労務管理の仕事は社員に心地よく働いてもらうこと|人事担当者の仕事と役割 6

人事担当者と従業員

人事部門の仕事として、これまで「採用」「処遇決定」「人事制度企画立案」「能力開発」について見てきました。今回は、「労務管理」の説明をします。

企業が保有する「工場設備」にたとえていうならば、前回の「能力開発」は人材の“イノベーション”に相当するものですが、「労務管理」は人材の“メンテナンス”に相当します。

なお、人によってはこの「労務管理」の意味を広くとらえて、「労務管理=人事の仕事」として解説されているものもありますが、ここでは以下の5点を労務管理と呼ぶことにします。

 

・労働時間管理(有給残管理、代休、振替休日などの休日管理と作業効率性の調査などの職務分析を含む)
・給与計算業務
・安全衛生管理
・社員のライフイベントに沿って生じる必要な諸手続きの管理
・労使関係管理

 

それでは、1つずつ見ていきましょう。

 

■労働時間を管理して適切なワークライフバランスを

① 労働時間管理(労働時間に潜むリスク)
労働時間管理は、これまで何度も取り沙汰されるも、数回にわたって審議入りが延期されているホワイトカラーエグゼンプション(ホワイトカラー層の労働者の労働時間規制適用除外制度)をみても関心の高い分野だと思われます。

また、昨今では国も過重労働対策(※1)について本腰を入れてきています。2015年4月には東京労働局と大阪労働局に「過重労働撲滅特別対策班」(通称“かとく”)が結成され、これまで各労働基準監督署では対応が難しかった悪質な違法残業についての取り締まりが強化されました。

 

※1「過重労働」とは、必ずしも労働時間が長い場合だけではなく、たとえ労働時間が短かったとしても精神的な負荷の大きな労働も含みます。また、精神的な負荷の大小は個々の労働者毎に差がありますから絶対的な基準があるわけではないことが労務管理上の難しさにもつながっています。

 

現在のところ、労働基準法には法定労働時間の定め(法32条)があり、原則として1日8時間、1週あたり40時間を超える労働時間をさせることはできないことになっています。

もしもこれを超えて労働者に残業を命じる場合には「時間外・休日労働に関する協定」(いわゆる“36協定(サブロク協定)”)を締結します。そしてそれぞれの会社が、残業が生じる理由を添えて、たとえば「1日ついては〇時間まで」「1ヶ月については〇時間まで」「1年については〇時間まで」といった残業時間の上限の届出を、会社を管轄する労働基準監督署へ提出する必要があります。

上記“かとく”による書類送検の例を見てみます。

会社と労働者間で36協定は締結されているにも関わらず、送検されたケースがあります。主な理由は以下の2点だと考えられます。

・協定の中で約束されている残業時間の上限を大幅に超えていたこと
・度重なる管轄労働基準監督署からの是正勧告にも関わらず改善が見受けられなかったこと

こうした労働基準法違反には「6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金」の罰則の適用があります。ひとたび罰則の適用がなされると、罰則そのものの不利益はもちろんですが、それ以上に企業としての社会的信用が失墜します。結果的に、その後の事業活動や採用活動には回復しがたい多大な損害が発生させることとなるでしょう。

さらに、労働時間が長いことは、労災認定のリスクを増すことにもつながります。労働時間が長ければ長いほど、脳・心臓疾患の罹患リスクが高まることは疫学的に実証されています。また、精神疾患の罹患件数は、必ずしも労働時間の長さと比例するものとはいえませんが、無縁ではないと考えられます。

過重労働の結果、うつ病になり自殺にいたってしまった事件は、残念ながら耳にします。このような場合には会社側の安全配慮義務違反が認められ、損害賠償を払うケースがあります。このように、労働管理は会社のリスク管理とも関係しているのです。

このため、労務管理担当者が、各部署からレポートされる一定の期間(月間の労働時間や賃金計算期間ごとに期間設定されることが多い)の残業時間を精査し、たとえば45時間を超える残業を行っている労働者については個別に面談の場を設定し、なぜ長時間労働の事態を招いているのかヒアリングを実施する企業が増えてきています。

必要に応じて、作業効率の面に問題があるのか、担当している業務の量が多いのかを職務分析を行うことがあります。また、労働時間の多さは、同時に職場内のコミュニケーションロスに原因があることも多く、労務管理担当者にはヒトの有効活用の観点から高度なヒアリング能力と事実分析の能力が求められます。

 

② 日管理(法定休日、有給残、代休・振替休日)
労働時間の管理は「ちゃんと休めているか?」という休日管理にもつながります。休めていないことは長時間労働の状態に陥っている可能性が高いといえるからです。

労働基準法では、原則として毎週少なくとも1日か、4週を通じて4日間の休日を確保しなければならないことになっています(法35条)。

法定休日に労働すると、通常の賃金よりも35%以上の割増率で賃金を支払う必要が生じますから、企業としては多大なコスト増にもつながります。

また、日本人は働き過ぎで諸外国に比べて有給取得率が低いことが指摘されることがあります。有給残については、国際会計基準の見直しの議論から、近い将来、企業会計上「負債」として認識される可能性があるとも聞きますから、日本企業にとっては憂慮すべき事項です(ただし筆者としては、日本は諸外国に比べて祝祭日が多いので有給消化率のみに着目するはいかがなものかと考えています)。

会社の中には予定された休みの取得ができなかった社員に対して、休日出勤したかわりに代休や振替休日を付与することがあります。
なお、よく誤解があるのですが、この代休や振替休日は法律上の義務ではありません。36協定が締結されているのであれば、協定の範囲内で休日労働を命じることは違法ではなく、割増賃金を支払う必要があるのみです。

「代休」と「振替休日」の日は、休日労働した日とある程度近いことが好ましいとされています。休日労働するということは、多忙な状況にあるということですから、労務管理の担当者としては、なるべく速やかに「代休」「振替休日」(※2)の消化を促進させることも重要な業務だと言えるでしょう。

 

※2 「代休」と「振替休日」とは、法的に意味が異なります。前者については割増賃金の支払いが必要になることが多く、後者については割増賃金の支払い義務が生じないこともありえます。

 

■給与計算は正確性とスピードの両立が大事

給与を支給する際、労働保険料徴収法、健康保険法、厚生年金保険法、所得税法などの各法にて明細を発行すべきことが求められています。
社員によっては、給与明細など見ずに、通帳に記帳されている振込金額にだけ着目される方もいらっしゃいますが、給与明細は法定の大切な書面です。

給与計算業務は、一般的には次のように行われます。

・基本給や諸手当などの支給総額に雇用保険料率をかけて雇用保険料の労働者負担分を算出して天引き
・毎月の概ねの支給総額をもとに算出されている額(これを「標準報酬月額」といいます)をもとに健康保険料、介護保険料(原則として40歳以上の人)、厚生年金保険料の天引き
・各保険料などの天引き後の金額(これを「課税所得」といいます)に基づいて、扶養家族数などによって相違のある源泉徴収(いわゆる所得税の天引き)。

このとき、非課税通勤費など「総支給額」には含まれても「課税所得」とはならない支給項目もあることには注意が必要です。

また、給与明細には会社によって、所定勤務日数と出勤日数、所定労働時間と出勤時間、
普通残業時間、深夜労働時間、休日労働時間、有給取得日数と有給残などの明記がなされることもあります。

これらの残業手当や有給管理は、今ではほとんどがシステムによって自動集計されます。しかしまだ多くの中小企業においては、勤務記録から根拠となるデータを拾って算出される地道な作業であることが多く、地味ですが正確性とスピードが要求される責任の重い業務です。

 

■社員の健康に気を配る安全衛生管理

安全衛生管理のメインの職務は労働安全衛生法に基づく各種の健康診断の実施などです。

一般的には1年以内に1回実施される定期健康診断(安衛則44条)があります。
この定期健康診断は「常時使用する労働者」が実施の対象となりますが、必ずしもフルタイムの正社員だけとは限らない点に注意が必要です。
パートタイマーであったとしても1週間の所定労働時間がフルタイム社員の4分の3以上であったりする場合や、有期労働契約を締結している者であったとしても1年以上使用されることが予定されている者については、「常時使用される労働者」と考えられることがあります(平成19年10月1日基発第1001016号)。

また、近年の精神疾患の増加を踏まえて、2015年12月からは新たにストレスチェック制度も導入されました。
ストレスチェック制度は常時50人以上の労働者を雇用する企業に実施義務が課せられ、常時50人未満の企業は努力義務とされています。

しかし、企業としての安全配慮義務の重要性は労災リスクを考えると、簡易な形であったとしても実施することが望ましいです。チェック票(※3)から心配が持たれた社員については、積極的に個別面談などを通じて対策を講じます。

なお、職場におけるストレスは長時間労働に起因することもあれば、パワハラ、セクハラ、マタハラといった各種のハラスメントに起因することもあります。したがって、ストレスを感じている社員が、自身の現状を正直に表明できるような措置(可能であれば外部の検査機関を利用するなど)を講じることが重要です。

 

※3 ストレスチェックに関するチェック票は厚生労働省のホームページ上でも公開されれています。詳しくはこちらのサイをご覧ください。

 

■社員のライフイベントに沿って生じる必要な諸手続きの管理

労務管理の仕事は、社員のライフイベントに向き合う仕事でもあります。

たとえば、

・社員が引っ越ししたら通勤手当の変更届や通勤経路についての申告をしてもらう
・給与の変動に合わせて各種の保険料の見直しを実施する
・結婚や出産をきっかけとした氏名の変更手続き
・同じく結婚や出産をきっかけとした扶養家族数の異動に応じて社員台帳の変更(これによって源泉徴収税や健康保険証の発行事務など広く影響が及ぶ)
・出産手当金、育児休業給付金、保険料免除の申請、傷病手当金、各種労災保険の保険給付の申請、離職票の発行、再就職手当受給のための証明

といったライフイベントに応じて対応する必要があるのです。

 

■労使関係管理で働きやすい職場を実現する

労務管理の担当者には、会社によって労働組合の長などの代表者との団体交渉に応じたり、妥結結果を労働協約に取りまとめて、労働条件について各種の合意を交わすなど、労使協調体制を目指す役割が求められることもあります。

そのほか、コンプライアンスや組織内に生じる各種のハラスメントなどの違法行為対策として苦情処理制度を設けたり、社員の待遇改善(社員の休憩室の整備や会社の保養所設置など)に向けた人事処遇部門との連携業務など個々の従業員の福利厚生の向上や会社に対する不満を取り除くような施策についても期待がなされています。

 

■人事の仕事はたくさんあって、どれも面白い 

これまでみてきたように、「人事部門の仕事」と一口に言っても、そこには様々な役割と機能があります。そして、そのどれをとっても、企業が発展していくためには欠かすことのできない重要な業務です。

本稿で整理した人事部門の仕事内容は、あくまで人事の職務を「機能面」から整理したものですから、企業によっては、一つの部署または担当者が複数の機能を担当していたり、あるいは部署としては「〇〇営業部」であるが、人事の機能のうちの一部(例えば処遇決定機能)を担うケースもありえます。

 

ライタープロフィール

横井 祐

横井 祐

特定社会保険労務士兼DCプランナー

特定社会保険労務士、DC(Defined Contribution Plan 確定拠出型年金)プランナー。自動車メーカー系総合商社、ベネッセスタイルケアを経て2010年ヨコイ・マネジメントパートナーズ設立。 2015年度厚生労働省過重労働対策セミナー&労働条件相談ホットライン検討委員会メンバー。 介護保険、人事マネジメントに関する書籍等の執筆、社会保険労務士業、経営コンサルティングサービスなどで全国各地の顧問先のお客様と日々奮闘中。