一することは、かなり難しいことだということが、これまでの話で伝わっていれば幸いです。

そうはいっても、実際にどう働くのがよいのか、考えてしまいますよね。このときに考えてみてほしいのが、「リモートワークであれば生産性が上がる」という話が誰目線で語られているのか、ということです。

これまで紹介してきた調査結果によれば、リモートワークでの生産性向上を感じるには、まだまだ習熟度が足りていません。しかし今後、社員の業務の質やストレスが改善し、生産性向上を謳った先に、顧客が満足しているのか、という観点を忘れずにリモートワークの良し悪しを考えたいものです。

現時点では「通勤時間・移動時間が減った」「自由に使える時間が増えた」というメリットが上位に来ています。しかしこれがリモートワークの本質的なメリットではないはずです。

本シリーズでは、ニュースやネットの情報を鵜呑みにせず、自身でしっかりと考えられる情報を提供していきます。ぜひ一緒に日本人らしい新たな働き方を考えていきましょう。

 

 

ライタープロフィール

パプリカ

パプリカ

外資系総合商社と総合マーケティング支援会社にて法人向け営業職を経験。 世の中にあふれる情報をかんたんにわかりやすく、一人ひとりに合ったかたちで伝えることをミッションに活動中。