前回は、「人事制度企画立案」について説明しました。今回は、「能力開発機能」を説明します。
人材の能力開発は、企業の競争力の源泉になる
企業が現在保有している経営資産であるヒトの能力開発も人事部門が担う重要な業務です。
いかなる企業であっても設備を保有しています。製造業であれば工場設備を保有していますし、そこまで大規模な設備でなくても、企業であればIT機器を少なからず保有しています。
こうした物的設備は、いわば企業の“モノ”の経営資源です。そして、この経営資源は時間と共に陳腐化し、その価値が減退していくものです。このため、企業はその陳腐化を減価償却によって資産の目減りを財務諸表に表し、あるいはその陳腐化を避けるために新規の設備投資を繰り返します。そうしないと、企業としての競争力が落ちていくことになるからです。
このように“ヒト”と同じ経営資源である“モノ”については、比較的イメージしやすいと思いますが、ヒトの能力開発も実はこれと同様に理解することができるのです。“ヒト”の経営資源は減価償却することはできませんが、“ヒト”も“モノ”と同様に新たな知見や市場の動静に応じて常に陳腐化を避けていかないと、企業としての競争力が落ちていくことになります。だからこそ、人事部門の仕事には社員の能力開発があるのです。
この能力開発は、企業が「社員に能力開発してもらいたい分野」があることが前提となります。“ヒト”は必ずしも押しつけのみでは動きません。したがって、企業は社内公募制度によって、ある分野の能力開発に関心のある社員を選抜し、その社員の中から適切な人選を行ったり、キャリア意識の高い社員であれば誰もが羨むような海外ビジネススクールへの留学の仕組みを整えて、社員間で自ら競争し自己啓発に取り組むしかけを構築します。
こうした能力開発は社員の競争を促し、企業外から新たな知見を社内に取り込む仕組みを通じて、結果としてヒトの経営資源の効率化を目指すものになります。しかし、工場設備(モノ)にも新規の設備投資ばかりではなく、日ごろからのメンテナンスが求められるのと同様に、ヒトにもまた能力開発を求めるのみではなく、日ごろからのメンテナンスが求められます。このヒトに対するメンテナンスについて中心的な役割を果たす機能が人事担当者の「労務管理機能」となります。
次回はこの人事部門の「労務管理機能」について引き続き説明していくことにします。